給料は増えた。物価を差し引いても増えた。それが8月24日に厚生労働省が公表した6月の毎月勤労統計調査・確報の結論である。だが、家計にとって本当に重要なのは、見出しの「2.2%」が何からできていて、来月も残るのかという点だ。
常用労働者5人以上の事業所で、労働者1人当たりの現金給与総額は53万4823円。前年同月より4.0%増えた。消費者物価指数のうち、厚労省が国内の実質賃金算定に使う「持家の帰属家賃を除く総合」は1.9%上昇したため、実質賃金指数は2.2%増となった。速報の1.6%増から0.6ポイントの上方修正である。
朗報には違いない。2022年から2025年まで年平均の実質賃金は4年連続で減少し、2026年に入ってから6カ月連続のプラスとなった。だが6月は夏季賞与が集中する月でもある。現金給与総額のうち、基本給や残業代など毎月の定めに従って払われる「きまって支給する給与」は29万9671円。賞与、期末手当、さかのぼり支給などを含む「特別に支払われた給与」は23万5152円だった。
確報で何が変わったのか
8月5日の速報では、現金給与総額は53万1677円、前年同月比3.4%増、実質賃金は1.6%増だった。19日後の確報で現金給与総額は3146円、伸び率は0.6ポイント、実質賃金も0.6ポイント上方に改定された。
改定の中身は均等ではない。きまって支給する給与は439円増え、伸び率は3.4%のまま。特別給与は2707円増え、伸び率は3.5%から4.7%へ1.2ポイント上がった。つまり、速報から増えた3146円の約86%は特別給与の改定分である。これはJapan.co.jpが厚労省の速報と確報を比較して算出した。
| 項目 | 8月5日速報 | 8月24日確報 | 改定 |
|---|---|---|---|
| 現金給与総額 | 53万1677円/+3.4% | 53万4823円/+4.0% | +3146円/+0.6ポイント |
| きまって支給する給与 | 29万9232円/+3.4% | 29万9671円/+3.4% | +439円/伸び率不変 |
| 特別に支払われた給与 | 23万2445円/+3.5% | 23万5152円/+4.7% | +2707円/+1.2ポイント |
| 実質賃金 | +1.6% | +2.2% | +0.6ポイント |
| 回答事業所 | 2万1749 | 2万4895 | +3146事業所 |
回答事業所数も偶然同じ「3146」増え、回答率は65.8%から75.3%へ上がった。しかし、3146事業所の追加と3146円の改定が一対一で対応するわけではない。厚労省は、どの遅着票や産業が何円を動かしたかを公表していない。確報で回答が増えたことと、改定の個別原因は分けて扱う必要がある。
確報の強さは本物だ。ただし、上方修正の中心は、毎月同じように続くとは限らない特別給与だった。
「賞与」と「特別給与」は同じではない
6月の23万5152円をすべて「ボーナス」と呼ぶのは正確ではない。厚労省の正式用語は「特別に支払われた給与(特別給与)」。夏冬の賞与や期末手当だけでなく、支給事由が不定期な手当、6カ月分の通勤手当のように3カ月を超える期間で算定する手当、ベースアップの差額追給分も含む。
この広い区分が、6月の現金給与総額の44.0%を占めた。前年同月との増加額を単純に分解すると、定期給与側が約9850円、特別給与側が約1万560円増えた計算になり、名目増加額の半分強を特別給与が担った。丸めた公表値からのJapan.co.jp試算であり、厚労省の正式な要因分解そのものではない。
一方で「すべてボーナス頼み」と言い切るのも誤る。きまって支給する給与は3.4%増、所定外給与を除く所定内給与は3.5%増だった。実質賃金に用いる物価上昇率1.9%を上回るため、定期給与の購買力も概算で約1.5%増えたことになる。6月の見出しの大きさには特別給与が効いたが、基礎部分にも実質的な改善はあった。
- 現金給与総額:きまって支給する給与+特別に支払われた給与。
- きまって支給する給与:基本給、家族手当、残業代など、あらかじめ決めた条件で払う給与。
- 所定内給与:きまって支給する給与から残業・休日・深夜手当などを除いた部分。
- 特別に支払われた給与:賞与、期末手当、不定期手当、長期間で算定する手当、ベースアップ差額の追給など。
4.0%から1.9%を引けば2.1%なのに、なぜ2.2%か
実質賃金の増減率は、名目賃金の伸び率から物価上昇率を単純に引いた数字ではなく、賃金指数を消費者物価指数で割って作る。公表された前年比はそれぞれ丸められているため、4.0引く1.9の2.1%と、実質指数の公表値2.2%が一致しないことがある。
厚労省が国内向けの実質賃金に使うのは、総務省統計局の「持家の帰属家賃を除く総合」である。持ち家に自分で家賃を払ったとみなす帰属家賃は実際の現金取引ではないため、それを除いた物価で賃金の購買力を測る。6月はこの指数が1.9%上昇した。国際比較用として併記する総合指数は1.7%上昇し、それで計算した実質賃金は2.3%増だった。
どちらも生活費の個人差を消す平均である。家賃を更新した人、米や生鮮食品への支出比率が高い世帯、子育て世帯、高齢世帯では、体感する物価は異なる。同じ月、総務省の家計調査では二人以上世帯の実質消費支出が前年同月比3.3%減った。賃金統計は「労働者1人」、家計調査は「世帯」の支出を測り、標本も概念も違うため矛盾ではない。しかし、賃金の平均改善が直ちに消費の回復へつながったわけではないことを示す警告にはなる。
一般労働者とパートでは「月額」の意味が違う
一般労働者の現金給与総額は71万9523円で4.2%増、所定内給与は35万5690円で3.7%増だった。パートタイム労働者の現金給与総額は12万8891円で3.3%増、所定内給与は11万2088円で2.9%増。月額の大きな差には、時給だけでなく労働時間や勤務日数、賞与の有無が重なる。
パートの所定内給与の時間当たり額は1446円で4.4%増えた。パートの賃金を見るとき、月額が2.9%増なのに時間額が4.4%増という差は重要だ。働く時間が減れば、時給が上がっても月収の増加は小さくなる。全体の総実労働時間は139.3時間で0.2%減、所定内労働時間は129.6時間で0.3%減だった。
雇用構成の変化も平均を動かす。そこで厚労省は、前年と当年の両方に回答した同じ事業所を比べる「共通事業所」系列を参考公表している。6月はこの系列でも現金給与総額が4.8%、所定内給与が3.0%増えた。標本全体の4.0%、3.5%とは違うが、賃金上昇が新規回答先だけで生じたわけではないことを示す補助線になる。ただし、共通事業所系列も同じ労働者を追跡する個人パネルではない。
平均の下にある大きな産業差
賞与の支給時期と大きさは産業で異なる。学術研究・専門・技術サービス業の現金給与総額は11.9%増、金融・保険業は7.9%増、医療・福祉は6.0%増。一方、不動産・物品賃貸業は2.2%減、卸売・小売業は0.3%増にとどまった。
| 産業 | 現金給与総額 | きまって支給する給与 | 特別給与 |
|---|---|---|---|
| 製造業 | +5.3% | +4.1% | +6.9% |
| 金融業・保険業 | +7.9% | +6.2% | +9.2% |
| 学術研究・専門・技術サービス業 | +11.9% | +6.2% | +17.8% |
| 医療・福祉 | +6.0% | +3.7% | +9.9% |
| 卸売業・小売業 | +0.3% | +3.4% | -4.8% |
| 不動産業・物品賃貸業 | -2.2% | -0.6% | -3.9% |
これらは各産業の平均で、企業規模や雇用形態の構成も異なる。とりわけ6月の前年同月比は、今年と昨年の賞与支給日が月をまたいだだけでも振れ得る。全産業の2.2%を自分の業界の賃上げ率とみなすことも、単月の産業順位を構造的な強弱と決めつけることもできない。
4年の実質減から、6カ月の実質増へ
今回の数字が注目されるのは、長い物価高の後だからだ。年平均の現金給与総額は2022年に2.0%、2023年に1.2%、2024年に2.8%、2025年に2.3%増えた。それでも実質では順に1.0%減、2.5%減、0.3%減、1.3%減。名目賃金は4年続けて増えても、物価に追いつかなかった。
2026年は様相が変わり、6月まで6カ月連続で実質賃金が前年を上回った。日本労働組合総連合会(連合)の2026春季生活闘争・最終回答集計では、定期昇給分を含む賃上げ率は全体で5.01%、組合員300人未満の中小組合で4.69%、有期・短時間・契約等労働者で6.18%だった。3年連続の5%台は、賃金設定の慣行が変わりつつある可能性を示す。
ただし、連合の集計は回答を得た労働組合の範囲であり、未組織企業を含む全雇用者の平均ではない。毎月勤労統計の所定内給与3.5%増は、春闘の5.01%と単純比較できない。前者は実際に支払われた平均額で、労働者構成や労働時間を含み、後者は労組の交渉結果で定期昇給分も含むからだ。春闘の勢いが中小企業、非組合員、転職者までどれほど広がるかが次の焦点になる。
1923年7月 「職工賃銀毎月調査」「鉱夫賃銀毎月調査」が始まる。
1944年7月 勤労統計調査令に基づき、現在の名称「毎月勤労統計調査」で内閣統計局が開始。
1957年 常用労働者5~29人の事業所を対象とする全国乙調査を開始。
1990年1月 5人以上の事業所を主系列とする大幅改正。
2022~25年 年平均の実質賃金が4年連続で減少。
2026年1~6月 実質賃金が6カ月連続で前年を上回る。
100年を超す統計が測るもの、測れないもの
毎月勤労統計の源流は1923(大正12)年7月の「職工賃銀毎月調査」と「鉱夫賃銀毎月調査」にさかのぼる。現在の名称になったのは1944年7月。戦後に労働省へ移され、建設業、サービス業、沖縄県へ対象を広げた。現在は統計法に基づく国の「基幹統計調査」である。
調査対象は、日本標準産業分類の16大産業に属する常用労働者5人以上の約200万事業所から抽出した約3万3000事業所。「常用労働者」は、期間を定めず雇われる人、または1カ月以上の契約で雇われる人をいう。正社員だけの統計ではない。6月確報は3万3058事業所を対象とし、2万4895事業所から回答を得た。
長い時系列には制度上の継ぎ目もある。5人以上を主系列としたのは1990年、一般・パート別の賃金系列は1993年から。標本の入れ替えや母集団ベンチマークの更新もある。厚労省は2024年1月のベンチマーク更新後、前年同月比を指数から機械的に計算した値ではなく、比較可能な参考値で算出している。長期比較ほど注記を読む必要がある。
家計が感じる回復の条件
実質賃金が持続的に増えるには、夏の賞与が落ちた後も所定内給与が物価を上回り、上昇が大企業から中小企業、一般労働者からパート、組合員から未組織労働者へ広がる必要がある。税や社会保険料を差し引いた可処分所得が増え、家計が貯蓄の取り崩しではなく所得から消費を支えられるかも別の関門だ。
確認すべきは次の一つの見出しではなく、少なくとも四つの系列である。所定内給与の名目・実質伸び、賞与月を外した現金給与総額、パートの時間当たり所定内給与、同じ事業所を比較する共通事業所系列だ。さらに、家計調査の消費支出と消費者物価の中身を重ねれば、「平均賃金が増えた」と「生活が楽になった」の間の距離が見える。
6月確報は、その距離が縮む方向へ進んだ。定期給与は物価を上回り、特別給与も増え、速報より広い回答で実質2.2%増となった。ただし、強い月ほど分解が必要だ。給与明細の上端にある総額だけでなく、毎月残る欄、年に数回の欄、そしてレジで支払う価格を見る。そこまで読んで初めて、この2.2%は景気のニュースから暮らしのニュースになる。
- 7~8月の所定内給与:賞与の薄い月でも物価を上回るか。
- 特別給与:支給時期のずれが均された後も年間で増えるか。
- 規模・雇用形態差:中小事業所やパートの月収へ波及するか。
- 共通事業所:同じ事業所群で3%前後の所定内給与増が続くか。
- 家計消費:実質所得の改善が支出の回復につながるか。
- 厚生労働省 — 毎月勤労統計調査 2026(令和8)年6月分結果確報(2026年8月24日)
- 厚生労働省 — 6月分確報・概況PDF
- 厚生労働省 — 毎月勤労統計調査 2026年6月分結果速報(2026年8月5日)
- 厚生労働省 — 6月分速報・概況PDF
- 厚生労働省 — 毎月勤労統計調査の用語の解説
- 厚生労働省 — 調査の概要、沿革、対象、抽出方法
- 厚生労働省 — 2025年12月分結果確報・2025年年平均
- 日本労働組合総連合会 — 2026春季生活闘争 第7回(最終)回答集計
- 総務省統計局 — 家計調査 2026年6月分
編集注:特記しない金額・増減率は、事業所規模5人以上、調査産業計、労働者1人平均の厚生労働省確報。速報との差額、86.0%、44.0%、定期給与の概算実質伸び、給与増加額の分解はJapan.co.jpが公表済みの丸め値から計算した。特別給与の内訳別金額は概況では公表されていないため、全額を賞与とは扱っていない。産業別の差には雇用構成と支給時期の影響がある。年平均と月次、連合の回答集計と実際の支払額は範囲・定義が異なる。為替レートの原時刻「2026年8月24日午後7時47分(UTC)」は、日本時間の8月25日午前4時47分に換算した。参考レートは円建ての公的統計の換算には使用していない。
