行政のデジタル化は、オンライン申請を一つ増やせば終わる仕事ではない。住民票、税、福祉、防災、庁内決裁、情報セキュリティ、職員研修――それぞれの部署が個別にシステムを入れても、町全体として優先順位が揃わなければ「DX」は細切れになる。
宮城県利府町は2026年10月5日、NTT東日本株式会社 宮城事業部 宮城支店の小野木大輔(おのき・だいすけ)担当課長を、町のCIO補佐官に委嘱した。小野木氏は2022年5月から約4年半、DX推進アドバイザーとして利府町を支援してきた。新しい肩書きは、同じ民間人材を単なる技術助言者から、町全体の情報化戦略を横断的に支える役割へ引き上げる。
4年半の「伴走」が、なぜCIO補佐官になったのか
利府町とNTT東日本の関係は、今回突然始まったものではない。両者は2021年7月、「地域活力の創出に向けた多分野連携協定」を締結した。2022年5月からNTT東日本社員が町に入り、DX推進アドバイザーとして各部署の業務改善やデジタル活用を支援してきた。
NTT東日本の10月5日発表は、4年半の支援で各部署のデジタル活用が進んだ一方、次の課題が生まれたと説明する。個別施策を町全体の方針のもとで整理し、優先順位を付け、部署横断で進める体制が必要になった。つまり、問題が「デジタル技術を知る人がいない」から、「どの施策を先にやるかを町全体で決める人が必要」へ変わった。
利府町はもともと「外部人材を使う」と計画に書いていた
利府町のDXは、企業との連携だけで後付けされたものではない。町のDX推進計画は、総合計画と行政改革大綱をICT面から支える位置づけを明示し、推進体制として「外部人材の活用、内部人材の育成、PDCAサイクルによる施策の見直し」を掲げている。
重点項目には、自治体情報システムの標準化・共通化、行政手続のオンライン化、マイナンバーカード、AI・RPA、テレワーク、セキュリティ、デジタルデバイド対策、BPR、オープンデータなどが並ぶ。町は2026年度にも新しいDX推進計画を策定し、行政サービス向上と業務効率化を引き続き総合計画の下支えと位置づけた。
「まもりふ」から生成AIまで
利府町では、DXがすでに住民向けサービスへ表れている。2025年3月に運用を始めた防災アプリ「まもりふ」は、防災行政無線と連携し、津波情報、緊急地震速報、Jアラートなどをスマートフォンへ通知し、文字や音声で確認できる仕組みを備える。
町の国土強靱化計画でも、「まもりふ」の登録拡大や、防災デジタルプラットフォームの構築、国・県システムとの情報連携を掲げる。同計画はまた、DX推進アドバイザーなど外部人材を活用しながらデジタル人材育成を続ける必要性を明記している。
地元テレビ局は、小野木氏がこれまで生成AIの導入や防災アプリ開発など町のDXを支援してきたと報じている。10月5日には町役場に、住民票の写しなどを発行できるオンライン端末も設置されたと報道された。こうした個別プロジェクトを次に「全庁の戦略」へまとめるのがCIO補佐官の役割になる。
CIO補佐官とは何をする人か
CIOはChief Information Officer、情報化統括責任者。自治体では、副市長・副町長級をCIOに置く例が多い。CIO補佐官はその執行を専門面から助ける。利府町の場合、CIOである副町長への助言、部署横断の調整、全体方針に沿ったDX施策の整理・優先順位付けが中心になる。
これは「システム部門の責任者」とは少し違う。自治体DXでは、技術より先に業務を変えなければならないことが多い。紙の申請をそのままオンラインフォームへ移すだけでは、職員側に紙への転記が残れば効率化しない。窓口をデジタル化するなら、住民が何度も同じ情報を書かないよう業務フローそのものを見直す必要がある。
国も「BPRとシステムはセット」と言う
デジタル庁は自治体窓口DXで、「書かない、待たない、回らない、ワンストップ窓口」を掲げる。その支援制度では、システム導入だけではなくBPR(Business Process Re-engineering、業務改革)を必須の前準備と位置づけ、自治体へアドバイザーを派遣している。
これは利府町が直面した「部署ごとのデジタル化から全庁DXへ」という問題と重なる。デジタル庁の自治体DXダッシュボードも、CIOの任命、CIO補佐官等の任命、全庁横断体制、外部デジタル人材活用、職員育成を別々の指標として追跡している。国の政策自体が、自治体DXをIT調達ではなく組織能力の問題として扱っている。
民間人材を入れるメリット
人口3万5,000人規模の町が、クラウド、AI、RPA、セキュリティ、ネットワーク、データ連携、調達制度までをすべて庁内人材だけでカバーするのは難しい。民間企業の技術者を活用すれば、他の自治体・企業で得た知識を持ち込み、技術選定やプロジェクト管理を補える。
さらに、同じ人物が4年半継続して町の各部署に入っていることには、短期コンサルティングとは違う意味がある。自治体の業務は、条例、予算、議会、年度、国の制度変更などに強く縛られる。外部人材が本当に役立つには、技術知識だけでなく、「この町では誰が何を決めるのか」を理解する時間が必要だ。
| 項目 | 確認できた内容 |
|---|---|
| 就任者 | 小野木 大輔(おのき だいすけ) |
| NTT東日本での役職 | 宮城事業部 宮城支店 ビジネスイノベーション部 地域基盤ビジネス担当 担当課長 |
| 利府町での役割 | CIO補佐官 兼 DX推進アドバイザー |
| 委嘱日 | 2026年10月5日 |
| 任期 | 2027年3月31日まで。次年度以降は覚書更新により1年ごと |
| CIO | 副町長 |
民間企業に行政の中枢を近づけるリスク
一方、外部人材の活用にはガバナンス上の注意も必要だ。NTT東日本は自治体向けICTサービスを提供する民間企業でもある。アドバイスする側と、将来システムやサービスを販売しうる側が同じ企業に属する場合、調達の公平性、利益相反、情報管理をどう確保するかは重要になる。
今回確認した公表資料では、小野木氏の報酬条件、勤務日数、具体的な権限範囲、調達案件への関与ルール、利益相反管理の詳細までは示されていない。CIO補佐官が製品選定を直接決定するわけではないとしても、政策の優先順位や要件定義に影響を与え得る立場である以上、透明性は必要だ。
また、外部専門家に依存し過ぎれば、その人物や企業が抜けたときにDXが止まる。だからこそNTT東日本と利府町が「職員のDX人材育成」を今後の柱に明記している点は重要である。
人口減少時代の「行政能力」をどう守るか
利府町のケースは、全国の自治体が直面する問題の縮図でもある。人口減少が進めば、自治体職員も無限には増やせない。その一方で、住民が期待するサービス水準、サイバーセキュリティ、災害対応、オンライン手続、データ連携の要求は増えていく。
従来なら「人が足りないからサービスを減らす」という議論になりがちだった。自治体DXは、同じ人数でも事務処理を減らし、職員を相談、判断、現場対応など「人にしかできない仕事」へ戻すことを狙う。利府町の旧DX推進計画も、AIやRPAを使って職員が職員でなければできない業務へ注力できる「スマート自治体」への転換を背景に掲げていた。
- CIO補佐官の勤務頻度、報酬、具体的権限
- NTT東日本が利府町のICT調達へ参加する場合の利益相反管理
- 生成AI導入による時間削減・品質改善の実績値
- オンライン端末、防災アプリなどの実利用率
- 全庁DX施策の優先順位とKPI
- 外部人材から町職員へ知識を移転し、自走できる体制を作れるか
「NTTに任せる」ではなく、「町が判断できる」体制へ
CIO補佐官を置く意味は、町のデジタル化をNTT東日本へ委ねることではない。むしろ逆であるべきだ。技術に詳しい外部人材を使いながら、何を導入し、何を導入しないかを行政自身が判断できる体制を作ることに価値がある。
小野木氏は就任にあたり、地元報道に「町民の皆様もデジタルの恩恵を得られる町にしていきたい」と述べた。デジタルの恩恵は、新しいアプリの数では測れない。役場へ行く回数が減ったか。災害情報が早く届いたか。職員の入力作業が減ったか。高齢者やデジタルに不慣れな人が取り残されていないか。
4年半のアドバイザー期間を経て、利府町の課題は「デジタルを始めること」から「町全体でデジタルを統治すること」へ移った。小さな町のCIO補佐官人事は、日本の自治体がこれからどのように行政能力を維持するのかという、はるかに大きな問いにつながっている。
出典・参考資料
- NTT東日本株式会社「NTT東日本社員が利府町CIO補佐官に就任 ~4年半のDX伴走支援を基盤に、町全体のDX推進体制を強化~」2026年10月5日。
- NTT東日本「支店の主な報道発表資料」—2026年10月5日利府町CIO補佐官就任発表。
- NTT東日本株式会社「地域の活力創出に向けた連携強化について」2022年5月17日。
- 利府町「利府町DX推進計画」—外部人材活用、内部人材育成、AI・RPA、オンライン化等。
- 利府町「令和8年度利府町DX推進計画の策定について」2026年4月2日。
- 利府町「利府町防災アプリ『まもりふ』の運用を開始しました」2025年3月28日。
- デジタル庁「自治体窓口DX『書かないワンストップ窓口』」。
- デジタル庁「窓口BPRアドバイザー派遣事業」2026年度。
- デジタル庁「自治体DXの取組に関するダッシュボード データの定義」—CIO補佐官、外部人材、全庁体制等。
- 仙台放送「利府町がNTT東日本社員にCIO補佐官を委嘱」2026年10月5日。
取材・確認期限:2026年10月6日午後1時21分(日本時間)。CIO補佐官の報酬、勤務頻度、具体的な決裁権限、NTT東日本が利府町の調達へ参加する場合の利益相反・回避ルール、生成AI等による定量的な業務削減効果は、確認できた公表資料では確定していない。
