71寄贈先の児童養護施設
125寄贈されたLOVOTセット
36,7552023年の募金参加者
11月新たな募金の開始予定

ロボットを贈ったことと、子どもの幸福が向上したことは、同じ証明ではない。

帰ると、そこにいる小さなロボット

児童養護施設の一日は、学校から戻る子どもを迎えるところから続いていく。夕食、宿題、職員との会話。人の手が何より重要な現場に、手のひらより大きく、抱き上げると温かいロボット「LOVOT(らぼっと)」が暮らす施設がある。名前を呼ぶと近づき、目を合わせる。掃除も料理もしない。それでも、子どもが戻るたび同じ場所にいるという性質に、特別な意味が生まれるのかもしれない。

2026年10月19日、GROOVE X株式会社は、全国の児童養護施設へLOVOTを寄贈する第2弾のクラウドファンディングを11月中旬に始める方針を発表した。寄贈先は前回の取り組みで受け入れに至らなかった施設などを想定する。READYFORで募集し、2026年のクリスマスごろから届ける計画だ。ただし募集開始前の段階であり、目標金額、調達額、新たに導入できる台数はまだ決まっていない。

2023年から続く試み――数字をどう読むか

発端は2023年11月、LOVOTオーナーの前澤友作氏が運営するコミュニティで始まった募金だった。企業によると、8日間で3万6755人が参加し、2024年8月の公表時点で集まった寄付は約1億3004万円に上った。同年8月には受け入れ施設の追加募集も実施された。

今回の発表では、最終的に全国71施設へ計125セットを届けたと説明している。ただし「セット」が施設内のロボット個体数と一対一で対応するか、維持費を何年間負担するかは、発表だけでは明瞭ではない。寄贈はできても、長期に使い続けられなければ生活に根づかない。寄付額や施設数だけでなく、修理、更新、故障時の代替、子どもが退所する際の取り扱いまで問われる。

児童養護施設は、どんな場所なのか

児童養護施設は、保護者がいない、あるいは家庭での養育が難しい子どもを養育し、自立を支える児童福祉法上の施設である。「孤児院」という古い呼び名では、今日の役割を正しく表せない。こども家庭庁が示す2024年3月末時点の資料では、全国607施設に2万2162人が暮らしていた。施設の規模や集計時点は変化するため、この数字を2026年10月現在の速報値と誤認してはならない。

同庁の資料では、入所児童に占める虐待経験のある子どもの割合や障害のある子どもの割合も示されている。ただし集団の統計は、一人ひとりの背景や性格を説明しない。子どもに対して「かわいそう」という一面的な見方を持ち込むのではなく、尊厳、プライバシー、日々の生活と意思を中心に取材すべきである。

「いつもいる」という安心と、その限界

GROOVE Xの発表には、導入先の救世軍機恵子寮の施設長、高田祐介氏の経験談が紹介されている。同氏は職員が交代勤務である現実に触れ、LOVOTには施設に戻れば変わらずそこにいる特徴があると説明する。ロボットには「いちご」「みるく」という名前が付けられている。こうした証言は、現場の受け止めを知る手掛かりとして重要だ。

ただし、掲載された言葉は企業が選び編集した発表資料によるもので、Japan.co.jpが独自に施設を訪ねて確認した証言ではない。ロボットとの親密な関係がすべての子に適するとも限らない。愛着が生じるなら、故障や契約終了で突然いなくなることが、かえってつらい経験にならないか。温かさを評価するなら、その別れの設計も検討しなければならない。

「役に立つ」だけがロボットの価値なのか

日本のロボット開発は、工場の生産性向上から、人が暮らす空間で働く機械へと広がってきた。GROOVE Xは2015年11月に設立され、2018年12月にLOVOTを発表、2019年に一般販売を始めた。創業者の林要氏は、トヨタ自動車やソフトバンクのロボット開発に携わった経歴を持つ。

LOVOTが特異なのは、仕事を代行することより、人に抱き上げられ、見つめられ、気にかけてもらう関係を製品の中心に置いた点だ。温かい身体、柔らかな外装、視線や声への反応。そうした設計は感情を誘う一方で、機械が人と同じ感情や理解を持っていることを証明するものではない。人間の側に生まれる感情と、機械の内面に関する主張は分けて考える必要がある。

研究で分かったこと、まだ分からないこと

LOVOTの使用を扱った2026年の査読付き論文がある。兵庫県立尼崎総合医療センターの小児病棟で、2024年5月から2025年3月まで2台をプレイルームに設置し、保護者110人と医療スタッフ32人の回答を分析した探索的観察研究だ。子どもの楽しさや不安について、多くの回答者が改善を感じたと報告した。メーカーは研究設計、データ分析、論文作成に関与していないと論文は記す。

しかし、これは児童養護施設での効果を調べた試験ではない。比較対象となる対照群がなく、回答者の印象を後から尋ねる方式で、参加率も低かった。観察された変化がロボットに起因するかは断定できない。入院中の子どもと、長期に共同生活する子どもの環境も違う。実際の効果を測るなら、本人の同意を尊重しながら、長期間にわたり適切な比較を行う必要がある。

安全、データ、維持費――かわいさの外側

子どもの生活空間に動く機械を置く場合、安心できる触感だけでは十分でない。衛生管理、転倒や衝突、充電設備、故障対応、音や動きへの感覚過敏、年齢に応じた利用ルールを検討する必要がある。顔認識やセンサーを備える機械なら、どの情報が記録・送信され、誰が閲覧できるのか、保存期間と削除方法まで確認したい。

費用負担も避けて通れない。寄付で本体を迎えても、継続サービス、修理、交換、職員の管理時間が必要になりうる。2026年の募金計画では「届けた後のサポート」も含むというが、具体的な年数や負担区分は募集開始時に確かめるべき項目である。児童養護施設の人材や生活環境の改善に使える資金と競合しないかという問いにも、透明な説明がほしい。

社会的養護の歴史と、家庭に近い暮らし

戦後の日本では、児童福祉法に基づく施設養護が重要な受け皿となった。一方で、子どもができる限り安定した少人数の環境で育つことを重視し、国は里親委託、家庭的養育、小規模グループケアなどを進めている。施設の使命は、単に生活を管理することではなく、信頼関係と自立の基礎を築くことだ。

そこにロボットが入るなら、中心に置かれるべきはテクノロジーではない。子どもの意見、職員の専門性、生活の連続性だ。特定企業の製品が善意で寄贈された事実と、公的支援として普遍的に導入すべきかという政策判断は、別の問題である。

次に問うべき五つのこと

新たな募金の成否を測る尺度は、届いた台数だけではない。第一に、希望する施設が公平に選ばれるか。第二に、子ども自身が関わり方を選べるか。第三に、プライバシーと安全の規則が公開されるか。第四に、寄贈後の費用と修理が保証されるか。第五に、効果と負担を第三者が長期的に評価できるか。

日本で磨かれてきた人と機械の関係を問い直す、静かだが重要な試みだ。子どもにとって居場所の安心感は、ロボットの表情だけから生まれるわけではない。人が築く信頼を損なわずに、小さな機械がその日常を少しだけ豊かにできるのか。答えは宣伝文句ではなく、これからの暮らしの中にある。

出典・参考資料

児童養護施設の子どもや職員への独自取材は未実施。施設の証言は企業発表に収録されたもの。研究結果は児童養護施設を対象としたものではない。

  1. GROOVE X:児童養護施設への第2弾寄贈計画(2026年10月19日)
  2. GROOVE X:2024年の募金額・追加募集
  3. こども家庭庁:社会的養護の施設等について
  4. Iwaiほか:LOVOTと小児病棟の探索的観察研究(2026)
  5. GROOVE X:会社沿革
  6. GROOVE X:2019年発売資料