地方に人を呼ぶ政策は、長く「移住」をゴールにしてきた。住民票を移し、仕事を変え、生活の中心を都市から地域へ移す。しかし人口が全国で減る時代、すべての自治体が定住人口を奪い合うモデルには限界がある。

楽天グループ株式会社、株式会社タイミー、株式会社LIFULL、三井住友海上火災保険株式会社が2026年10月5日に始めた連携は、その前提を変える。「二地域居住」――主な生活拠点とは別の地域にも生活拠点を持ち、都市と地域を継続的に行き来する暮らし方を、旅行、短期就労、住まい、保険で支える試みだ。楽天市場上の特設ページ「二地域居住ガイド ふたつの拠点で暮らす。」では、全国12自治体の宿泊割引、地域のスポットワーク、空き家を中心とする住居情報を一つの入口に集めた。

今回の仕組み: 楽天は旅行・地域接点、タイミーは短期就労、LIFULLは空き家を含む住居情報、三井住友海上は災害時の避難・生活再建に関するニーズ調査と将来の保険開発を担う。4社はいずれも自治体から「特定居住支援法人」に指定されていると発表している。

「住む」「働く」「行く」を別々に探させない

二地域居住の難しさは、家を一軒借りれば終わる話ではないことだ。現地までの移動費がかかる。短期間でも働ける場所が必要な人がいる。空き家はあっても、すぐ住めるとは限らない。災害時には、二つ目の拠点が避難先になる一方、二重生活特有の費用負担も生じる。

4社の連携は、これらを横断する。楽天トラベルの宿泊割引で最初の滞在を作り、タイミーのスポットワークで地域の一次産業や基幹産業の短期就労につなぎ、LIFULLが空き家中心の賃貸情報を示す。三井住友海上は、防災意識調査などを通じて、二地域居住先への避難や避難後の生活再建費用を補償する将来の保険商品を検討する。

4社楽天・タイミー・LIFULL・三井住友海上
12自治体2026年10月時点の特設ページ掲載自治体
2024年11月改正広域的地域活性化基盤整備法の施行
2027年春「楽天ふるさと住民」開設予定

なぜ政府が二地域居住を制度化したのか

国土交通省の説明は率直だ。国全体で人口が減るなか、すべての地域で定住人口を増やすことはできない。そのため「主な生活拠点とは別の特定の地域に生活拠点をもうける暮らし方」を政策対象として、地方への人の流れを創出・拡大する必要があるとしている。

2024年11月1日には、二地域居住者向けの「住まい」「なりわい」「地域住民との交流」の環境整備などを盛り込んだ改正広域的地域活性化基盤整備法が施行された。制度上、NPOや民間企業などを自治体が「特定居住支援法人」に指定し、二地域居住者と地域をつなぐ役割を担わせる仕組みも整えられた。

2026年度も国交省は二地域居住先導的プロジェクト実装事業や特定居住支援法人モデル構築実証調査を続けている。今回の4社連携も、このモデル構築実証調査の補助金採択を受けた取り組みだ。

人口を「奪い合う」のではなく、都市に暮らしたまま地域の仕事、消費、コミュニティに関わる人を増やす。二地域居住政策の本質は、人口統計では捉えにくい“関わり”を地域経済へ変えることにある。

12自治体は、観光地だけではない

特設ページに掲載されたのは、北海道上士幌町・幕別町、岩手県紫波町、栃木県那須町、山梨県甲州市、静岡県藤枝市、三重県南伊勢町、京都府京丹後市、兵庫県洲本市、高知県馬路村・大川村、大分県臼杵市の12自治体だ。

リゾート地もあれば農山漁村もあり、都市圏へのアクセス条件も異なる。これは「週末別荘」の市場だけを想定していないことを示す。短期就労や地域の担い手不足と結びつけることで、滞在者を消費者から働き手・参加者へ変える狙いがある。

タイミーが持ち込む「仕事」という接着剤

楽天とタイミーは2026年3月、すでに地域の関係人口創出に向けたパートナーシップを締結していた。楽天側の地域ページからタイミーの求人へつなぎ、一次産業などの短期スポットワークへ参加できる導線を作った。

二地域居住で仕事が重要なのは、収入だけではない。地域の農家、旅館、商店、イベントなどで働けば、旅行者より深い接点が生まれる。地域側にとっても、繁忙期だけ不足する人手を補える可能性がある。定住を前提としない労働参加は、地方の人手不足と都市住民の地域参加を同時に扱う方法になりうる。

LIFULLが扱う「空き家」は、最大の摩擦点でもある

二地域居住を続けるには宿泊施設だけでは高くつく。そこでLIFULLの役割は、地域の空き家を中心とする賃貸情報を提供し、より長い滞在へつなげることにある。

ただし空き家は、存在することと住めることが同じではない。改修費、耐震性、断熱、通信環境、家具、契約慣行、管理、車の必要性など、生活拠点に変えるまでに多くの障壁がある。国交省が支援事業で、お試し居住施設、コワーキング、二次交通、通信環境まで対象にしているのは、そのためだ。

三井住友海上が見ているのは「災害時の第二拠点」

4社の役割の中で最も異色なのが保険だ。三井住友海上は、自然災害時などに二地域居住先を避難先として使う可能性に着目し、防災意識調査を通じて避難費用や避難後の生活再建費用への補償ニーズを分析し、将来的な保険開発を検討する。

これは二地域居住をレジャーや移住準備としてだけでなく、レジリエンスの設計として見る発想だ。都市の自宅が被災したとき、別地域に生活拠点があれば選択肢は増える。ただし、保険商品はまだ検討段階で、補償内容、保険料、販売時期は公表されていない。

「ふるさと住民」は住民票とは違う

今回の連携は、楽天が2025年9月に設立した「ふるさと住民応援コンソーシアム」の延長線上にある。政府が創設を目指す「ふるさと住民登録制度」は、実際に住んでいなくても、継続的に関わりたい地域を任意で選び登録する構想だ。

これは住民票の移転や地方税の納付先を直ちに変える制度として説明されているわけではない。地域から情報やサービスを受け、関係を継続するための新しい登録の枠組みとして検討されている。楽天は2027年春、その受け皿となるポータルサイト「楽天ふるさと住民」を開設する予定だ。

企業今回の役割
楽天グループ特設ページ、楽天トラベル宿泊クーポン、地域との継続接点
タイミー地域のスポットワーク求人、短期就労・担い手参加
LIFULL空き家を中心とする賃貸・住居情報
三井住友海上防災ニーズ調査、二地域居住を前提にした将来の保険検討

ビジネスとして成立するか

企業側にもそれぞれ経済合理性がある。楽天は旅行、EC、ふるさと納税、将来の登録ポータルを横断して利用者との接点を増やせる。タイミーは都市部中心だったワーカーを地域の短期人材需要へつなげられる。LIFULLは空き家流通の需要側を広げられる。三井住友海上は、まだ商品化されていない新しい生活様式のリスクを保険市場へ取り込める可能性がある。

その一方、4社が発表したのは「連携開始」であり、二地域居住人口が何人増えたか、地域でどれだけ就労が生まれたか、空き家契約が何件成立したかという成果はまだない。特設ページの利用者数やクーポン利用率も公表されていない。

二つの家を持てる人だけの政策にしないために

二地域居住には構造的な弱点もある。家賃や交通費を二重に負担できる人ほど利用しやすく、所得による参加格差が生じやすい。子どもの教育、介護、医療、ペット、車、勤務先の就業規則なども障壁になる。

国交省の2026年度事業が「持続可能な負担軽減」「遠距離介護」「二次交通」「区域外就学」「広域的保育所利用」まで課題として挙げているのは、二地域居住が富裕層のライフスタイルだけでは政策効果を持ちにくいからだ。

これから確認すべき点
  • 12自治体での利用者数、宿泊日数、再訪率
  • タイミー経由の地域就労件数と継続参加率
  • LIFULL経由で実際に成立した二地域居住向け賃貸契約
  • 三井住友海上が検討する保険の具体的な補償範囲と価格
  • 二地域居住者の交通費・住居費負担をどう下げるか
  • 地域側が担い手不足解消や消費増をどの程度実感できるか

「住民」か「観光客」か、その間を市場にする

地方創生政策は長く、旅行者を増やす「交流人口」と、住民票を持つ「定住人口」の間をどう埋めるかに悩んできた。「関係人口」や二地域居住は、その中間にいる人を政策と市場の対象にする試みである。

今回の4社連携が興味深いのは、その曖昧な存在を、旅行予約、仕事、住宅、保険という具体的なサービスへ分解した点だ。週末に行く人、季節ごとに働く人、空き家を借りる人、災害時に戻る場所を持つ人。地域との関係は一種類ではない。

二地域居住が本当に地域経済を支えるなら、「何人移住したか」だけでは測れない。何度戻ってきたか。どれだけ働いたか。誰とつながったか。地域の店や産業へいくら落としたか。そして、その関係が何年続いたか。4社の実験は、日本の地方政策がその新しい物差しを持てるかどうかを試している。

出典・参考資料

  1. 楽天グループ株式会社「楽天、タイミー、LIFULLおよび三井住友海上、二地域居住の推進に向けた連携を開始」2026年10月5日。
  2. 株式会社タイミー「タイミー、楽天、LIFULLおよび三井住友海上、二地域居住の推進に向けた連携を開始」2026年10月5日。
  3. 国土交通省「二地域居住の推進」—制度、法改正、特定居住支援法人、実証事業。
  4. 国土交通省「令和8年度 二地域居住先導的プロジェクト実装事業」。
  5. 楽天グループ株式会社「『ふるさと住民応援コンソーシアム』を設立」2025年9月12日。
  6. 楽天グループ株式会社「『楽天ふるさと住民』を2027年春に新設」2026年8月4日。
  7. 楽天グループ株式会社・株式会社タイミー「地域の関係人口創出に向けたパートナーシップ」2026年3月2日。
  8. 楽天グループ株式会社ほか6自治体「ふるさと住民登録制度の社会実装に向けた連携」2026年7月1日。

取材・確認期限:2026年10月6日午後1時21分(日本時間)。特設ページの利用者数、宿泊・就労・賃貸契約の成果、三井住友海上が検討する保険の商品仕様、4社それぞれの収益分配や契約条件は、公表資料では確認できない。