森林を誰が取得したか。その数字は、森がこれからどう使われるかという問いへの入り口になる。ただし、取得面積だけでは、伐採が行われたのか、水源に影響があったのか、買い手が何を意図しているのかまでは分からない。
林野庁が9月15日に公表した最新調査によると、外国法人等による2025年の森林取得面積は714ヘクタールだった。2006年から2025年までの累計取得面積は1万1,699ヘクタールとされる。調査の対象年は2025年であり、2026年の取得状況を示す数字ではない。[1]
今回の資料を読むうえで重要なのは、調査対象が途中で広がったこと、年間の取得と累計が異なる指標であること、利用目的が届出の記載を基に分類されていることだ。数字が示す範囲を確かめる作業は、地域の懸念を軽く扱うためではない。何を追加で調べれば、その懸念に答えられるかを明らかにするためである。
714ヘクタールの内訳と、比較するときの注意
| 取得主体の区分 | 取得面積 |
|---|---|
| 外国法人又は海外居住外国人 | 143 ha |
| 国内外資系企業又は国内居住外国人 | 570 ha |
| 合計 | 714 ha |
公表値の内訳と合計が一致しない点について、林野庁は四捨五入によるものと注記している。また、2025年7月から、国土利用計画法に基づく届出等で国籍等を把握した国内居住外国人を対象に含めた。[1]
前年の調査が公表した2024年の取得面積は382ヘクタールだった。[2] しかし、714と382の差をそのまま買い手の行動変化とみなすことはできない。対象の追加による影響と、従来から対象だった主体による取得の変化を分けなければ、同じ条件で増減を測ったことにならないからだ。
調査の数字が増える理由には、実際の取得の増加だけでなく、行政が新たに把握できるようになったこともあり得る。両者を区別するには、対象範囲をそろえた再集計が必要となる。今回の公表値から、そうした影響を一つの増加率にまとめて説明するのは避けるべきだ。
「外国法人等」は一つの買い手集団ではない
調査でいう国内の外資系企業は、国外居住者または外国法人による出資比率、あるいは国外居住者の役員の比率が過半数を占める法人を指す。前年の調査にも示されていた行政上の定義だ。[2]
この定義から分かるのは、一定の条件で分類された法人であるということだ。企業の資金源をすべてたどった結果や、最終的な意思決定者の意図を示すものではない。国内に住む個人と海外の法人を、同じ動機で行動する集団として扱う根拠にもならない。
今回、外国法人又は海外居住外国人の区分では、北海道の取得面積が137ヘクタールと記載されている。[1] この地域的な集中には意味があるが、あくまでその区分の内訳だ。国内外資系企業なども含む全体の所在地分布と混同してはいけない。
地域で必要な確認は、国別の順位を付けることだけでは済まない。土地がどこにあり、流域や集落、道路とどうつながっているか。取得後に連絡できる管理者はいるか。こうした情報がなければ、面積を地域の暮らしへの影響に結び付けて判断することは難しい。
累計取得面積は、現在の保有面積とは異なる
今回の参考資料は、前回調査後に把握された過去年の取得事例も累計に含める構成になっている。[3] したがって、累計の更新には、当年の取得だけでなく、過去の情報が追加される場合もある。
もう一つ区別したいのは、取得という動きと、ある時点での保有という状態である。過去に取得された土地が現在も同じ所有者の手元にあるかを確認するには、その後の売却、所有権移転、法人の構成の変化なども追う必要がある。取得事例の累計だけを、現在の外国関係主体による保有面積と言い換えることはできない。
仮に同じ土地が後に別の主体へ移転していれば、その経緯をどう整理するかで現在の保有状況の集計は変わる。これは統計を読むための例であり、今回の調査に特定の重複があると指摘するものではない。公表された指標の名称を正確に使うことが大切だ。
全国の森林面積との比較にも注意が要る。2022年3月末の森林資源統計では、全国の森林面積は約2,502万ヘクタール。国有林、公有林、私有林は区分されており、「民有林」には公有林と私有林が含まれる。[11] 分母を全国の森林、私有林、特定の地域の森林のどれにするかで、割合の意味は変わる。
全国に占める規模が小さいことと、一つの流域で影響を調べる必要があることは両立する。面積比率は位置や地形、管理の状態まで説明する指標ではない。
「資産保有」から動機を読み込みすぎない
利用目的欄は、とりわけ慎重に読む必要がある。林野庁は届出書の記載から目的を分類し、記載がないものは「資産保有」に分類すると説明している。前年の調査にも同じ扱いが明記されていた。[2]
つまり、この項目には、資産として持つと記載された場合と、目的が書かれていない場合とが入り得る。「資産保有」という表示だけで転売目的と断定したり、逆に開発の予定がないと結論づけたりすることはできない。
届出に用途が書かれていても、計画が実行されたことを確認した記録とは別である。用途の記載、開発の許可、工事の着手、完成後の利用は、それぞれ異なる段階に属する。予定された用途を、そのまま現在の現地の姿として描けば、事実関係を取り違える。
買い手の意図を報じるなら、取得時の説明に加え、事業計画、許認可の申請、本人や管理者の回答など、個別の裏付けが要る。国籍や法人の分類は、そうした確認の代わりにはならない。
水源への懸念に、どこまで答えているか
林野庁は、外国法人等が取得した森林について、取水や地下水の採取を目的とした開発等の事例は、これまで報告されていないとしている。[1]
この説明は、その種の開発が既に広く確認されているという主張を裏付けない。一方、「報告されていない」という行政の把握状況から、将来の利用や個々の土地の状態まで保証することもできない。確認の対象と時点を限って受け止める必要がある。
水源の問題を調べる際には、土地の所有だけでなく、森林が果たす機能や具体的な行為を見る必要がある。保安林は、水源の涵養や土砂災害の防備などの公益目的のために指定され、伐採や土地の形質変更が規制される。林野庁は、保安林ごとの目的に沿って森林の機能を確保する制度と説明している。[9]
地域の懸念を検証するなら、該当地が保安林か、予定される行為が何か、必要な手続きが取られているかを確かめる方が、取得面積から水への影響を推測するより具体的だ。問題となる場所や行為が明らかになれば、行政に何を尋ねるべきかも絞り込める。
所有者を把握する制度は、なぜ整えられたのか
森林の土地の所有者届出制度は、2011年の森林法改正で設けられた。2012年3月の林野庁通知は、開発や伐採などを規制する制度を円滑に運用し、その前段階から必要な指導や助言ができるよう、所有者の実態を把握する趣旨を示している。[5]
背景には、所有者を知ることが日常的な森林管理に必要だという課題がある。林野庁の案内は、所有者が分からなければ行政が助言できず、林業の事業体も間伐などをまとめて行うための働きかけができないと説明する。届出は土地の所有権の帰属を確定するものではないとも明記する。[13]
現在の制度では、地域森林計画の対象森林を売買や相続等で新たに取得した場合、原則として面積にかかわらず90日以内に市町村長へ届け出る。国土利用計画法に基づく所定の届出を提出している場合は、森林所有者の届出は不要とされる。[4]
国土利用計画法の一般的な事後届出制は別の仕組みだ。一定規模以上の土地売買等について、利用目的や価格を把握する。対象面積は市街化区域で2,000平方メートル以上、その他の都市計画区域で5,000平方メートル以上、都市計画区域外で1万平方メートル以上。原則として契約から2週間以内の届出となる。[6]
この違いは、小さな森林なら行政への届出が一切要らないという理解が正しくないことを示す。森林の所在と対象制度を確かめる必要がある。
2026年の情報追加と、土地利用を規律する仕組み
2026年4月からは、森林所有者の届出に国籍等の記載が加わった。法人については代表者の国籍等や、役員・議決権の過半を同一国の者が占める場合の国名なども記載する。[4] 国土利用計画法の届出でも、同月施行の改正で法人代表者の国籍等が追加された。[7]
これらは把握できる情報の変化であり、2025年を対象とする今回の調査と時点を分けて考えたい。様式が詳しくなれば、将来の調査が変わる可能性もある。長期の傾向を見る際には、取引の変化と調査方法の変化を分離する作業が欠かせない。
所有者になったことの届出と、開発の許可も別である。地域森林計画の対象民有林のうち所定の森林では、一定規模を超える開発に知事の許可が必要となる。林野庁が示す基準は、一般的な開発で1ヘクタール超、太陽光発電設備の設置目的では0.5ヘクタール超。道路には別の規模要件があり、保安林等も別の扱いとなる。[8]
安全保障に関わる土地利用には、2022年9月に全面施行された重要土地等調査法がある。重要施設の周辺や国境離島等で指定された区域の利用状況を調べ、施設等の機能を阻害する行為に対して勧告・命令などを行う仕組みだ。[10] 森林取得調査への掲載自体は、そうした行為の認定を意味しない。
数字の先に必要なのは、場所と管理の確認
森林資源の長期統計では、全国の森林面積は1966年の約2,517万ヘクタールから2022年の約2,502万ヘクタールまで、大きくは変わっていない。[12] しかし、面積がほぼ同じでも、所有者、手入れ、木の成長、利用のあり方は別に確かめる必要がある。所有権移転の調査も、それだけで森林の健全性を測る資料にはならない。
本誌が重視するのは、取得の把握、計画された用途、実際の利用、その影響を順番に確認することだ。行政が所有者と連絡を取れるか。必要な許認可が確認できるか。伐採や造成の状況は計画に沿っているか。下流や近隣への影響は調べられているか。いずれも、国籍別の面積集計だけでは答えが出ない問いである。
最新調査は、行政が把握した取得の規模と分布を知るための重要な資料だ。その価値を生かすには、公表値を大きくも小さくも見せず、分かることと追加調査が必要なことを分けて読む必要がある。森林の保全を左右するのは、所有者の分類だけでなく、その土地で何が行われ、誰が管理責任を果たすかである。
出典・資料
林野庁・国土交通省・内閣府の日本語一次資料を基に作成。調査対象年、公表値の範囲、制度の説明と本誌の分析を区別した。
- 林野庁:外国法人等による森林取得に関する調査の結果について、2026年9月15日(2025年対象)
- 林野庁:2024年の森林取得調査、2025年9月16日公表(定義・利用目的の分類方法を含む)
- 林野庁:2006~2025年の外国法人又は海外居住外国人による取得事例集計(過去年の追加把握に関する注記)
- 林野庁:森林の土地の所有者届出制度、2026年4月の様式改正を反映
- 林野庁:所有者届出制度の運用通知(2012年3月26日、最終改正2026年3月31日)
- 国土交通省:土地取引規制制度、事後届出の対象・面積・期間
- 国土交通省:国土利用計画法施行規則の一部改正、2026年4月施行
- 林野庁:林地開発許可制度、対象森林・規模要件・許可基準
- 林野庁:保安林制度、指定目的と行為の制限
- 内閣府:重要土地等調査法、制定経緯・指定区域・利用状況調査
- 林野庁:森林資源の現況、2022年3月31日現在(面積・所有区分)
- 林野庁:森林面積・蓄積の推移、1966~2022年
- 林野庁:森林の土地の所有者届出制度の概要、2026年4月対応版
