ニデックの社長交代をめぐる報道が、再び同社の「次の経営」を問い直している。ロイターは9月28日、日本経済新聞の報道として、代表取締役社長執行役員兼最高経営責任者(CEO)の岸田光哉(きしだ・みつや)氏が辞任する見通しで、早ければ9月29日にも辞意を提出する可能性があると伝えた。報道時点で理由や後任は明らかになっていない。[1]

重要なのは、現時点で会社発表が確認できていないことだ。ニデックの公式役員ページは9月29日朝の時点でも、岸田氏を「代表取締役社長執行役員 最高経営責任者」と掲載している。従って、本稿は辞任を確定事項として扱わない。[2]

それでも、この報道が重く受け止められる理由は明快だ。ニデックは創業者・永守重信氏への依存から脱し、制度による経営へ移行することを長年の課題としてきた。その最中に会計問題が表面化し、東京証券取引所から「特別注意銘柄」に指定され、2026年には経営陣の大幅な刷新を進めた。岸田氏は、その改革を進める中心人物として残った数少ない最高幹部の一人だったからだ。[3]

会社はなお岸田氏をCEOとして掲載

ニデックの公式プロフィールによれば、岸田氏は1960年2月7日生まれ、香川県出身。京都大学教育学部を卒業後、1983年にソニーへ入社した。商品企画、生産、モバイル事業などを経験し、2018年にはソニーモバイルコミュニケーションズ代表取締役社長、2021年にはソニー常務を務めた。2022年1月に当時の日本電産へ入り、常務執行役員、専務執行役員、副社長執行役員を経て、2024年4月に社長執行役員兼CEOとなった。6月には代表取締役に就任した。[4]

2024年2月の社長交代発表では、同社は岸田氏の選任について、指名委員会で審議し、取締役会がサクセッションプランと選任基準に基づいて決議したと説明した。永守氏は代表取締役グローバルグループ代表となり、「創業精神の継承」とM&Aなどで新体制を支える位置付けだった。[5]

ニデックが直面しているのは、「誰が社長になるか」だけではない。創業者の強い求心力に依存してきた企業が、交代可能で説明可能な経営制度を本当に作れるかという問題だ。

創業者依存は、会社自身が「リスク」と認めている

ニデックはIR資料の「事業等のリスク」で、創業者・永守重信氏の能力と手腕に成長が大きく依存してきたことを明示し、適切な後継経営者を育成できなければ事業、業績、財政状態に悪影響を及ぼす可能性があると記載している。対策として、グループ内の重要ポストを可視化し、経営人材候補の発掘・育成・登用を進めるとしている。[6]

企業が自ら「後継者リスク」を書くのは、単なる形式ではない。ニデックでは実際に、創業者の後を誰が担うかをめぐる経営体制の変更が繰り返されてきた。

2020年、関潤氏を外部から招いた

2020年、当時の日本電産は日産自動車出身の関潤(せき・じゅん)氏を社長執行役員に起用した。会社はその理由を、2030年売上高10兆円に向けた「経営体制の一層の強化充実」と説明した。関氏は日産で専務執行役員、副最高執行責任者などを務めた人物で、外部から大型製造業の経営経験を持ち込む人事だった。[7]

しかし2022年9月、関氏は代表取締役社長執行役員を辞任した。ニデックが公表した辞任理由は「業績悪化の責任をとるため」。後任には、1973年の会社設立に参加した小部博志(こべ・ひろし)氏が就いた。[8]

この交代は、ニデックのサクセッションが単線的ではないことを示した。外部経営者への移行を試みた後、創業メンバーに経営の重心を戻し、その後、再び外部企業出身の岸田氏へバトンを渡したからだ。

岸田体制が掲げた「創業者のカリスマに依存しない」経営

岸田氏自身は、2024年の社長就任後、グループ10万人規模を一体化する「集団経営」を打ち出した。ニデックのサステナビリティ資料では、「創業者のカリスマに依存することなく」100年を超えて成長する企業を目指す趣旨を明記している。[9]

2025年にはチーフオフィサー制を強化し、最高財務責任者、最高法務責任者、最高デジタル責任者など機能別の責任体制を整えた。会社はこれを、創業者の強力なリーダーシップに依存する経営から、組織としての経営へ移る取り組みと位置付けた。[10]

ところが、その移行期に会計問題が経営の最重要課題となった。

会計問題で「新生ニデック」改革へ

ニデックは2025年9月、グループ内の不適切な会計処理の疑いを調べる第三者委員会を設置した。東京証券取引所は同年10月28日、内部管理体制などの改善必要性が高いとして、ニデック株を「特別注意銘柄」に指定した。[11]

第三者委員会は2026年2月に中間的な調査報告を出し、4月17日に最終報告を提出した。会社は、複数拠点で会計上の不正・誤りが認定されたとして改善計画を改訂し、ガバナンスと企業風土の刷新を進めている。[12]

3月3日には、会長、執行副社長、最高財務責任者(CFO)など主要幹部が退任した。一方、岸田氏は社長兼CEOに残り、会社が内部管理体制確認書を提出する予定の2026年10月末まで基本報酬を100%返上する措置を取った。[13]

6月18日時点の取締役会は13人で、うち10人が社外取締役。取締役会議長も社外取締役が務める。これは、かつての創業者中心の経営と比べれば、監督機能を外部に開く方向への大きな変化だ。[14]

創業53年、モーター会社から巨大産業グループへ

ニデックは1973年7月、永守氏が京都で3人の仲間と設立した。資本金2,000万円、プレハブ小屋から始まり、小型精密モーターを足場に成長した。現在は精密小型モーターだけでなく、車載、家電、商業・産業用モーター、機器装置、電子・光学部品まで事業を広げている。[15]

会社概要によると、2025年3月期の連結売上高は2兆6,070億94百万円、連結従業員数は10万4,285人。東京証券取引所プライム市場に上場し、証券コードは6594。いまや後継者問題は、一人の創業者の引退時期ではなく、世界規模のサプライチェーンと10万人超の組織を誰がどの制度で統治するのかという問題になっている。[16]

次に確認すべき三つの点

第一は、辞任報道が正式決定になるかだ。9月29日午前の時点で、ニデックの公式役員ページは岸田氏をCEOとしている。会社から適時開示が出れば、辞任日、理由、代表権の扱いを確認する必要がある。

第二は後任だ。ニデックは2026年9月1日現在、執行役員層に技術、車載、AI&IT、法務、デジタル、品質、グローバル事業の責任者を配置している。しかし、社長後継について公式発表は確認できていない。[17]

第三は改革の継続性である。10月末には、特別注意銘柄指定から1年を迎える。東京証券取引所の審査では、内部管理体制が適切に整備・運用されているかが焦点となる。トップ交代がこの時期に重なれば、投資家や取引先が見るのは名前だけではない。改革計画が人に依存せず続く仕組みになっているかどうかだ。

ニデックは、モーターを「回るもの、動くもの」の中核技術として世界企業に成長した。その会社自身がいま、経営の回転軸を作り直している。岸田氏の辞任報道が事実となるなら、次の社長選びは、創業者からの継承という長年の課題と、会計問題からの信頼回復という現在の課題が交差する人事になる。

そして、その評価は「誰を選んだか」だけではなく、「なぜ選び、誰が監督し、どの制度で説明責任を果たすか」で決まる。