日本のスケートボードに、また15歳の金メダリストが二人加わった。9月25日、愛知県常滑市の愛知県国際展示場で行われた第20回アジア競技大会のパーク種目。女子は長谷川瑞穂(はせがわ・みずほ、S高)、男子は永原依弦(ながはら・いづる、長野・白馬中)がそろって優勝した。女子では岡本碧優が銅、男子では志治群青が銅を獲得し、日本はパークの男女で計4個のメダルを持ち帰った。[1][2]

二人とも、2025年10月の日本選手権パークで初優勝し、その大会で愛知・名古屋アジア大会の出場権を獲得していた。長谷川は女子決勝で81.24点、永原は男子決勝で89.66点を記録した。国内王者になってから約11カ月で、そのままアジア王者へ上がったことになる。[3]

15歳長谷川瑞穂、永原依弦の年齢
男女金日本がパーク男女をともに制覇
4個日本のパーク男女合計メダル数
2025年日本王者二人とも前年の日本選手権で初優勝

長谷川瑞穂、5歳から滑り始めたオールラウンダー

長谷川瑞穂は2010年生まれ。山梨県出身で、スノーボード選手だった母の影響を受け、5歳からスケートボードを始めた。ワールドスケートジャパンは女子パーク選手として長谷川を登録し、2026年5月時点のオリンピック・ワールドスケートランキングを9位としている。[4][5]

強みはパークだけではない。垂直の壁を使うバートでも世界トップ級の実績を持つ。2025年6月にはWST WORLD CUP ROMEのパークで優勝し、同月のX Games Salt Lake Cityのバートでも金メダルを獲得した。パークの流れるラインと、バートの大きなエアを両方こなす「二刀流」が、技の選択肢と空中感覚を広げている。[6]

S高等学校の発表は、長谷川の武器としてダイナミックなエアと高難度の「540」を挙げる。パークでは高さ、スピード、難度、技のつながりを一つのランにまとめる必要があり、単発の大技だけでは勝ち切れない。15歳ですでに国際大会を回り、パークとバートの両方で経験を積んでいることが、今回の安定感につながったと考えられる。[7]

日本の若手が強い理由を「若いから怖いもの知らず」で片づけるのは簡単だ。実際には、小学生のうちから国内外のコンテストに出て、10代半ばには世界トップと同じ会場で戦う競技経験の厚さがある。

永原依弦、白馬から世界へ

男子王者の永原依弦は、長野県白馬村の白馬中学校3年生。白馬村は公式広報で読みを「いづる」としている。兄はパリ2024五輪の男子パーク日本代表、永原悠路。依弦は兄の背中を追いながら競技を続け、2025年日本選手権パークで89.66点を出して初優勝した。[3][8]

9月4日に白馬村を表敬訪問した際、永原はアジア大会の目標を金メダルと明言し、その先にロサンゼルス五輪を見据え、「兄弟で出場を果たしたい」と話している。25日の優勝で、最初の目標は現実になった。[8]

兄弟だから強くなるわけではない。しかし、五輪選手が身近にいる環境は、国際大会の準備、競技レベル、トレーニング、失敗の受け止め方まで、通常は遠い世界の情報を日常に変える。日本のスケートボードには、こうした「次の世代が前の世代をすぐ近くで見る」循環が生まれている。

パーク競技とは何を競うのか

パークは、深さや角度の違うボウル、曲面、壁、バンクなどが一体になったコースを滑り、選手が連続してトリックを構成する種目だ。JOCは、スケートボードを技の難度、高さ、スピードなどで評価する採点競技と説明している。ストリートが階段、手すり、縁石など都市空間を模した障害物で技を競うのに対し、パークではコース全体を大きな流れとして使う。[9]

そのため、パークでは高さのあるエア、リップでのグラインドやスライド、回転技だけでなく、スピードを失わずに次の壁へつなぐライン取りが重要になる。難しい技を一つ成功させても、その後の流れが途切れれば評価は伸びにくい。

15歳という年齢は身体的な軽さや回転速度で有利な面がある一方、パークでは大きな壁へ速度を持って入り、落下と衝撃を何度も受ける。技術だけでなく、恐怖への対応、怪我の管理、ラン全体の判断が必要だ。

日本は東京2020から「新たなお家芸」へ

スケートボードが五輪に初めて採用されたのは東京2020。JOCによると、日本は東京とパリの2大会、合計8種目で金5、銀3、銅1の9個のメダルを獲得している。JOC自身が「新たなお家芸」と表現するほど、短期間で世界の中心に入った。[9]

東京2020では堀米雄斗が男子ストリート、西矢椛が女子ストリート、四十住さくらが女子パークで金。開心那は12歳で女子パーク銀を獲得した。パリ2024では堀米が男子ストリートを連覇し、吉沢恋が女子ストリート金、赤間凛音が銀、開心那が女子パークで2大会連続銀を取った。[10][11]

この結果だけを見ると、日本が突然スケートボード大国になったように見える。しかし、実際には国内コンテスト、民間スケートパーク、ショップ、スクール、映像文化、家族単位の遠征など、五輪採用以前からの競技・カルチャー基盤があった。五輪はその上に、強化指定、国際大会派遣、スポンサー、学校側の競技支援を重ねる役割を果たした。

長谷川と永原は「次の次」の世代

東京2020で10代前半だった選手が注目を集めたあと、日本ではさらに若い層が続いている。2025年日本選手権女子パークでは、長谷川が優勝、東京五輪4位の岡本碧優が2位、12歳の佐竹晃が3位。男子では永原が優勝し、志治群青、猪又湊哉が続いた。[3]

2025年4月の日本オープン・パークでは、当時13歳の志治群青が男子で初優勝。2026年4月の日本オープン女子パークは長谷川が88.80点で優勝した。つまり、代表争いは「将来有望な10代」が一人いる状態ではなく、10代の複数選手同士が国内大会で互いに順位を入れ替える状況になっている。[12][13]

日本パークの若い競争層
  • 長谷川瑞穂:15歳、2025日本選手権女王、2026アジア大会金。
  • 永原依弦:15歳、2025日本選手権男子王者、2026アジア大会金。
  • 志治群青:15歳、2025日本オープン男子優勝、2026アジア大会銅。
  • 佐竹晃:2025日本選手権女子パークで12歳ながら3位。
  • 岡本碧優:東京2020女子パーク4位、2026アジア大会銅。若手にとって経験豊富な基準となる存在。

「若さ」は競技特性だけでは説明できない

スケートボードでは10代の活躍が目立つ。身体が軽く、空中での回転に向きやすく、新しい技への適応も早い。しかし、それだけなら世界中で同じように若年選手が大量に出るはずだ。日本の特徴は、若い選手が国内トップと頻繁に競い、世界大会へ出る道が早い段階から開けていることにある。

東京2020以降、トップ選手がテレビや広告に登場し、自治体がパークを整備し、学校が競技活動を支援し、競技団体が国際大会と国内選考をつなぐ。長谷川がS高のアスリートクラスで学業と競技を両立し、永原が白馬中に在籍しながら国際大会を目指す姿は、従来の学校部活動とは異なる競技育成の形でもある。[7][8]

アジア大会は五輪とは違う重みを持つ

スケートボードは2018年ジャカルタ・パレンバン大会からアジア大会の正式競技となり、杭州大会、そして愛知・名古屋へと続いている。2026年大会でも男女のストリート、パークの4種目が実施される。[14]

アジアには日本だけでなく、中国、韓国、インドネシア、フィリピンなど成長するスケートボード市場がある。五輪やWSTとは出場枠や顔ぶれが異なり、地元開催という別のプレッシャーもある。15歳の二人が国内で金を取ったことは、技術だけでなく大会運営、観客、代表としての緊張を経験したという意味を持つ。

2028年ロサンゼルスへ、席は限られている

ロサンゼルス2028でもスケートボードの実施は決まっている。長谷川も永原も、年齢的には十分に五輪を狙える。しかし、日本代表になること自体が世界大会のメダル争いと同じほど難しくなりつつある。[9]

女子パークでは開心那、草木ひなの、四十住さくら、岡本碧優ら世界大会経験者がいる。男子も永原悠路、志治群青、猪又湊哉らが競う。長谷川や依弦がアジア王者になっても、それだけで五輪代表が保証されるわけではない。

むしろ、日本の強さはそこにある。国内で勝つために世界水準が必要になり、世界水準を持つ選手がさらに次の若手の基準になる。

兄や先輩を「遠い英雄」にしない環境

永原依弦にとって、兄の悠路はパリ五輪出場者である。長谷川にとっても、同じ女子パークには岡本、四十住、開、草木といった世界大会の経験者が身近にいる。

競技が強くなる国では、トップ選手が「特別な一人」で終わらず、次の選手がその技を日常的に見られる環境が重要になる。練習動画が共有され、同じパークで滑り、国内大会で直接競う。技術が世代間で伝わる速度が速くなる。

それは野球やサッカーのような伝統的な育成組織とは違う。スケートボードは個人競技で、選手ごとにショップ、家族、スクール、スポンサー、学校の組み合わせが異なる。それでも、国内大会と国際大会が接続され、若い選手が早くからトップ層と混ざる構造ができている。

15歳の金メダルは「完成」ではない

若年で勝つ競技では、早熟と長期的な成功を混同しないことも重要だ。身体の成長で重心や回転感覚が変わり、怪我のリスクもある。競技が高度化すれば、より大きなエアと難度の高い回転技が要求される。

長谷川はパークとバートの両方を続けるのか。永原は兄とともに五輪代表を争えるところまで伸びるのか。15歳の現在地は、将来の保証ではない。

ただし、今回の金メダルが示したことははっきりしている。日本のスケートボードは、一人の天才に依存していない。東京五輪で名が知られた世代の下から、さらに若い選手が国内タイトルを取り、翌年にはアジア大会を制している。

日本の「新たなお家芸」は、もう次の世代へ渡っている

東京2020でスケートボードが初採用されたとき、日本の若いメダリストたちは新鮮な驚きだった。6年後、その驚きは仕組みへ変わりつつある。

長谷川瑞穂と永原依弦はともに15歳。しかし二人は「未来の選手」ではなく、すでに日本選手権とアジア大会を勝った現役のトップ選手である。そしてその後ろにも、さらに若い選手がいる。

日本のスケートボードが本当に強いのかを測るなら、金メダルの数だけではなく、次の選手がどれだけ早く前の世代へ追いつくかを見るべきだ。愛知での男女金は、その循環が今も続いていることを示した。

出典

  1. 日本オリンピック委員会(JOC):スケボー長谷川、永原が金(2026年9月25日)
  2. 時事通信/The Japan Times:Japanese skateboarders grab gold at Asian Games(2026年9月26日)
  3. JOC:永原依弦、長谷川瑞穂が初優勝 スケボー日本選手権パーク(2025年10月19日)
  4. ワールドスケートジャパン:長谷川瑞穂 選手紹介
  5. 茨城県:長谷川瑞穂の読み・競技実績(2025年知事奨励賞資料)
  6. FINEPLAY:長谷川瑞穂インタビュー(2025年、WST Rome・X Games実績)
  7. S高等学校:長谷川瑞穂、アジア大会女子パーク金(2026年9月25日)
  8. 白馬村:永原依弦(いづる)さん アジア大会出場へ(2026年9月)
  9. JOC:スケートボード競技概要・日本のオリンピック史
  10. JOC:東京2020 スケートボードTEAM JAPAN
  11. JOC:パリ2024 スケートボードTEAM JAPAN
  12. JOC:2025日本オープン・パーク 志治群青13歳で初優勝
  13. JOC:2026日本オープン 長谷川瑞穂が女子パーク優勝
  14. JOC:愛知・名古屋アジア大会 実施競技・種目比較(スケートボード)