診察室では歩けたのに、夕方の台所では足が出ない。薬が効いて動きやすくなっても、食事や着替え、外出への不安は残る。パーキンソン病の治療を暮らしにつなげるには、症状の名前だけでなく、いつ、どこで、何に困るのかを言葉にする必要がある。

国立精神・神経医療研究センター(NCNP、東京都小平市)は9月19日、パーキンソン病・運動障害疾患(PMD)センターの市民公開講座を開く予定だ。題名は「パーキンソン病とともに歩む~パーキンソン症候群も含めた最新治療・リハビリ・暮らしのヒント~」。薬や手術に加え、リハビリテーション、心理面、福祉制度までを同じプログラムに置く。[1][2]

治療と生活を、一つの場で考える

開催は午後1時〜4時20分。会場はNCNP教育研修棟ユニバーサルホールで、ウェブでも同時開催する。参加無料、事前申込制。会場定員は先着50人で、公式チラシの申込期限は現地参加が9月15日、ウェブ視聴が18日正午となっている。19日付の本記事が出る時点では、掲載された期限はいずれも過ぎている。申込済みの人は届いた案内を確認し、当日参加が可能と決めつけて来場しないようにしたい。[1][2]

予定されている内容は、治療総論、手術、痛みと機能障害、認知行動療法、リハビリのエビデンスから、運動、日常生活の工夫、薬、医療福祉制度、デバイス治療、プログラム入院へと続く。ここで紹介する医学的背景は公表資料に基づく解説であり、当日の講演を取材した記録ではない。[2]

Japan.co.jpが注目するのは、この並び方だ。医療機器の選択と、自宅で続けられる動作の工夫を別の世界にしない。患者が望む生活を出発点にすれば、複数の専門職が関わる理由も見えてくる。

ふるえだけでは捉えられない病気

パーキンソン病では、動作が遅く小さくなる運動緩慢、筋肉のこわばり、安静時のふるえなどがみられる。運動に関わる神経伝達物質ドパミンを作る神経細胞の減少が、主な運動症状に関係する。ただ、本人の困りごとがいつも外から見えるとは限らない。[8][9]

NCNPの患者向け説明には、便秘や頻尿、立ちくらみ、気分の落ち込み、意欲の低下、不眠、日中の眠気といった非運動症状も挙げられる。声が小さくなることや飲み込みにくさも、会話や食事の時間を変える。症状の組み合わせは人によって異なる。[4]

「さっきはできたのに」という家族の戸惑いも、相談の入口になる。動きやすさの変化を気持ちの問題と片づけず、時刻や服薬との関係を確かめる。本人が感じる困難と、周囲から見える動作の違いを、医療者に伝えられる形にすることが大切だ。

似た症状でも、診断は同じとは限らない

講座がパーキンソン症候群も対象にする点は重要だ。パーキンソン病に似た動作の遅さやこわばりを示しても、背景には別の疾患や薬剤の影響がある場合がある。研究班の療養の手引きは、こうした鑑別の必要性を説明している。症状の一覧だけで自分の診断を決めることはできない。[8]

NCNPのPMDセンターは、進行性核上性麻痺、多系統萎縮症なども診療対象にする。似た症状だから同じ薬や手術が同じように効くとは限らず、診断とその時点の状態に応じた評価が必要になる。公開講座は知識を整理する場であり、個別の診療の代わりではない。[3]

200年の歴史と、日常を変えた治療

病名は、1817年に病気を報告した英国の医師ジェームス・パーキンソンに由来する。その後の治療の大きな転機となったのが、脳内でドパミンに変わるL-ドパ(レボドパ)だった。難病情報センターは、1970年代の導入が治療を大きく進めたと説明している。[8][5]

日本では脳深部刺激療法(DBS)が2000年4月から保険適用となった。薬に加えて、脳の特定の部位を電気刺激で調整する選択肢が広がった歴史である。ただし、症状を改善することと、病気の原因を取り除くことは同じではない。薬やDBSの効果を「治癒」と言い換えることはできない。[5]

この歴史が生活に与える意味は、治療が増えたという数の話にとどまらない。何を改善したいのか、どの負担なら受け入れられるのかを、本人と医療者が話し合う場面も増える。新しさだけで治療の優劣を決めず、自分の症状や生活に合うかを問う必要がある。

薬が効く時間と、一日の過ごし方

レボドパ治療では、次の服薬前に効果が薄れて動きにくくなる「ウェアリングオフ」が問題になることがある。本人の意思とは関係なく体が動く「ジスキネジア」も、治療上の課題だ。動きにくさと動きすぎは別の現象で、同じ「調子が悪い」という言葉だけでは伝わりにくい。[5]

診察で話す準備として、服薬時刻、困った動作、その時間帯を簡単に記録する方法がある。細かい記録を完成させることより、生活の中の変化を共有することが目的だ。以下は、Japan.co.jpが相談の整理用に作った例で、診断や薬の調整を指示するものではない。

次の診察で話すための整理例(Japan.co.jp作成)
暮らしでの変化相談に添える情報
動きにくい時間がある時刻、服薬時刻、困った動作
意思と関係なく体が動く起きた時間帯、生活への影響
食事や服薬でむせる食べ物・飲み物、起きる頻度
眠れない、支える家族も疲れる夜間の様子、必要な手助け

薬を急に減らしたり中止したりすると、症状の悪化などにつながることがある。副作用が疑われる場合も自己判断で調整せず、処方した医師や薬剤師へ相談する。研究班の手引きも、自分で薬を中止せず主治医に連絡するよう説明している。[8]

手術やポンプは、適応を見極めて選ぶ

NCNPはDBSについて、薬は効くが持続時間が短く一日の症状に波がある場合や、ジスキネジアが問題になる場合などに有効なことがあると説明する。電極を入れる部位を含め、患者ごとの評価が必要だ。すべての症状を一括して解消する治療ではない。[7]

持続投与による治療には、レボドパ・カルビドパ配合経腸用液療法(LCIG)や、ホスレボドパ・ホスカルビドパ配合持続皮下注療法がある。薬を届ける方法を工夫して症状の変動に対応するもので、脳を電気刺激するDBSとは仕組みが異なる。どれを選ぶかは専門医の評価を要する。[5]

本人が扱いやすいか、家でどのような支援が必要か、通院を続けられるか。こうした問いは、治療効果と別に後回しにする話ではない。装置が生活に入る以上、本人と家族が理解し、続けられる条件も相談に含めたい。

リハビリは、歩く練習だけではない

日本神経学会の2018年診療ガイドラインは、リハビリテーションを薬物・外科治療と組み合わせる位置付けで示す。理学療法士は運動や移動、作業療法士は日常生活の動作、言語聴覚士は発声や嚥下などに関わる。治療の目標は、検査上の動作を改善することだけでなく、生活で使える力につなげることにある。[6]

運動には身体機能や歩行、バランスなどへの効果が示されているが、誰にでも同じ訓練量が適するわけではない。転倒の危険や体調、ほかの病気を踏まえて内容を決める。研究班の手引きは、専門家の助言を受け、症状に波がある場合は動きやすい時間帯を生かす考え方を紹介している。[6][8]

着替えに時間がかかる、食卓で声が届きにくい、薬を飲むとむせる。これらは、それぞれ相談できる課題である。飲み込みの問題は、食べ物の形や姿勢を一律に変えれば済むとは限らない。むせや体重減少などがあれば、医療者に伝えて評価を受けたい。[8]

心理面と、支える人の生活も含めて

NCNPは、睡眠や不安への対応で専門部門と連携するほか、嚥下を評価し、本人と家族の希望を聞きながら栄養の取り方を考えると説明する。講座に認知行動療法が含まれることも、身体と心理を別々に扱わない姿勢を示している。病気を本人の考え方や努力不足のせいにする話ではない。[3][2]

家族の側にも、夜間の対応や通院の付き添い、仕事との調整がある。本人が続けたいことと、家族が無理なく支えられることを、両方言葉にする必要がある。手助けを増やすことだけでなく、本人が自分で選べる部分を残すことも、支援の目標になり得る。

パーキンソン病は指定難病6だが、診断された全員が同じ条件で医療費助成を受けられるわけではない。重症度や継続的な医療費などの要件がある。制度利用は医療機関の相談窓口や自治体で個別に確認したい。[9]

講座から持ち帰るものは、新しい治療名だけでなく、次の診察で尋ねたい一つの問いでもよい。朝の支度を楽にしたい。友人との食事を続けたい。支える家族も眠れるようにしたい。医療の進歩を暮らしの言葉に結び直すことが、パーキンソン病とともに歩むための具体的な一歩になる。