電気自動車の軽量化というと、電池や車体が目に浮かぶ。その間で電力の流れを制御するインバータにも、重さを削る余地はある。ただし、半導体チップを小さくするだけでは足りない。熱を逃がし、電圧の変動を抑え、部品をつなぐ構造まで見直して初めて、装置は軽くなる。
名古屋大学の山本真義(やまもと・まさよし)教授が主導する産学連携プロジェクトの「フェザーインバータ」が、幕張メッセの「第5回 ネプコン ジャパン[秋]」で特別展示の対象となっている。主催するRX Japanが公表した会期は9月9~11日。実機展示と技術解説を通じ、材料や部品の技術を電力変換装置として示す企画だ。[1][3]
「羽のように軽い」という名称には分かりやすさがある。一方、技術を評価するには、何と比べ、どこまでを量ったのかが欠かせない。この展示の面白さは、大きな軽量化の数字と、その数字を生む地道な部品設計の両方にある。
70%という数字は、どの部分の比較か
主催者サイトに掲載された山本教授の説明では、テスラのサイバートラック用インバータの「パワー半導体モジュールと冷却器の一体装置」を基準に、重量を70%低減したとしている。[2] これは開発側の説明であり、第三者が同一条件で検証した比較結果として紹介されているわけではない。
したがって、車両全体が70%軽くなるわけでも、必要な部品をすべて含むインバータ完成品で同じ割合を達成したと直ちに言えるわけでもない。比較対象の範囲をそろえなければ、軽量化率は技術判断に使えない。
Japan.co.jpの分析では、次に見るべきは出力と熱の条件である。何キロワットを連続して扱え、どの冷却条件で動かし、どこまでの部品を重量に含めたのか。短時間の最大出力と連続出力も分ける必要がある。小さな展示物の姿だけでは、その答えは出ない。
電気をつくるのではなく、使える形に変える
山本研究室の説明によると、インバータは直流を交流や高周波の電力に変換する回路である。研究室はSiCやGaNによる電力変換、磁気部品、低ノイズ化などを研究テーマに掲げる。[4] 電池から得た直流を、交流モーターの駆動に適した形へ変えることは、その代表的な役割だ。
ここで使うパワー半導体は、大きな電力を切り替える部品である。インバータはその部品を使う装置なので、両者は同じものではない。半導体の性能を、実際の電流、配線、放熱の条件で生かすところに装置設計の仕事がある。
ロームの技術資料は、電力変換回路の損失を導通時、スイッチング時などに分けて説明している。SiCは炭化ケイ素で、低損失化を目指すパワー半導体材料の一つだ。[7] ただし、材料名を聞けば装置全体の効率が分かるわけではない。負荷や温度、動かし方を伴う測定が必要になる。
八社の技術を、ひとつの装置でつなぐ
主催者が挙げる担当分野は次の通りだ。[2]
| 分野 | 参加企業・機関 |
|---|---|
| パワー半導体モジュール | アオイ電子、三菱電機、ローム |
| 冷却器 | 大豊工業、東レ |
| 平滑キャパシタ | ニチコン、名古屋大学 |
| フィルタ | パナソニックインダストリー、北川工業 |
同サイトによると、アオイ電子の薄型モジュールには三菱電機のSi IGBTチップとロームのSiCチップを同時実装する。冷却部では微細なフィンとPPS樹脂製筐体などを組み合わせる。[2]
この構成から読み取れるのは、新しい材料にすべてを置き換えるという単純な図式ではない。Japan.co.jpは、異なる部品や材料の長所を、接続する相手の条件まで考えて組み合わせる取り組みと捉える。チップ、接続部、冷却構造を別々に最適化しても、装置としての最良解になるとは限らないからだ。
小さくすると、熱の行き場が難しくなる
高効率の装置でも、損失がゼロでない限り熱は発生する。例えば入力100キロワットに対して損失が1%なら、熱などとして失われる電力は1キロワットになる。これはJapan.co.jpによる説明用の計算で、フェザーインバータの測定値ではない。
冷却器を軽くする際には、単に材料を減らすだけでなく、熱を運び出す能力を保つ必要がある。重量が減っても、同じ仕事をするために別の場所で大きなポンプや放熱器が必要になれば、システム全体の利益は変わる。評価の範囲を広げる理由はそこにある。
東レはPPS樹脂の一般的な特長として、耐熱性、寸法安定性、耐薬品性を説明している。[10] こうした材料特性は設計の選択肢を広げるが、特定の樹脂製品の説明が、そのまま今回の冷却器の耐久試験結果になるわけではない。装置で使う際には、形状、接合、温度変化などを含めて評価することになる。
脇役に見えるコンデンサが重さを左右する
パナソニックの技術解説は、フィルムコンデンサがインバータ電源の電圧安定化や平滑化に使われると説明する。ニチコンも電動車のモーター駆動インバータ向けに、平滑用、フィルタ用、スナバ用などを展開している。[8][9] 電力を切り替えるチップだけを見ていては、装置を支える部品の役割を見落とす。
コンデンサを小さくする設計では、容量だけでなく、流れる変動電流や発熱も考える必要がある。フィルタも、取り除けばそのまま軽量化が完成する部品ではない。必要な機能を保ちながら重さを削ることが課題となる。
Japan.co.jpの見方では、部品を一つ小さくした結果、ほかの部品に余分な負担が生じないかを追うことが重要だ。モジュール、冷却、コンデンサ、配線をまたぐ調整は、目立ちにくいが製品化の成否を左右する。
プリウスからSiCへ、三十年近い積み重ね
日本の電力変換技術には、車両への実装を重ねてきた歴史がある。トヨタは2014年の発表で、1997年の初代プリウス発売時からパワー半導体の自社開発に取り組んできたと説明した。SiCについては、豊田中央研究所とデンソーが1980年代に基礎研究を始め、2007年からトヨタも共同開発に加わったとしている。[5]
同じ2014年の発表では、SiCを使うパワーコントロールユニットをハイブリッド車の試作車に搭載し、走行実験を行った。[5] 材料の利点を示すだけでなく、車両に組み込んで確かめる段階へ研究を進めてきたことが分かる。
鉄道も重要な用途だった。新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)は、1998年からSiCパワー半導体の実用化に向けた事業を進めたと振り返り、鉄道車両用インバーターへの展開を紹介している。[6] これらはフェザーインバータとは別の開発だが、材料、素子、回路、実機をつなぐ時間の長さを示す。
過去の車両や鉄道の成果を、今回の装置の省エネ性能として転用することはできない。それでも歴史をたどる意味はある。2026年の軽量化への挑戦は、半導体材料の研究だけでなく、それを製品として動かしてきた経験の先にあるからだ。
展示の次に問われる、使い続けられる性能
主催者は電動車、電動航空機、産業機器などへの応用を期待している。[1] 用途が広いほど、それぞれの条件を分けた検証が重要になる。地上の自動車と航空機で、求める運転条件や信頼性の評価が同じになるとは限らない。
Japan.co.jpが今後確認したいのは、全体の重量と寸法、連続出力、運転条件ごとの効率、冷却に必要な補機の条件、耐久性、量産時の費用である。小型軽量化で空間が生まれても、製造や点検が難しくなれば、別の設計課題が生じる。
今回の展示は、完成車への採用や量産開始を意味するものではない。軽さを実用上の価値に変えるには、用途ごとに必要な機能を含めて測り、長く動かし、作り続けられることを示す必要がある。
幕張で問われるのは、羽という名前にふさわしい軽さだけではない。日本企業の部品技術が、装置全体の設計でどれほどの価値を生むか。その答えを、比較範囲の明確な数字と実機の検証で積み上げていけるかが、展示の先を決める。
展示案内:主催者公表の会期は2026年9月9~11日、各日10~17時、幕張メッセ。入場無料、事前の来場登録が必要。[1]
- RX Japan:フェザーインバータ特別展示の発表(2026年8月18日)
- ネプコン ジャパン[秋]:特別展示・山本教授へのインタビュー・参加企業
- 名古屋大学:山本真義教授の研究者情報
- 名古屋大学パワーエレクトロニクス研究室:研究内容
- トヨタ自動車:新素材SiCによる高効率パワー半導体を開発(2014年5月20日)
- NEDO:SiCパワー半導体の鉄道車両用インバーターへの実用化(2017年6月)
- ローム:第4世代SiC MOSFETのアプリケーションメリット(2022年2月)
- ニチコン:xEV用フィルムコンデンサ
- パナソニック:フィルムコンデンサの基礎知識(2022年2月18日)
- 東レ:PPS樹脂トレリナの製品説明
