37%原油市場の変動を最大リスクと回答
21%為替変動を選択
19%金利上昇を選択
215ロイター調査への回答企業数

「原油」が為替を上回った

10月8日に公表されたロイターの企業調査で、業績上の最大の懸念として「原油価格の変動」を選んだ回答企業が37%に達した。為替変動は21%、金利上昇は19%。日本企業の経営を左右する三つの変数のうち、エネルギー調達の不確実性が最も重く受け止められている。これは国内すべての企業を対象とする統計ではない。508社への調査で回答した215社の判断を示すものであり、個別企業の損失額まで表すものでもない。

問題は「高値」だけではなく「読めない」こと

石油を使う工場にとって、価格の上昇は原価を押し上げる。しかし、値上がりと値下がりが短期間で交錯する相場は、調達計画、在庫、製品の見積もりをいっそう難しくする。固定価格で受注した後に燃料費が上がれば、売上高が増えても利益は細る。反対に長期契約や在庫の評価方法によって影響が遅れて表れることもある。国際相場の数字だけで四半期利益を推測するのは危険だ。

遠い中東が日本の工場に近い理由

資源エネルギー庁の2025年公表資料によると、2023年度の原油輸入に占める中東の割合は94.7%だった。同庁の別の2025年解説は直近の依存度を約95.1%としている。年度と集計資料が異なる数字を混同してはならないが、日本の調達が中東に大きく偏るという構造は一貫する。ホルムズ海峡を含む海上輸送経路に混乱が生じれば、原油そのものだけでなく、保険、運賃、納期への不安も高まる。

1973年、日本は石油の意味を知った

高度経済成長期、日本の一次エネルギー供給に占める石油の割合は1973年度に75.5%に達した。第一次、第二次の石油危機は、海外で起きた供給問題が国内の生活と企業活動を直撃することを刻み込んだ。以降、天然ガス、石炭、原子力、再生可能エネルギーなどを組み合わせる政策が進み、石油が占める比率は低下した。ただし、製造原料と輸送燃料としての石油を簡単に置き換えられない分野が残っている。

愛媛の紙・化学・造船に伝わる波紋

四国中央市周辺の紙・紙加工、新居浜の化学・工業、今治の造船・海運は、愛媛経済を支える異なる産業群だ。エネルギー集約度や契約は企業ごとに違うが、蒸気や熱、樹脂、塗料、潤滑油、輸送などを通じて原油市場と接点を持つ。製紙は燃料と電力に加えて物流コストを、造船は鋼材や塗料などの調達を、海運は燃料価格と運賃市況をそれぞれ考慮する必要がある。愛媛県の個別企業が今回いくら損失を被ったかは、公表された決算を検証しない限り断定できない。

原油、ナフサ、樹脂――価格転嫁までの長い道

石油由来の化学原料ナフサは、樹脂や合成繊維など幅広い素材の出発点となる。原油高は製油、石油化学、部材製造という段階を経て、自動車部品、包装材、建材などへ波及し得る。だが価格転嫁の速度は同じではない。発注側との交渉力が弱い中小メーカーほど、原材料の値上がりと製品価格の改定時期がずれる危険がある。

船に積む燃料、船を造る原料

海運では燃料費が直接の問題となるが、燃料調整条項や運航距離、船種によって負担の所在は異なる。船舶を建造する企業では、大口の工事契約を結んでから引き渡すまでに時間がかかるため、調達価格が変わるリスクがある。契約時に価格調整の仕組みを設けられるか、顧客に追加コストを説明できるかが採算を分ける。原油高だから造船企業すべてが減益するという単純な図式は成り立たない。

円安は追い風にも逆風にもなる

原油は国際市場で米ドル建てで取引されることが多い。円安は輸入原油の円換算コストを押し上げ得る一方、輸出企業の売上高の円換算額にはプラスに作用し得る。輸入原料の比率、販売先、為替予約の状況を確認しなければ、企業単位の損益は読めない。10月9日午前11時48分の参考為替レートは1ドル158.09円だが、記事中の参考値を実際の調達約定レートとみなすことはできない。

金利と価格高騰の「二重負担」

ロイター調査で金利上昇も主要な懸念として挙がった。エネルギー高によって在庫や運転資金を多く要する時期に、借入コストまで増えれば、設備投資や人員確保が難しくなる。とりわけ価格交渉力が限定的な中小企業では、利益率だけでなく資金繰りを見なければならない。金利、為替、原油を別々のニュースとして扱うだけでは企業の負担の全体像を見誤る。

2026年の中東情勢と市場の急変

ロイターは2026年の中東での武力衝突と供給制約が原油市場を圧迫していると報じる。10月8日には原油相場が再び上昇し、WTIとブレントの値動きは株式・債券市場のインフレ警戒とも結び付いた。ただし、取引時点ごとの相場は変わり続ける。この記事は一日の高値を将来の恒常的な水準とみなさず、経営上の価格変動リスクに焦点を当てる。

備蓄は時間を買うが、価格を固定しない

石油備蓄は突発的な供給断絶に備える重要な制度である。しかし備蓄からの放出があれば必ず原油価格が一定水準まで下がるわけではない。物理的な供給余力、製油能力、国際物流、需要見通しなどが重なって価格が決まるためだ。企業にとって必要なのは国家の安全保障措置への期待だけでなく、自社の購買と在庫の設計である。

決算書では何を見るべきか

今後公表される企業決算では、売上総利益率、燃料・材料費の変動、価格転嫁の進捗、営業キャッシュフローを確認したい。海運なら燃料サーチャージや契約形態、メーカーなら原料の仕入れ条件や稼働率、エネルギー投資が重要になる。原油相場と会社の決算数値を一対一で結び付けることはできない。どの費用が、いつ、どの取引を通じて利益に反映されたかを追う必要がある。

省エネ投資は「環境」だけの話ではない

熱利用の効率化、設備更新、電化、調達先の分散、再エネ電力の導入は、脱炭素だけでなく価格変動への耐性にも関係する。ただし初期投資が重く、代替技術や電力価格の不確実性もある。重要なのは補助金を得た件数ではなく、単位生産量当たりのエネルギー使用量と、危機時の生産継続力が改善するかどうかだ。

愛媛から見える、日本企業の経営課題

瀬戸内の工場や港は、世界との結びつきによって成長してきた。その接続は輸出機会を生むと同時に、海上輸送と海外資源の価格変動を取り込む。2026年の企業調査が浮かび上がらせるのは、企業が原油そのものを制御できない現実である。制御できるのは、契約、技術、資金、情報といった備えの質だ。石油の値段が下がるのを待つだけでは、次の危機に強い産業はつくれない。

出典・参考資料

  1. ロイター企業調査・2026年10月8日
  2. 資源エネルギー庁「エネルギー白書2025」資源供給国との関係
  3. 資源エネルギー庁「エネルギー動向」一次エネルギー需給の歴史
  4. 資源エネルギー庁「原油の輸入先と中東依存度」
  5. 資源エネルギー庁「2025年 日本が抱えているエネルギー問題」
  6. ロイター「10月8日の原油相場」
  7. 日本銀行「企業物価指数」
  8. 愛媛県「産業政策課」

確認基準日:2026年10月9日。ロイター調査の割合は回答215社の結果であり全国の企業に一般化できません。愛媛県内の個別企業について具体的な損益影響を確認したものではありません。エネルギー庁の依存度は年度別の数値を明示しました。