9月18日(金)の東京証券取引所には、まったく違う4社の名前が並ぶ予定だ。福岡と東京を拠点に基幹業務ソフト「大臣シリーズ」を手掛ける応研、空き駐車場を予約可能な在庫に変えてきた大阪発のakippa、新潟からGPSカートナビを全国のゴルフ場へ広げたテクノクラフト、そして不動産開発・販売・管理を一体で展開する東京のベルテックスである。JPXの9月カレンダーは、この4社を同日の新規上場として掲げている。[1]
だが、この「4社同日上場」を一つのIPO群として扱うと、大事な違いが消える。akippa、テクノクラフト、ベルテックスは一般投資家も参加するスタンダード市場への新規上場。一方、応研(おうけん、英語表記OHKEN)はTOKYO PRO Marketへの上場で、投資家は特定投資家等に限定される。審査の仕組みも開示制度も、一般市場とは同じではない。[2] [3] [4]
まず数字を見る――スタンダード3社は公開価格がそろって仮条件上限
| 会社 | コード | 市場 | 公開価格 | 公募 / 売出 |
|---|---|---|---|---|
| テクノクラフト | 622A | スタンダード | 650円 | 42.6万株 / 150.06万株 OA 28.89万株 |
| ベルテックス | 623A | スタンダード | 550円 | 315万株 / 60万株 OA 56.25万株 |
| akippa | 627A | スタンダード | 570円 | 37.8万株 / 183.31万株 OA 33.16万株 |
| 応研 | 620A | TOKYO PRO Market | 一般市場IPOと制度が異なる | JPXでは別ページ・別制度で掲載 |
JPXが公表する3社の仮条件と公開価格を照合すると、テクノクラフトは630〜650円に対して650円、ベルテックスは530〜550円に対して550円、akippaは540〜570円に対して570円となった。3社とも上限で決まったという事実は確認できる。ただし、それだけで上場初日の値動きや、その後の企業価値を予測することはできない。[2]
公開価格と公募・売出株数からJapan.co.jpが単純計算すると、オーバーアロットメント分を含む3社の株式の取引規模は合計で約52.6億円。そのうち新株発行に当たる公募分は約22.2億円で、残りの相当部分は既存株主による売出しだ。つまり「上場時に動く金額」と「会社に新たに入る資金」は同じではない。
応研――「大臣」を育ててきた46年と、プロ市場という選択
4社の中で最も長い歴史を持つのが応研だ。公式会社概要によると、創業は1980年11月、会社設立は1985年4月。東京・代々木と福岡・天神に本社機能を置き、2026年4月時点で社員380人。2025年12月期の売上高は70億400万円としている。[7]
主力は、財務会計の「大蔵大臣」を核に、給与、人事、就業、販売、顧客管理、建設業、医療法人、社会福祉法人などへ横展開してきた基幹業務パッケージ「大臣シリーズ」だ。クラウド化が進んだ現在も、企業の会計・人事・販売といった「止めにくい業務」を担う点は変わらない。[8]
応研の9月18日は、akippaなど3社とは違う。JPXのTOKYO PRO Market一覧ではコード620A、上場承認日は8月28日、担当J-Adviserはフィリップ証券と確認できる。[3]
TOKYO PRO Marketの原型は、東京証券取引所グループとロンドン証券取引所が共同出資して2009年に開設したTOKYO AIMだ。2012年に現在の名称となった。JPXによれば、この市場には株主数や流通株式数、利益額などについて一般市場と同じ数値基準を置かず、J-Adviserが上場審査を担う。投資できるのも特定投資家等に限られる。[4]
akippa――「駐車できない」を、予約できる市場へ変えた
akippa株式会社(ふりがなは東証資料で「あきっぱ」)は2009年2月設立。現在の駐車場マーケットプレイス「アキッパ」は2014年4月に始まった。サービスの考え方は単純だが、日本の都市問題と相性がいい。月極駐車場の未契約区画、個人宅の車庫、商業施設の空きスペースなどを、スマートフォンから予約・事前決済できる時間貸し駐車場へ変える。[9] [10]
会社発表では、2026年7月末時点の累計会員数は550万人、予約可能な駐車場掲載数は2025年12月時点の月平均で5万5,000件以上。上場予定日は9月18日、コード627A、公開価格570円。[9] [10]
akippaの歩みは、2000年代以降の日本で「シェアリング」という言葉が現実の在庫へ入り込んでいった過程とも重なる。ホテルの空室や車そのものだけではなく、使われていない駐車スペースにも価格と予約機能を与える。上場後に問われるのは、会員数の大きさそのものより、供給側の駐車場をどれだけ密に確保し、需要が集中するイベント・観光地・住宅地で予約価値を高められるかだろう。これはJapan.co.jpによる事業構造上の分析であり、会社の業績予想ではない。
テクノクラフト――新潟のGPS技術がゴルフ場から保育、健康管理へ
テクノクラフトは1995年、新潟でGPSを使ったゴルフカート運行管理システム「マーシャルナビ初号機」を開発し、栃木県のゴルフ場へ納入したことを起点とする。2004年には、ゴルフで培った位置情報技術を幼稚園・保育園・認定こども園向けの「コミュなび」へ展開した。会社は現在、ゴルフ、保育ICT、健康見守りを3本柱としている。[12] [13]
公式サイトによると、ゴルフ場向けカートナビは全国1,300コース以上で導入済み。さらにスマートウォッチなどを使った健康見守りへ領域を広げ、建設・運送現場の熱中症対策やバイタルデータ管理も手掛ける。技術の核はGPSだけではなく、通信、端末、ソフトウェアを現場向けに一体化するところにある。[13]
東証資料ではコード622A、公開価格650円、公募42万6,000株、売出150万600株、オーバーアロットメント28万8,900株。新潟発の企業が30年以上かけて育てた業務特化型技術が、スタンダード市場へ入る日になる。[2]
ベルテックス――不動産販売から管理・ファンドまで
ベルテックスは2010年12月設立。代表取締役の梶尾祐司(かじお・ゆうじ)は、同社公式プロフィールで神奈川県生まれ、屋久島育ちと紹介され、不動産会社での営業経験を経て会社を立ち上げた。[14] [15]
東証の会社概要は、事業を不動産コンサルティング、企画・開発、売買・賃貸仲介、賃貸管理、運用、不動産ファンドと整理している。会社は2026年3月、不動産特定共同事業の1号・2号・3号の許可を取得したと発表しており、従来のマンション販売だけでなく、不動産を小口化・運用する領域へも事業範囲を広げている。[14]
コード623A、公開価格550円。公募315万株は3社の中で最も大きく、公開価格ベースでは新株発行額が約17.3億円となる。今回の3社を「小型IPOが同じ日に並ぶ」と一括りにすると、資金調達の比重が会社ごとにかなり違うことを見落とす。
2022年に生まれた「スタンダード」という器
3社が入るスタンダード市場自体も、長い歴史を持つ名称ではない。東京証券取引所は2022年4月4日、市場区分をプライム、スタンダード、グロースへ再編した。JPXはスタンダードを、公開市場の投資対象として一定の流動性を持ち、上場企業として基本的なガバナンス水準を備え、持続的成長と中長期的な企業価値向上に取り組む企業向けの市場と位置付ける。[5]
9月18日の3社は、業種も創業地も成長の仕方も違う。それでも同じスタンダード市場へ入る。駐車場のデジタル仲介、地方発の業務特化ソフト、不動産開発・管理という組み合わせは、「上場企業になるための一つの典型像」が存在しないことをよく示す。
620A、622A、623A、627A――コードにも市場の歴史がある
4社の証券コードに共通する末尾の「A」は、会社の格付けや市場ランクを意味しない。証券コード協議会は、数字4桁だけでは利用可能なコードが減ってきたことから、2024年1月1日以降に新たに設定するコードへ英文字を組み入れ始めた。620Aから627Aという並びは、むしろ日本市場のインフラが拡張された時代に上場する会社であることを示している。[6]
これは地味だが、象徴的な変化でもある。かつて株式欄で当然だった4桁数字だけの会社コードに、今では英字が混じる。市場区分は2022年に変わり、証券コードは2024年に変わった。そして2026年9月18日には、その新しい制度の上で、1980年創業のソフト会社と2010年代のプラットフォーム、不動産会社、地方テック企業が同じ日付を共有する。
9月18日に見るべきもの
上場日はしばしば初値だけで語られる。しかし、初値はその日の需給を映す数字であって、企業の将来を一日で判定する採点表ではない。とりわけ今回の4社は、市場制度も資金調達構造も事業モデルも違う。
確認したいのは、まず3社のスタンダード市場でどの程度の売買が成立するか。次に、公募で得た資金を各社がどのように成長投資へつなげるか。そして応研については、TOKYO PRO Marketというプロ投資家向け市場を選んだ企業が、その後どのような開示と資本政策を示すかだ。
- 同日上場というニュース性はあるが、4社を同じIPO評価軸で並べるのは適切ではない。
- スタンダード3社は公開価格が仮条件上限で決まったが、上場後の株価を保証する材料ではない。
- 3社の公募・売出し比率には差があり、「資金調達」と「既存株主の売出し」を分けて見る必要がある。
- 応研は一般市場ではなくTOKYO PRO Market。投資家層と制度の違いが記事の重要な一部になる。
9月18日の面白さは、4つの株価が同時に動き始めることだけではない。日本の上場市場が一つの入口ではなく、成熟した業務ソフト会社、シェアリングサービス、地方発テクノロジー企業、不動産会社を、それぞれ異なる制度と資本構成で受け入れる場所になっていること。その違いを見れば、「4社同日上場」という短い見出しの中に、現在の日本企業の幅が見えてくる。
- 日本取引所グループ(JPX)「JPXカレンダー」2026年9月
- JPX「新規上場会社情報」—スタンダード市場3社の上場日、公開価格、公募・売出株数
- JPX「新規上場会社情報(TOKYO PRO Market)」—応研
- JPX「概要(TOKYO PRO Market)」—市場の沿革・投資家区分・J-Adviser制度
- JPX「市場区分見直しの概要」—2022年以降のスタンダード市場の位置付け
- 証券コード協議会「証券コード英文字組入れ」
- 応研「会社概要」
- 応研「事業概要」
- akippa「東京証券取引所 スタンダード市場への上場承認に関するお知らせ」
- akippa「事業内容」
- テクノクラフト「東京証券取引所スタンダード市場への新規上場承認に関するお知らせ」
- テクノクラフト「会社概要/沿革」
- テクノクラフト「テクノクラフトとは」
- ベルテックス「会社概要」
- ベルテックス「代表挨拶」

