海洋性の細菌から作った肥料で、収穫量と環境負荷の両立を図れるか。理化学研究所と京都大学の研究グループは、紅色光合成細菌由来の肥料がブロッコリーの収量を維持・向上させる可能性を示した。8月公表の研究は、肥料の新たな原料候補として注目される一方、普及には費用と長期的な効果の検証が必要だ。[2]

研究には、理研の沼田圭司(ぬまた・けいじ)チームディレクターらが参加した。[1] 成果は8月6日、学術誌「npj Sustainable Agriculture」に掲載された。[2] 今回は研究解説として、農業者や資材メーカーにとって何が判断材料になるかを整理する。

菌体を加工して窒素源に

原料は海洋性紅色光合成細菌の一種、Rhodovulum sulfidophilum。培養した菌体を溶解・乾燥させた加工バイオマス(PB)を肥料として使う。生きた菌を畑で増やすことを狙った資材ではなく、菌体に含まれる窒素を作物の栄養として利用する仕組みだ。[1]

京都大学は、この資材から窒素が緩やかに放出される性質を確認し、ブロッコリーのほ場試験で肥料としての有効性を示したと説明する。[2] 農業者にとっては、必要な時期に必要な養分を供給できるかが重要になる。

排出削減の数字には試験条件がある

亜酸化窒素(N₂O)の排出は、栽培試験とは別の土壌培養実験で調べた。論文によると、標準量の1.5倍の窒素を与えた条件同士の比較で、PBは無機肥料より3日目の排出が約73%少なかった。19日目の差は約44%だった。[3]

これは特定の日と施肥条件における比較であり、農場全体の年間排出量が73%減るという結果ではない。また、投入量を増やしたPBでは、無機肥料と同程度の排出が生じる場合もあったと理研は説明する。[1] 原料の選択に加えて、使う量や時期を調整することが欠かせない。

実証から事業化へ、費用をどう下げるか

理研によると、スズキおよびSuzuki R&D Center Indiaとの共同研究で実証実験を進めている。[1] 企業が関わる次の検証として注目したいが、これを製品の発売や農家への普及が決まったという意味に受け取ることはできない。

編集部の分析では、事業化を左右するのは、培養から加工、輸送、散布までを含めた費用だ。肥料1キログラムの価格だけではなく、同じ収穫量を得るために必要な施肥量や作業時間を合わせて比較する必要がある。

環境面も同様だ。土壌からの排出が少なくても、製造や乾燥にどれだけエネルギーを使うかで、製品全体の評価は変わる。今後の実証では、収量、費用、製造から使用までの排出を同じ条件で比較できる情報が欲しい。

地域や作期を広げて確かめる

今回の成果は、新たな肥料原料の選択肢を示すものだ。導入を考える農業者に必要なのは、自分の土壌や栽培時期でも効果が続くかという情報になる。施肥設計の使いやすさと収益性まで示されて初めて、研究上の可能性を経営上の判断につなげられる。

出典

  1. 理化学研究所:微生物由来窒素肥料の研究発表(2026年8月6日)
  2. 京都大学工学研究科:研究成果の紹介(2026年8月7日)
  3. 原著論文:Effects of marine purple bacterial fertilizer on mineralization, nitrous oxide emissions and broccoli yield(2026年8月6日)