100万円クラウドファンディング目標
10月22日2026年 募集開始
12月5日岡山で日本―ブラジル戦
環境価値バーチャルPPAで利用

再エネの「環境価値」は、発電した電気そのものではない。違いを理解することから実証の評価が始まる。

10月16日の発表――サッカーと電力の新しい接点

スタジアムの照明がともり、観客席に歓声が広がる。その電気はどこで生まれ、そこにどのような『環境価値』が結びついているのか。日本サッカー協会(JFA)が10月16日に発表した新事業は、サッカーの試合運営を電力調達の問題として捉え直す試みだ。ただし、スタジアムの屋根に太陽光パネルを設置したという発表ではない。

JFAは2026年10月22日から12月18日まで、クラウドファンディングを実施する。目標は100万円。資金を使い、12月5日に岡山のJFE晴れの国スタジアムで行われる『MIZUHO BLUE CHALLENGE NADESHIKO 2026 青さで、挑め。』、なでしこジャパン対ブラジル女子代表の試合に、再生可能エネルギー由来の環境価値を付ける計画だ。JFAの表現は試合の『使用電力のCO2排出量を実質的にゼロ』にすることを『目指す』というもの。達成したとの発表ではない。

数字で見る計画――100万円は何に使われるのか

協会によれば、応援資金は対象試合で使用する電力への環境価値の提供と諸手続き費用に充てる。目標を上回った分は、JFAの社会貢献活動『アスパス!』の事業に使う予定だ。募集は12月18日午後11時59分まで続く。対象試合の開催日より後まで募集が続く点も重要で、環境価値の調達と割当の完了時期、精算方法を確認する必要がある。

支援者向けの返礼品には、宮本恒靖(みやもと・つねやす)JFA会長のサイン入りユニフォーム、なでしこジャパン選手のサイン入りグッズ、スタジアム大型ビジョンへの氏名掲出などが挙げられている。協会は寄付を募るとともに、電力に『色』をつける仕組みをファンに知ってもらおうとしている。

バーチャルPPAとは――電気を送る契約ではない

この取り組みの中心にあるのが『バーチャルPPA(仮想電力購入契約)』だ。JFAは太陽光発電所『JFA発電所(仮称)』を用意し、そこで生み出される再生可能エネルギーの環境価値を対象試合の電力使用に対応させると説明する。協会自身の説明でも、バーチャルPPAは『環境価値のみを取引する仕組み』である。

電気は発電所から系統へ流れ、スタジアムは通常の送配電網から供給を受ける。契約上の環境価値を移転・使用することで、適切な制度に従って電力由来排出量を計上する際の属性を変えられる。したがって、発電所の電気がそのまま会場へ届くこと、夜間の照明を太陽光が直接点灯すること、会場の全排出が物理的に消えることを意味しない。

重要なのは、どの発電設備に由来する価値を、いつ、どれだけ、どの証書・登録制度を通じて移転し、重複して使われないようにするかだ。JFAの10月16日の公表文だけでは、発電設備の所在地、定格出力、供給開始時期、環境価値の数量や検証方法まで確定できない。

『実質ゼロ』と『ゼロエミッション』は同じか

JFAが掲げるのは、あくまでも試合で使われる電力に関する会計上の取り組みだ。選手や観客の移動、遠征便、飲食、廃棄物、警備、放送設備、会場建設といった排出源は、この発表だけでは相殺・削減の対象と確認できない。『試合全体の脱炭素を達成』と報じれば、対象範囲を誤る。

さらに、再生可能エネルギーの環境価値を購入する行為と、実際に追加の発電設備を増やす行為は必ずしも同じではない。新設設備の追加性、契約期間、価格、取引相手、電力使用量の照合が分かれば、資金の効果をより厳密に評価できる。JFAが試合後に数値を公表するかが、本事業の信頼性を左右する。

日本サッカーの100年と『アスパス!』

日本サッカー協会の前身、大日本蹴球協会が発足したのは1921年9月10日。2021年には創立100周年を迎えた。創設期に求められたのは競技会の運営と選手の育成だったが、現代の全国組織は安全な競技環境を将来へ維持する責任も負う。

協会は2021年に、社会貢献・持続可能な開発目標に関する活動の総称として『アスパス!』を掲げた。環境、人権、健康、教育、地域という五つの領域を対象とする。名称にはEarth(地球)、明日、us(私たち)と、サッカーのパスを次世代へつなぐ意味が込められている。今回の実証は、その理念を会場運営の具体的な契約と会計の領域に持ち込むものだ。

世界では国際サッカー連盟(FIFA)が2021年に気候戦略を公表し、2030年までの排出量半減と2040年のネットゼロを目指すとした。ただし、FIFAの目標はJFAの個別試合が達成した実績ではない。国際的な目標と、岡山の一試合で確認できる実績は分けて評価すべきだ。

費用負担は誰が担い、地域に何が残るのか

100万円という募集額は、大規模なスタジアム改修費ではない。電力の属性を試験的に切り替えるための資金として見れば、その規模の小ささにも意味がある。一方、発電設備の建設費、環境価値の実際の単価、対象試合の電力使用量が示されなければ、支援1円当たりの削減効果を算出することはできない。

将来、ほかの会場にも同様の契約を広げるなら、電力消費を減らすLED照明や運用改善、屋根上太陽光、蓄電池、長期調達契約などとの費用対効果を比較することが重要だ。環境価値の購入は電力の調達戦略の一部であり、効率化や現場の設備更新の代わりになるものではない。

ブラジル代表を迎える女子代表戦という舞台は、多くの人に仕組みを説明する機会になる。女子サッカーが環境問題の宣伝材料にされるのではなく、選手、サポーター、地域社会にとって検証可能な事業となるか。試合後の詳細な報告に注目したい。

実証の成否を判断する5つの問い

①試合会場の実測電力使用量は何キロワット時だったか。②JFA発電所(仮称)の所在・出力・運転状況はどうなっているか。③環境価値はどの制度に従い、どの時期の発電分をどの数量だけ割り当てたか。④重複計上防止や第三者による確認をどう行ったか。⑤支援金と手続き費用の内訳は何か。

これらが公表されれば、100万円の実証はほかの競技団体、自治体、学校にも応用可能な事例となり得る。公表されなければ、『実質ゼロ』という言葉を検証することは難しい。

温暖化する世界でサッカーの未来を守るには、試合会場の環境価値だけでなく、選手が練習できる場所、観客が通える地域、設備の更新に必要な費用まで考える必要がある。今回の計画が示す本当の可能性は、グリーンな言葉を掲げることではなく、その言葉を測定可能な約束に変えることにある。

出典・資料

  1. 日本サッカー協会 — 2026年10月16日の事業発表
  2. JFA — アスパス!の概要
  3. JFA — アスパス!開始(2021年)
  4. JFA — 創立100周年
  5. FIFA — Climate Strategy (2021)
  6. JFA — 対ブラジル女子代表戦