年を取った犬が立ち上がるのを支える。食事や排せつの世話を、飼い主が毎日続けやすくする。ペット用品の価値は、目新しさだけでは測れない。日本企業がアジアで探る商機の一つは、動物と長く暮らす家庭の、こうした日常の困りごとにある。
日本貿易振興機構(ジェトロ)は9月9日、上海で8月19~23日に開かれた「Pet Fair Asia 2026」で、日本企業31社の出展を支援したと報告した。このうち17社は前年に続く参加だった。出展者からは、マレーシアやシンガポールのバイヤーとの商談につながったとの声も寄せられたという。[1]
中国で開く展示会が、周辺市場の取引先を探す場にもなる。そこに、高齢期のフード、口腔ケア、介護用品などへの需要拡大を見込むジェトロの分析が重なる。[1] ただし、商談の成立と継続的な販売は別の段階だ。日本で培った製品を、各地の暮らしと流通に合う形で届けられるかが問われる。
「長く一緒に暮らす」が、製品の課題を変える
一般社団法人ペットフード協会の2025年全国犬猫飼育実態調査では、平均寿命は犬14.82歳、猫16.00歳とされる。同調査による国内飼育頭数の推計は、犬約682万頭、猫約885万頭。いずれも協会の調査に基づく数値で、個々の動物の寿命を予測するものではない。[2]
長い時間を共にする家庭では、若いころと同じ道具で対応できない場面も生じる。高齢期の支援は、フードの袋に年齢を表示すれば完結するわけではない。移動、休息、手入れ、排せつなど、暮らしの複数の動作に関わる。その変化を見つけ、扱いやすい道具にすることが製品開発の出発点になる。
国内の例として、株式会社ペティオの「zuttone(ずっとね)」は、散歩、食事、排せつ、手入れ、住まい、睡眠という生活場面から商品を案内している。老犬介護用の補助機能付きベストは、歩行や起き上がりなどを補助する製品として販売される。ここで確認できるのは、用途を細かく分けた商品設計であり、病気を治療する効果ではない。[3][4]
Japan.co.jpの分析では、この分野の競争力は、飼い主の作業まで含めて考えるところにある。着脱にどれほど手間がかかるか、汚れたときに洗えるか、体格に合うか。使い続けられることが、製品の価値の一部になる。高価であることと、日々の世話に役立つことは同義ではない。
一度の出展ではない、海外展開の積み重ね
シニア分野への関心は、2026年に突然生まれたものでもない。ジェトロは2024年の同展示会について、高齢期のペット向けフードやサプリメントを扱う特別展示エリアを報告している。当時も健康寿命などを訴求する商品が並んだ。展示会でうたわれた効能と、独立した試験で確認された効果は区別する必要があるが、関心の継続を示す事例ではある。[7]
企業の事業史にも長い時間軸がある。ユニ・チャーム株式会社は1986年にペットケア事業へ参入したと説明し、2026年7月にはインド市場への参入を発表した。発売商品例として挙げたのは猫砂「Ezi-Lock Odour」。同社は現地のニーズや飼育環境に合わせる方針を示している。これは、アジアでの事業が高齢動物向け製品だけに限られないことも示す。[5]
インドへの参入発表と、上海のジャパンブースは、それぞれ独立した事業活動である。合わせて見えるのは、食事から排せつまでの暮らしを支える製品群が、複数の市場で試されている姿だ。海外展開を一つの売れ筋商品の輸出に置き換えるより、用途と市場の組み合わせとして捉える方が実態に近い。
台湾の商談は、中国本土と同じではない
ジェトロは7月3~6日の「2026 TAIPEI PETS SHOW」に、日本産ペットフードの輸出促進を目的としたジャパンブースを初めて設けた。参加は14社1団体。上海での用品を含む商談と、台湾での日本産フードの販路開拓は、対象も制度上の条件も分けて見る必要がある。[6]
同機構の報告は、財務省貿易統計を基に、2025年の台湾向けペットフード輸出額を30億4,000万円と紹介している。対象はHSコード2309.10の犬猫用飼料であり、日本のペット関連産業全体の売上高ではない。展示会への期待だけでなく、既存の貿易がある市場として台湾を見るための数字だ。[6]
Japan.co.jpの分析では、アジアを一括りにすると、事業判断に必要な違いが消えてしまう。犬と猫の構成、売り場、家庭の住環境、価格帯、配送方法が変われば、同じ商品の適した売り方も変わる。中国で得た商談の感触を、そのまま他国の売上予測に移すことはできない。
日本企業の商品と、日本製の商品を分ける
ブランドの国籍と、製品の原産国も同じではない。例えば、ペティオの補助機能付きベストK Lの公式商品ページは、原産国を中華人民共和国と表示している。日本企業が設計・販売する商品を一律に「日本製」と呼べないことが、身近な用品からも分かる。[4]
この違いは、食べる製品の海外展開では特に重要になる。ジェトロの2024年の上海展示会報告は、当時、日本産ペットフードの中国への輸入が認められていなかったことに触れ、タイなどの登録工場を利用する生産の事例を紹介した。[7] 同機構の中国向け輸入ガイドも、調査時点を2024年11月と明記している。[8]
これは2024年当時の制度と対応を説明するもので、2026年のすべての商品・経路の輸入可否を一括して判断する根拠にはならない。重要なのは、出展できたこと、ブランドが日本企業のものであること、個々の製品を継続して輸入販売できることを別々に確認する姿勢だ。
現地の生産委託先を使う場合も、ブランド名だけでは品質管理を説明できない。原料や仕様をどう定め、どこで検査し、問題があったときにどのロットを追えるか。Japan.co.jpは、この実務を説明できることが、海外の販売店や飼い主との信頼につながると考える。
安全性の歴史が、信頼の中身を問う
日本では「愛がん動物用飼料の安全性の確保に関する法律」、通称ペットフード安全法が2008年に制定され、2009年6月1日に施行された。環境省の説明によると、犬猫用フードの基準、表示、事業者の届出、取引記録、問題が生じた場合の回収などを支える仕組みである。[9][10]
この制度の蓄積は、品質や安全性を抽象的な印象ではなく、確認できる手続きとして考える材料になる。ただし、国内の制度に沿っていることが、そのまま海外市場への販売許可や、他国製品に対する優位性の証明になるわけではない。
商品説明の境界も重要だ。農林水産省は、ペットフードでも成分や表示、広告、口頭での説明内容によっては動物用医薬品に該当し、別の規制を受ける場合があると案内する。[11] 年齢への配慮、日常の使いやすさ、疾病の予防・治療という異なる主張を、同じ「健康によい」で包まないことが必要だ。
高齢期のケアは、製品だけで完結しない
米国動物病院協会(AAHA)の2023年の犬猫シニアケア・ガイドラインは、診療、行動面への対応、併存する病気の把握、生活環境の調整などを含むケアを示している。[12] 用品はその一部を支えることができても、年齢表示や広告だけで、その動物に適した対応を決めることはできない。
この点は事業の機会を小さくするものではない。Japan.co.jpの分析では、使い方を分かりやすく伝え、販売後の質問に答え、必要な場合には獣医療へつなぐ仕組みが、商品と一緒に求められる。輸出するのは箱だけではなく、正しく使ってもらうための情報でもある。
現地語の説明、寸法や適合条件、返品・交換への対応は、初回の売上の後に効いてくる。売り場で目を引いた製品が、家庭でも使い続けられるか。その確認なしに、展示会のにぎわいを市場への定着と呼ぶことはできない。
商談の先で測る、成長の質
今後の評価軸は、出展社数に加え、販売契約が実際の出荷につながったか、再注文が続いたか、苦情や返品を改善につなげられたかである。新しい市場を開くには、売上の増加だけでなく、物流や販売支援を含む費用を引いた事業の持続性も要る。
高齢のペットを支える用品は、華やかな展示より、毎日の小さな動作で評価される。上海、台北、インドで見える日本企業の取り組みが長く続く事業になるかは、各地の飼い主が、その製品によって暮らしを少し続けやすくできるかにかかっている。日本で蓄積した経験の価値は、国名の表示だけでなく、使った後の納得として伝わるはずだ。
- ジェトロ:Pet Fair Asia 2026、日本企業31社が出展(2026年9月9日)
- ペットフード協会:2025年全国犬猫飼育実態調査・主要指標サマリー
- ペティオ:zuttone(ずっとね)商品紹介
- ペティオ:老犬介護用 補助機能付ベストK L
- ユニ・チャーム:インドのペットケア市場へ参入(2026年7月2日)
- ジェトロ:台北ペット見本市への初のジャパンブース(2026年7月17日)
- ジェトロ:Pet Fair Asia 2024とシニアペット分野(2024年9月12日)
- ジェトロ:中国のペットフード輸入ガイド(調査時点2024年11月)
- 環境省:ペットフード安全法・法のあゆみ
- 環境省:ペットフード安全法の概要
- 農林水産省:ペットフードの安全関係・事業者向け案内
- 米国動物病院協会(AAHA):2023年犬猫のシニアケア・ガイドライン
