東京証券取引所で9月11日、新しい「社食」の会社が株式市場に加わった。株式会社KOMPEITO(証券コード618A)は、冷蔵庫や冷凍庫をオフィスに置き、サラダ、総菜、弁当などを従業員が購入できる設置型健康社食®「OFFICE DE YASAI(オフィスでやさい)」を運営する。上場市場はグロース。公開価格は1,600円だった。会社は同日、全国6,600社以上に導入されていると発表した。[1] [4]
見た目は、職場の片隅にある小さな冷蔵庫だ。だが、その裏では、商品開発、調達、温度管理、物流、決済、在庫、法人営業、福利厚生制度、地域金融機関との提携がつながっている。上場は、KOMPEITOが「野菜を売る会社」から、企業の食環境を継続契約で支えるプラットフォームへ変わってきた12年を市場に説明する場でもある。
最初の事業は「オフィスの冷蔵庫」ではなかった
KOMPEITOは2012年9月に設立された。現在のIR FAQによると、出発点は野菜の生産者と消費者を直接つなぐECサイトだった。しかし、2013年2月に事業方針を変え、麻布十番で実店舗の八百屋を始めた。会社の沿革には、1日の売上が1万円前後だった時期があり、廃棄を避けるため売れ残った野菜を知人の会社へ持ち込んで販売したことが、オフィス需要に気づくきっかけの一つとして記されている。[5] [6]
創業者で現代表取締役CEOの渡邉瞬は、会社の英語版プロフィールで、コンサルティング会社に勤務し、地方メーカーのSCM、すなわち購買・物流の効率化に携わった後、2010年ごろから農業分野のコンサルティングを研究し、農業界の活性化と新たな流通づくりを目指して起業したと説明している。[8]
つまり、OFFICE DE YASAIの原点は「福利厚生市場を狙ったSaaS的発想」ではなく、農産物流通の行き先をどう増やすかという問いだった。オフィスは、その答えを探す途中で見つかった販売場所である。
2014年、野菜を置くだけではサービスにならなかった
2013年11月にオフィスでの試験販売を始め、2014年4月、OFFICE DE YASAIを本格スタートした。当時の公式リリースでは、そのまま食べられる野菜や果物を企業へ週1回届け、働く人が職場で野菜を取りやすくする仕組みとして紹介している。2014年5月末には導入企業が約100社に達したと会社は発表していた。[7]
ところが、同年7月に問題が起きた。会社の沿革は、顧客企業の冷蔵庫で野菜が腐るトラブルが発生し、サービスを一時休止したと率直に記す。冷蔵庫の切り替えや委託工場の品質管理工程を作り直し、キユーピーからの出資も受け、10月に再開した。[6]
この失敗は、現在の事業を理解する上で重要だ。食を扱うサブスクリプションは、契約を取れば終わりではない。食品を作り、冷やし、運び、補充し、売れ残りを管理し、利用者が毎日手に取れる状態を維持する。そのオペレーションそのものが商品である。
「やさい」から「ごはん」へ 冷蔵と冷凍の二本柱
上場時の会社資料では、現在の主力は冷蔵の「オフィスでやさい」と冷凍の「オフィスでごはん」である。2026年8月期の会社予想では、「オフィスでやさい」が51億1,600万円、「オフィスでごはん」が33億8,600万円。両者で連結売上高予想の約86%を占める。会社は商品ラインアップを約160種類と説明し、商談時には冷蔵・冷凍の併用を勧めることで1社あたりの導入拠点を増やしている。[3]
冷凍が伸びている理由も興味深い。会社によれば、冷凍プランは在庫管理の手間が比較的小さいと企業側に評価され、冷凍弁当など単価の高い商品の受注増もARPU(1社あたり売上高)の上昇に寄与した。単に「健康な野菜を置く」サービスから、職場で一食を完結できる食事インフラへと用途が広がっている。[3]
売上72%増予想、赤字から黒字へ
上場日に公表した決算情報で、KOMPEITOは2026年8月期の連結売上高を98億7,100万円と予想した。前期実績57億3,700万円から約72%増える計算だ。営業利益は8億8,000万円を見込み、前期の2億2,500万円の営業赤字から黒字転換する想定である。経常利益は8億7,700万円、親会社株主に帰属する当期純利益は11億2,600万円の予想だ。[3]
| 項目 | 2026年8月期予想 | 2025年8月期実績 |
|---|---|---|
| 売上高 | 98.71億円 | 57.37億円 |
| 営業損益 | 8.80億円 | ▲2.25億円 |
| 経常損益 | 8.77億円 | ▲2.45億円 |
| 親会社株主に帰属する純損益 | 11.26億円 | ▲1.61億円 |
ただし、ここで「予想」と「確定」を分ける必要がある。2026年8月期は8月31日に終了しているが、9月11日の資料は期末決算の確定値ではなく会社予想である。第3四半期までの実績は売上高70億4,700万円、営業利益6億7,100万円。正式な通期決算発表は別途行われる。純利益については、資本金額や繰越欠損金の利用に伴う一時的に低い税負担率も見込まれており、営業利益以上に伸びる予想になっている。[3]
6,600社の次を支えるのは、地方銀行だった
KOMPEITOの成長モデルで目を引くのは、食品会社でありながら地方銀行や信用金庫を重要な販売チャネルにしていることだ。会社資料では、新規顧客獲得を、金融機関などの提携先が法人顧客へ紹介する「パートナーセールス(PS)」と、Web広告などを使うオンラインセールス(OS)に大別している。
2026年8月期の年間新規獲得見込み2,907社のうち、PSチャネルが約64%を占める見通し。提携金融機関は前期末73行から第3四半期末81行に増えた。銀行にとっては、取引先企業への福利厚生提案という新しい接点になり、KOMPEITOにとっては各地域の法人顧客へ自前の営業拠点だけで入り込むより低コストでアクセスできる。[3]
会社は期末の本契約社数を7,052社と見込んでいる。一方、9月11日の上場告知では「全国6,600社以上に導入」と表現している。集計時点や指標定義が異なる可能性があるため、この二つを同一の実績値として扱うべきではない。Japan.co.jpは、上場日時点の公表導入企業数としては6,600社超を用いる。
食事補助の税制改正が追い風になる
2026年4月、企業の食事補助をめぐる税務ルールが変わった。国税庁によると、従業員が食事価額の半分以上を負担するなどの要件を満たした場合に給与課税しない使用者負担の上限は、月額3,500円から7,500円へ引き上げられた。[9]
KOMPEITOは上場時資料で、この引き上げが従業員向け食事補助市場の需要拡大に寄与すると期待している。制度改正だけでサービス利用が増えると断定はできないが、企業が食事福利厚生に使える非課税枠が大きくなったことは、同社にとって明確な外部環境の変化だ。[3]
IPOは「会社の資金調達」だけではない
今回のIPOの構成も見ておきたい。東京証券取引所の上場概要では、新規発行の公募株は5万株。一方、引受人の買取引受による売出しは413万9,300株、オーバーアロットメントによる売出しは62万8,200株だった。つまり、上場時に市場へ出た株式の大半は、会社が新たに発行した株ではなく、既存株主による売出しである。[2]
公開価格は1,600円。民間のIPO情報サイト「東京IPO」は、9月11日の初値を1,480円と記録しており、公開価格を7.5%下回ったとしている。その後、Yahoo!ファイナンスの市場データでは同日の終値は1,670円、高値1,700円だった。初値だけを見れば弱いスタートだったが、上場初日の取引中には公開価格を上回ったことになる。これらの株価値はJPXの上場承認資料ではなく、二次的な市場データに基づく。[10] [11]
成長の裏側には物流コストがある
食品の福利厚生サービスは、ソフトウェアのように利用企業が増えるほど配送コストがほぼゼロになる事業ではない。会社資料には、仕入価格の上昇、配送費、倉庫作業、人件費といった現実的なコストが並ぶ。KOMPEITOは複数工場への分散発注、PB商品の比率を6割以上へ高めること、自動ピッキング機器の導入などでコストを抑えていると説明する。主要倉庫へのマテハン機器導入により、1ピックあたりの単価を20~30%程度削減したという。[3]
これは、同社の競争力を測る際に「導入社数」だけでは足りない理由でもある。冷蔵庫や冷凍庫が増えるほど、商品補充、配送密度、食品ロス、地域ごとの物流効率が利益を左右する。契約社数が増えても、1社あたりの配送コストが高止まりすれば利益は残りにくい。
オフィスの外へ広がるKOMPEITO
現在のKOMPEITOは、OFFICE DE YASAIだけの会社でもなくなりつつある。2024年には米国子会社KOMPEITO USA Inc.を設立し、同年に乳製品宅配の株式会社ODYデリバリーズを設立。2025年10月には、高齢者個人宅向け配食や介護施設向け調理済食材を扱う株式会社優食を完全子会社化した。[5] [12]
上場時の2026年8月期予想では、ODYデリバリーズが6億4,000万円、優食が4億2,800万円の売上を見込む。会社が掲げる「はたらく人の食と健康のインフラ」は、オフィスの冷蔵庫を核にしながら、ラストワンマイル配送や高齢者向け配食へ接続し始めている。[3] [8]
上場後に問われるのは、冷蔵庫の台数ではない
2014年のOFFICE DE YASAIは、野菜や果物を職場へ届ける小さな実験だった。12年後、KOMPEITOは約100億円の売上高を目指し、冷蔵、冷凍、配送、法人福利厚生を束ねる会社として株式市場に入った。
だが、上場すると評価の基準は厳しくなる。導入企業数だけでなく、解約率、ARPU、配送原価、粗利率、パートナー金融機関からの顧客獲得効率、食品事故の防止、買収した事業との統合まで、数字で継続的に説明しなければならない。会社は2026年8月期の平均月次解約率を1.2%、ARR(年間経常収益)を96億4,100万円と見込んでいる。[3]
OFFICE DE YASAIが面白いのは、最先端に見える技術だけで成長した会社ではない点だ。売れ残った野菜、冷蔵庫、配送、福利厚生という、極めて日常的な問題を一つずつ事業に変えてきた。東証グロース市場に並んだのは、その日常を全国規模で再現できるかを問われる会社である。
- 日本取引所グループ:新規上場銘柄一覧(KOMPEITO、コード618A、グロース市場、公募・売出価格)
- 東京証券取引所:KOMPEITO 新規上場会社概要(参考英訳、株式数・公募売出構成)
- KOMPEITO:上場に伴う決算情報等のお知らせ(2026年9月11日)
- KOMPEITO:東京証券取引所グロース市場への新規上場に関するお知らせ(2026年9月11日)
- KOMPEITO IR FAQ:創業の経緯、グループ展開、上場情報
- KOMPEITO:沿革(2013年の試験販売、2014年の本格開始・サービス休止と再開など)
- KOMPEITO:2014年5月7日「OFFICE DE YASAI」正式開始時のプレスリリース
- KOMPEITO:代表取締役CEO 渡邉瞬 トップメッセージ
- 国税庁:食事を支給したとき(2026年4月1日以後、非課税限度額月額7,500円)
- 東京IPO:KOMPEITO初値1,480円、公開価格1,600円(市場データ)
- Yahoo!ファイナンス:KOMPEITO上場初日の株価データ(9月11日)
- KOMPEITO:会社紹介(現役員、グループ会社、事業内容)
編集注:2026年8月期の通期数値は、KOMPEITOが2026年9月11日に公表した業績予想であり、確定した通期決算ではない。初値・終値は二次的な市場データを明示して使用した。導入企業数6,600社超と会社資料の本契約社数予想7,052社は、集計時点・定義が異なる可能性があるため同一指標として扱っていない。
