日本代表の強化試合が、地域に何を残すのか。男子バレーボール日本代表とカタール代表の岩手での国際親善試合は、アジア競技大会へ向かう選手たちの調整と、競技をまちづくりにつなげてきた地元の取り組みが重なる機会となった。日本バレーボール協会(JVA)は9月18日、出場する12人を発表。会場には、紫波町のオガールアリーナと一関市の一関ヒロセユードームが選ばれた。[1][9]
本稿は9月20日(日本時間)までに確認できた資料に基づき、発表メンバーと大会の位置づけを解説する。第1戦についてはJVAが同日の発信で、日本がボーナスセットを含め4セットを取ったと報告した。9月21日の第2戦の結果は本稿の対象に含めていない。[10]
岩手の2会場から、愛知・名古屋へ
発表された日程は、9月20日午後1時からオガールアリーナ、21日午後2時30分から一関ヒロセユードーム。いずれも日本時間だ。後者は一関市総合体育館の名称でも案内されている。JVAの大会概要は、アジア競技大会のメンバーによる編成を予定すると説明している。[1]
そのアジア競技大会の男子バレーボールは、9月27日から10月3日まで愛知県内で行われる予定だ。日本はパキスタン、カザフスタン、ウズベキスタンと同じA組。カタールはインド、ベトナム、ホンコンチャイナと同じC組に入った。岩手の対戦は、同じ国際総合大会に向かう両チームが、本番とは別の場で実戦を積む機会に位置づけられる。[3]
混同しやすいが、アジア競技大会とアジア選手権は別の大会である。日本は9月13日、福岡でのアジア選手権決勝でイランを破り、JVAの発表によればロサンゼルス2028オリンピックの出場権を獲得した。岩手の親善試合は、その出場権を争う試合ではない。[11]
12人の顔ぶれから、連係を読む
岩手大会のJVA発表名簿は、アウトサイドヒッター4人、オポジット2人、ミドルブロッカー3人、セッター2人、リベロ1人という構成だ。監督はロラン・ティリ。大会ごとに発表された名簿を読むことが大切で、年間登録選手全員がこの2試合に出場するわけではない。[2]
| ポジション | 選手 |
|---|---|
| アウトサイドヒッター | 大塚達宣、新井雄大、甲斐優斗、後藤陸翔 |
| オポジット | 西山大翔、高橋慶帆 |
| ミドルブロッカー | 西本圭吾、麻野堅斗、西川馨太郎 |
| セッター | 河東祐大、下川諒 |
| リベロ | 高橋和幸 |
所属も一様ではない。大塚はイタリアのパワーバレー・ミラノ、麻野は早稲田大学4年として掲載され、国内クラブ所属の選手たちと合流する。代表では、普段の練習環境が違う選手が、短い期間で一本の攻撃や守備の約束事を共有しなければならない。名簿の多様さは、その調整の必要性を考える手がかりになる。[2]
たとえばセッターの河東と下川が、レシーブの返球位置に応じてどの攻撃を選ぶのか。アウトサイドヒッターがサーブを受けた後、どれだけ早く助走に移れるか。ミドルブロッカーが中央の攻撃に入ることで、相手のブロックをどこまで引きつけられるか。これは公表された作戦ではなく、発表名簿を踏まえた本稿の観戦上の着眼点だ。得点者の名前だけを追うよりも、一本のスパイクに至る前の動きを見ると、連係の出来が分かりやすい。
「親善」だからこそ、結果と内容を分ける
JVAは9月20日の発信で、第1戦を4-0と示し、4セット目はボーナスセットだったと説明した。通常の3セット先取の試合と同じ意味で、4セットを取るまで勝負が続いたわけではない。特別に追加されたセットがあることを付記してこそ、数字を正しく伝えられる。[10]
本番前の親善試合では、勝敗に加えて、異なる組み合わせでの意思疎通や、相手に対応する過程を見たい。サービスエースが出たかだけでなく、サーブで相手の攻撃の選択肢を減らせたか。ブロックで直接得点できなくても、後方の守備につながる触球ができたか。こうした見方なら、派手な一打の陰にある仕事も追える。
一方、親善試合の結果だけで、アジア競技大会の順位を予測することはできない。起用、調整の段階、試合形式が異なるためだ。今回の名簿からカタール側の個々の選手の状態や戦術まで推測することも避けたい。確認できるのは、両国が本番を前に対戦の機会を設けたという位置づけである。
オガールの歴史は、試合の誘致より長い
紫波町の会場を理解するには、駅前のまちづくりまでさかのぼる必要がある。オガールの公式資料によると、町有地10.7ヘクタールを中心とする整備のため、公民連携の基本計画を経て2009年度に事業が始まった。2012年にはオガールプラザ、2014年にはオガールベースが開業している。[5]
オガールアリーナは、そのオガールベースにある。運営者は国内初のバレーボール専用コートと紹介し、宿泊施設オガールインの併設や、国内プロチーム、海外代表の合宿利用を説明している。競技施設と滞在の場が隣り合う点は、一度の興行だけでなく、日々の練習や数日間の合宿を受け入れるための特徴だ。[4]
代表戦を呼ぶには、観客席のある建物だけでは足りない。練習する場所、滞在する場所、運営を担う人が必要になる。オガールの歩みからは、試合そのものに先立って、選手を迎えられる環境を整えることの意味が見える。ただし、今回の開催による消費額や来訪者数を示す調査結果は、本稿で確認した資料にはない。地域経済への効果を数字で断定することはできない。
中国、ドイツとの対戦から続く地域の経験
紫波町は過去の国際親善試合も記録している。2023年には日本Bチームと中国、2024年には日本Bとドイツの試合を紹介した。2024年の会場は紫波町総合体育館であり、今回のオガールアリーナと同じ施設ではない。地域の開催経験を、特定の体育館だけの歴史に置き換えないことも大切だ。[8][12]
「バレーボールでつながるまちプロジェクト」は、行政、競技団体、企業・団体が連携する取り組みとして説明されている。実行側は、企業版ふるさと納税を原資とする事業に、試合開催や地域の魅力の発信、子どもの教育につながる活動を挙げる。これは事業の目標と仕組みであって、開催しただけで人口減少や地域の課題が解決したという証明ではない。[6]
それでも、今回のようにJVAと地元実行委員会が主催し、紫波町、一関市などが共催する形は、国の代表チームと地域の運営組織が接点を持つ具体例になる。一関にも試合を配置することで、県内の別の会場で代表戦に触れる機会が設けられた。[1]
町民が見られるのは、試合だけではない
町の案内は、9月19日に日本代表とカタール代表それぞれの公開練習を設定し、紫波町民と町内で働く人を対象にした。単に居住者全員への無条件公開という意味ではなく、本人確認を求め、混雑やチームの状態による変更の可能性も明記していた。[7]
練習を近くで見る機会には、試合とは違う価値がある。ボールを打つ瞬間だけでなく、同じ動きを反復する時間、選手同士が位置を確かめる時間を見ることができるからだ。地域の子どもや指導者にとって何が残るかは、観戦後に普段の練習へどう持ち帰るかにもかかっている。今回の公開練習が実際に競技人口を増やしたかは、今後の検証を待つ必要がある。
岩手の2試合は、代表にとっては本番へ向けた実戦の場、地域にとっては積み重ねてきた受け入れの経験を生かす場だった。その価値を測る視点は、勝敗と動員だけではない。次の練習、次の国際試合、次に競技を始める人へと、今回の機会をどうつなげるか。ネットの向こうの相手を見る時間は、地元のスポーツのこれからを考える時間にもなる。
出典・資料
氏名・英字表記・ポジションと日程はJVAの日本語資料、地域の沿革は紫波町・施設運営者・事業主体の資料で確認した。第1戦のJVA公式発信は出典10の埋め込みで確認した。戦術上の着眼点と地域への評価は本稿の分析であり、選手や監督の発言ではない。
- JVA:岩手大会の概要・日程・主催団体
- JVA:岩手大会の日本代表メンバー、氏名・英字表記・ポジション
- JVA:第20回アジア競技大会、男子の日程と組分け
- オガール:アリーナの施設案内
- オガール:プロジェクトの概要と沿革
- バレーボールでつながるまちプロジェクト:事業の目的と仕組み
- 紫波町:9月19日の日本・カタール代表公開練習の案内
- 紫波町:2024年の日本B対ドイツ開催報告
- JVA:出場選手12人決定、記事表示日2026年9月18日
- JVAの9月20日公式投稿(排球博客内の埋め込みで確認):第4セットはボーナスセット
- JVA:アジア選手権決勝の結果と五輪出場権、9月13日
- 紫波町:2023年の日本B対中国開催報告
