携帯電話会社は、電波をめぐって競争する。より広く、より速く、よりつながるネットワークをつくることは、料金や端末と同じく各社の競争力そのものだ。その4社――KDDI、NTTドコモ、ソフトバンク、楽天モバイル――が、28GHz帯の5G「ミリ波」について、事業者の垣根を越えた共同検討を始める。
4社は9月11日に覚書を締結し、9月16日に公表した。検討対象は、5Gミリ波基地局の利用エリアを通信事業者間で広げる技術的な実現可能性と、実現した場合の効率的な運用の仕組み。基地局だけでなく、中継器など関連設備の技術・方式も対象になる。4社は同時に、各社が自社のミリ波設備を引き続き展開することも前提としている。[1] [2]
なぜ28GHzは速く、そして広げにくいのか
ミリ波の魅力は帯域の広さにある。ドコモは28GHz帯で400MHz幅を利用し、高速・大容量通信を提供していると説明する。2020年9月にドコモがミリ波サービスを始めた時点では、技術規格上の受信時最大速度は4.1Gbpsだった。[5]
しかし高い周波数には代償がある。4社の共同発表が明記するように、ミリ波は直進性が高く、建物、壁、樹木、人の群れなどの遮蔽物の影響を受けやすい。低い周波数のように遠くまで回り込ませて一つの基地局で広い面を覆うのが難しい。結果として、同じ街をカバーするにも多数のアンテナ、基地局、中継器、電源、回線、設置場所が必要になる。[1]
波長を光速から単純計算すると28GHzは約10.7ミリメートル。名前どおり「ミリ」の世界だ。小さなアンテナ素子を多数並べて鋭いビームを形成しやすい一方、電波が届く経路の設計は難しくなる。高速通信を実現するための周波数そのものが、面的な普及の障壁にもなる。
5Gは2020年に始まった。しかし「5G」と「ミリ波」は同義ではない
日本の商用5Gは2020年春に始まった。ドコモは3月25日、KDDIは3月26日、ソフトバンクは3月27日にそれぞれ商用5Gを開始した。楽天モバイルも同年、5Gネットワークの構築を進めた。[7] [8] [9]
ここで混同しやすいのは、「5Gのエリアが広がった」ことと「28GHzミリ波が広がった」ことは別だという点だ。5Gには、28GHzのようなミリ波だけでなく、3.7GHz、4.5GHzなどのSub6帯、さらに4Gで使ってきた周波数を5Gへ転用する方法もある。広域をまず5G表示にすることと、非常に広い帯域を持つミリ波を密に敷くことでは、ネットワーク設計もコストも違う。
ドコモは2019年9月、商用免許の28GHz帯を使った「5Gプレサービス」を開始し、翌2020年9月23日に28GHzの商用サービスを始めた。当初の対応地点は66か所、同月末には164か所を予定していた。これは、ミリ波が最初から全国を面で覆う技術として展開されたのではなく、必要な場所へ点を置く形で始まったことを示している。[6] [5]
今回の共同検討には「前史」がある
4社が突然、競争をやめたわけではない。日本のモバイル網ではすでに、競争領域を残しながら設備を共用する動きが進んできた。
代表例がKDDIとソフトバンクの5G JAPANだ。両社は2020年に共同出資会社を設立し、地方を中心に5G基地局資産を相互利用してきた。2024年の発表では、2020年度から2023年度末までに1社あたり3万8,000局超を共同構築し、設備投資コストを1社あたり450億円削減したとしている。両社はさらに、2030年度までの累計で1社10万局、1社あたり1,200億円のコスト削減を目標として協業範囲を全国へ広げる検討を始めた。[4]
2026年には、キャリア横断の協調が別の形でも現れた。4月には、大規模災害や通信障害時に契約先以外の4G LTE網へ一時接続できる「JAPANローミング」が始まった。これは通常時のネットワーク共用ではないが、「競争するネットワークを、必要な条件ではつなぐ」という思想が制度として形になった例だ。[13]
そして5月、KDDIとドコモは京セラの協力で、両社の28GHz電波を1台で同時に中継できる共用中継器を開発した。従来は事業者ごとに必要だったフィルターや増幅回路を一つの筐体に共用化し、両社の信号を検出して最適なアンテナ面を選ぶ。各社が別々に中継器を置く場合に比べ、施工費と設置スペースを減らせると説明している。[3]
中継器が重要な理由――基地局を増やす以外の道
ミリ波のエリアを広げる最も単純な方法は基地局を増やすことだ。しかし、都市では「どこに置くか」が難しい。建物所有者との交渉、電源、光回線などのバックホール、機器の重量、景観、保守、工事のたびに費用が発生する。
中継器は、すでに届いているミリ波を受け、別方向へ送り直す。KDDIとドコモが開発した共用機は216ミリ四方、高さ246ミリ、重さ4.9キログラムで、一般的なミリ波基地局に比べて大きさと重さを約7割削減したとしている。街路灯などにも設置しやすく、周囲の環境変化に応じて中継経路を自動で選び直す機能も持つ。[3]
ここに4社共同検討の核心がある。すべての場所に4社が別々の基地局や中継器を並べるより、物理設備の一部をうまく共有できれば、同じ街路空間から得られる通信価値を高められる可能性がある。ただし、4社がどの方式まで踏み込むかは今回の発表では示されていない。
「使える場所」を増やすという発想
2026年のミリ波活用を見ると、全国を均等に塗るより、人とトラフィックが集中する場所へ強く入れる方向が目立つ。
KDDIは8月の「コミックマーケット108」で、5Gミリ波中継器を搭載した車載型基地局をイベント対策として初導入した。さらに9月の「ROCK IN JAPAN FESTIVAL 2026」では、28GHzを来場者のスマートフォンへ直接届けるだけでなく、誰でも利用できるWi-Fiのバックホールとして商用利用した。ミリ波対応端末を持たない来場者も、Wi-Fiを通してミリ波の大容量回線を間接的に使える構成だ。[10] [11]
別の難題は車内だ。KDDIとJR東日本は2026年、山手線車両の窓にミリ波対応ガラスアンテナを設置し、屋外基地局の電波を車内で増幅・再放射する実証を行った。留置車両で、1Gbpsを達成可能なエリアが車内全体の約40%から約97%へ拡大したとしている。金属製の車体が遮蔽物になる問題を、電波を「中へ引き込む」ことで解こうとした例だ。[14]
ドコモも8月、大手町・丸の内・有楽町で三菱地所と次世代スマートシティづくりに着手した。そこでは既存の28GHzに加え、2026年6月にオークションで獲得した26GHz帯を組み合わせ、ガラスアンテナなどを使って景観と通信品質を両立させるとしている。ミリ波は「28GHzだけの一技術」から、高密度都市の通信容量を支える帯域群へ広がりつつある。[12]
4社が共有できるもの、共有しにくいもの
基地局には、アンテナだけでなく無線装置、制御装置、コアネットワークへの接続、認証、課金、運用監視など多くの層がある。物理的な鉄塔や場所を共有することと、無線装置を共有すること、同じ電波設備へ複数社の利用者を収容することは同じではない。
今回の4社発表は、5Gミリ波基地局と中継器「など」に関する技術・方式を検討するとだけしている。したがって、どのレイヤーまで共同化するかを現時点で断定すべきではない。少なくとも発表文から確認できるのは、既設設備を有効活用し、通信事業者間で利用エリアを広げられるかを評価するという方向性だ。[1]
- 4社ユーザーが互いの28GHz基地局へ通常時にローミングするのか
- 周波数そのものを共同利用・共同運用するのか
- どの基地局ベンダー、RAN構成、認証方式を採るのか
- 設備投資や運用費をどのように分担するのか
- 実証地域、開始時期、商用化時期
- 既存のKDDI・ドコモ共用中継器を4社対応へ拡張するのか
「同じ設備を使う」と「同じ品質になる」は違う
インフラ共用には経済合理性がある一方、競争政策上の緊張もある。携帯各社は料金だけでなく、通信品質や混雑時の容量、基地局配置、運用最適化を競ってきた。設備を共有すれば無駄な重複投資を減らせる可能性があるが、共有範囲を広げすぎれば、各社がネットワーク品質で差をつける余地をどう残すかという問題が生じる。
4社は今回、「各社がミリ波のエリア展開を自ら進めることを前提」と明記した。これは重要な一文だ。共同検討は、自社設備投資の代替ではなく補完として位置付けられている。[1]
利用者の側から見ても、設備共用が決まっただけで全員のスマートフォンが直ちに28GHzへつながるわけではない。端末側が対応する周波数と方式、基地局側の設定、契約ネットワークとの認証、電波環境がそろって初めて通信できる。共同化は「電波がある場所を増やす」ための条件の一つであって、体験全体を自動的に統一する仕組みではない。
6年目の5Gが突きつけた、もっと地味で重要な問い
2020年、5Gの物語は「何Gbps出るか」で始まった。2026年の問いはもっと地味だ。アンテナをどこに置くのか。狭い場所に何台置けるのか。誰が工事費を負担するのか。人が密集する場所で、本当に必要な容量をどう届けるのか。そして、競争相手どうしがどこまで設備を共有すれば、競争を壊さずにネットワークだけを効率化できるのか。
ミリ波は、その問いを最も厳しく突きつける。広い帯域を持つ一方、遠くへ飛びにくい。高速だが、設置場所を選ぶ。5Gの中で最も華やかな性能を持つ周波数が、最も地道な都市インフラ設計を要求する。
4社の覚書は、まだ答えではない。だが、KDDIとドコモの共用中継器、KDDIとソフトバンクの5G JAPAN、非常時のJAPANローミングという積み重ねの先に、今度は4社が同じ28GHzの物理問題を一緒に考え始めた。
日本の5Gが次の段階へ進むとすれば、競争の勝敗だけではなく、競争しながら何を共有するかを設計する能力が、その速度を左右することになる。
- NTTドコモほか4社「通信事業者間での5Gミリ波の利用エリア拡大に向けた共同検討を開始」2026年9月16日
- KDDIニュースルーム「通信事業者間での5Gミリ波の利用エリア拡大に向けた共同検討を開始」2026年9月16日
- KDDI・NTTドコモ「ミリ波エリアを効率的に拡大する共用中継器を開発」2026年5月27日
- ソフトバンク・KDDI「5Gネットワーク共同構築の協業範囲を拡大」2024年5月8日
- NTTドコモ「『ミリ波』を利用した5Gサービスの提供を開始」2020年9月18日
- NTTドコモ「5Gプレサービスを9月20日より開始」2019年9月18日
- KDDI・沖縄セルラー「au 5G、3月26日から開始」2020年3月23日
- ソフトバンク「SoftBank 5G」の商用サービス開始に関する発表、2020年3月5日
- 楽天モバイル「5Gで社会はどう変わる?」2020年4月30日
- KDDI「コミックマーケット108における屋外の5Gエリア対策」2026年8月14日
- KDDI・Wi2「ROCK IN JAPAN FESTIVAL 2026へ5Gミリ波バックホールWi-Fiを商用導入」2026年9月11日
- NTTドコモ・三菱地所「丸の内エリアで次世代スマートシティ構築連携」2026年8月24日
- 携帯5社「JAPANローミング」2026年4月1日提供開始
- KDDI・JR東日本「JR山手線の車両内を5G(ミリ波)エリア化する実証に成功」2026年5月20日

