災害現場で飛ぶドローンから、携帯電話網に頼らず、鮮明な映像を地上へ送り続ける。そのための通信路を、日本の研究チームがVHF帯に作ろうとしている。

京都大学大学院情報学研究科の原田博司教授の研究グループは、国際無線通信規格「Wi-SUN FAN」をVHF帯の狭帯域IoT通信へ適用し、飛行中のドローンからHD(1,280×720画素)、10fpsのライブ映像を無線伝送する実証に成功した。京都大学が9月28日に発表した。400kHzという狭い占有帯域幅で600kbit/sを確保し、映像を10分以上安定して送った。[1]

ただし、今回の飛行実験の伝送距離は約50mである。研究チームが開発したVHF-IoTシステムそのものは10km超の長距離伝送を想定しているが、今回「飛行中のドローンからHDライブ映像を送った」実験で数kmを実証したわけではない。そこは重要な区別だ。研究チームは次段階として、数km規模で高度、地形、遮蔽物などを変えた実環境試験を進めるとしている。[2]

低い周波数を使う理由

現在のドローン通信では、無線LANや携帯電話網が一般的に使われる。高速で便利だが、山間部や災害現場では弱点がある。Wi-Fiは数GHz帯を用いることが多く、森林や地形、建物などの遮蔽の影響を受けやすい。携帯電話網は広域をカバーできても、圏外や基地局障害が起きれば利用できない。

そこで注目されるのがVHF(Very High Frequency)帯だ。今回のVHF-IoTは、170MHz帯と220MHz帯を利用する。一般に周波数が低いほど、同じ条件では回折しやすく、障害物の背後へ回り込みやすい。森林や起伏がある場所でも、数GHz帯とは異なる伝搬特性を利用できる。[1]

この研究の難しさは「遠くへ飛ばす」ことだけではない。低周波・狭帯域という限られた通信路で、動き続けるドローンから人が状況判断に使える映像を途切れにくく送ることにある。

2025年末、VHF-IoTの制度整備が前へ進んだ

技術開発の背景には制度の変化がある。総務省情報通信審議会は2025年12月、V-High帯域の公共ブロードバンド通信システムと他システムのガードバンドなどを活用するVHF帯狭帯域IoT通信システムについて技術的条件を示した。

京都大学の発表によると、対象は下側周波数帯170.0~177.5MHz、上側周波数帯217.5~222.0MHzで、最大5Wの空中線電力による運用などが示された。上空利用については、研究資料で最大1Wとして整理されている。公共・公益性の高い機関などが自営通信網として用い、山間部や災害時の広域IoT通信へ活用することが想定されている。[3]

5月には34km――ただし固定地点間だった

京都大学の原田研究室は、この秋のドローン実験以前からVHF-IoTを段階的に検証してきた。2026年5月には220MHz帯、400kHzの帯域を使い、約34km離れた地点間で映像を無線伝送する実証に成功している。[4]

この結果だけを見ると、今回の約50mは短く見える。しかし実験の目的が違う。5月の長距離実験は、主に1対1の固定的な伝送で、FSK変調、通信速度150kbit/sだった。9月の実験では、飛行によって位置関係と電波環境が刻々と変わるドローンへWi-SUN FANのネットワーク機能とOFDMを組み合わせ、映像の滑らかさと接続性を高めた。[2]

つまり研究の流れは、「まず長距離で届くことを確認し、次に飛行体からネットワーク経由で高品質映像を送る」方向へ進んでいる。

FSKの150kbit/sから、OFDMで600kbit/sへ

今回の高速化で中心になるのがOFDM(直交周波数分割多重)だ。情報を複数の直交するサブキャリアへ分けて同時に伝送する方式で、Wi-FiやLTEなどでも広く使われている。

京都大学のシステムでは、220MHz帯で占有帯域幅400kHz、送信出力1W、OFDMを用いて600kbit/sを実現した。170MHz帯では占有帯域幅1,200kHz、送信出力250mWで2,400kbit/sを実現している。[2]

数字だけなら現代の携帯通信よりはるかに遅い。それでも今回の狙いは、都市部の5Gと速度競争をすることではない。通信インフラがない、あるいは壊れている場所で、必要な情報を低い周波数と限られた帯域で届けることにある。

HD映像を600kbit/sへ押し込む

HD映像を狭帯域で送るには、無線の高速化だけでは足りない。研究チームは映像側にも工夫を加えた。

一つは「パケットアグリゲーション」。複数の映像パケットをまとめ、無線通信で生じるヘッダーなどのオーバーヘッドを減らして効率よく送る。もう一つは、映像を構成するフレームの重要度に応じて伝送を制御し、重要な画像フレームを優先的かつ高品質に届ける方式だ。[1]

映像圧縮では、すべてのフレームが同じ重要度ではない。ある基準フレームが欠けると、その後の差分フレームを正しく再構成できなくなる場合がある。限られた通信容量の中で重要度を考慮することは、単に平均ビットレートを下げるより、映像を「見続けられる」状態に保つうえで重要になる。

高度25mと50mで10分以上

実験では、ドローンにVHF帯Wi-SUN FAN無線機(ルータ)、カメラ、映像伝送システム送信局を搭載した。ドローンは地上25mと50mの高度を飛行。地上側ではWi-SUN FANのボーダールータで受信し、映像をリアルタイムに復号・表示・録画した。[2]

その結果、220MHz帯の400kHz幅を使い、HD 1,280×720画素、10fpsのライブ映像を10分以上安定して伝送できた。さらに1,200kHz幅、2,400kbit/sでの映像伝送にも成功した。

10fpsは映画や一般的な動画配信のような滑らかさではない。しかし災害監視、捜索、機体状態確認では、静止画に近い低頻度更新よりはるかに多くの状況情報を与えられる。瓦礫の変化、煙の広がり、人の移動、道路の通行可否など、現場判断に必要な動きを連続的に追える可能性がある。

Wi-SUNはスマートメーターから始まった

Wi-SUNは「Wireless Smart Ubiquitous Network」の略称で、IEEE 802.15.4gなどを基礎に発展した低消費電力・長距離IoT通信の仕組みだ。2012年のIEEE 802.15.4g標準化以降、スマートメーター、センサー、監視装置などへ広がり、世界で多数の機器に実装されてきた。[5]

Wi-SUN FAN(Field Area Network)は、大規模な屋外ネットワーク向けの仕様だ。IPv6に対応し、各ノードが隣のノードへデータを中継するマルチホップ通信を使える。京都大学の資料では、20段を超える多段中継も可能としている。[2]

2026年7月にはWi-SUN FAN仕様がISO/IEC/IEEE 32857:2026として国際標準に採用された。公益インフラや自治体が長期運用する通信設備にとって、単一メーカー独自方式ではなく、相互運用を想定した標準であることは調達や保守の面でも意味を持つ。[6]

ドローンそのものより「空飛ぶノード」になる

Wi-SUN FANをドローンへ持ち込む意味は、映像を1機から1地点へ送ることだけではない。ドローンがネットワークのノードとして振る舞い、地上局や別のドローンと自律的に経路を作れるようになる点にある。

研究チームは今後、複数の地上局とドローンを相互接続し、マルチホップで広域エリアを形成するドローン配送管理通信システムの提案・実証を進めるとしている。山の陰に入った機体が直接基地局へ届かなくても、別のノードを経由して通信できるなら、通信範囲の考え方そのものが変わる。[2]

災害通信で問われるのは「平常時より速いか」ではない

大規模災害では、基地局の停電、光回線の断線、輻輳などで商用通信網が弱くなることがある。その場面で必要なのは、都市部の平常時通信を上回る速度ではない。被災地の映像、位置、機体状態、センサー情報を、既存インフラに依存せず継続して送れるかどうかだ。

VHF-IoTは公共・公益用途を強く意識して制度設計されている。通信容量が限られる代わりに、伝搬距離と障害物への強さ、自営網としての運用可能性を活かす。その性格は、5GやWi-Fiを置き換えるというより、それらが使えない場所を補うものに近い。

まだ「数kmの飛行映像伝送」は未実証

この成果を評価するとき、最も重要な注意点は距離だ。京都大学はシステムについて10kmを超える長距離伝送が期待できると説明し、5月には固定地点間で約34kmの映像伝送を実証している。一方、今回の飛行中ドローン実験は約50mである。[4]

次に必要なのは、この二つを一つにすることだ。つまり、長距離であることと、飛行体の時変通信であることと、高品質映像であることを同時に成立させる。

研究チームは数km規模の試験へ進み、飛行高度、距離、地形、遮蔽物を変化させるとしている。さらにフレームレート向上も課題に挙げる。[2]

もしそれが実現すれば、災害時の捜索だけではなく、山間部の送電線や道路、森林、河川の監視、離島への物流、携帯圏外でのドローン運航管理などへ用途が広がる可能性がある。

今回の50m実験は、ゴールではない。長く届くVHFと、ネットワークを自律形成するWi-SUN FANと、狭い帯域でも意味のある映像を送り続ける圧縮・伝送技術を、一つの飛行システムに載せた最初の段階である。