太陽光発電所が増えた日本で、次に問われるのは、つくった電気をいつ使うかだ。晴天の昼に供給が膨らみ、日が落ちると発電量が減る。その時間差を埋める蓄電池を、大きな敷地にまとめるのではなく、各地の小さな土地に分散させ、運用で束ねる構想が動き出している。
Tensor Energy株式会社と株式会社エコスタイルは9月9日、低圧系統用蓄電所の開発事業で提携したと発表した。2027年末までに累計1,000基のアグリゲーション連携を目指す。エコスタイルが開発・施工・運営保守を担い、Tensor Energyが「Tensor Cloud」で市場入札や充放電制御、精算を担当する。[1]
この数字は、稼働済みの蓄電所数ではない。提携の意味は、設備を小口化する一方、市場に提供する調整力は束ねて扱う点にある。土地を探す仕事と電気を取引する仕事を接続し、個々には小さい設備を事業として成り立たせられるか。日本の分散型電源が直面する課題を映す計画だ。
「低圧」でも、家庭用の予備電源とは違う
系統用蓄電池は、電力系統から充電し、必要に応じて系統へ放電する設備である。家の停電対策として設置する蓄電池とは、主な運用目的が異なる。今回の構想も、近所の住宅へ専用線で電気を配る地域電力網ではなく、市場と系統運用を通じて機能する蓄電事業として理解する必要がある。
資源エネルギー庁が説明するVPP(仮想発電所)は、分散する発電設備、蓄電設備、需要側の機器などを制御し、発電所と同等の機能を提供する仕組みだ。アグリゲーターは、その資源をまとめてサービスにする役割を担う。設備同士が隣接していなくても、制御・計測・取引の仕組みをそろえることで、一群の資源として扱える。[7]
ただし、小さい設備を多数設置すれば、それだけで使える調整力になるわけではない。接続先の条件、機器の応答性能、計測方法、蓄電残量がそろって初めて、引き受けた仕事を果たせる。電力需給調整力取引所(EPRX)も、市場参加には各商品の要件を満たすことが必要としている。[5][12]
固定価格で売る時代から、時間を選ぶ時代へ
この事業の背景には、十数年にわたる再生可能エネルギー政策の変化がある。2012年に導入された固定価格買取制度(FIT)は、再エネの電気を一定の価格で買い取る仕組みにより、設備投資を後押しした。2022年4月に始まったFIP制度では、市場などで得る売電収入にプレミアムを加える。発電事業者が市場価格を意識して電気を供給する方向へ、制度の選択肢が広がった。[3][11]
その変化は、蓄電池の役割にも関わる。発電した瞬間に売るだけなら、発電時刻は天候に大きく左右される。蓄電池を組み合わせれば、設備の範囲内で売る時間を選べる。ただし、充放電には損失があり、電池は使用に伴って劣化する。時間をずらせることと、ずらした結果が利益になることは、別の問題である。
機器を束ねる技術にも蓄積がある。ダイヘンは、2016年7月から国のVPP構築実証事業に参画したと公表している。需給調整市場は2021年4月に創設され、商品が段階的に追加された。EPRXによると、2024年度には全商品区分で取引が始まった。2026年4月の低圧アグリゲーション導入については、同取引所の制度対応資料でも確認できる。[4][5][6]
2012年 FIT導入。再エネ設備への投資を支える。
2016年 VPPの実証が進む。
2021年4月 需給調整市場が創設される。
2022年4月 FIP制度が始まる。
2024年度 需給調整市場の全商品区分で取引開始。
2026年4月 低圧アグリゲーションの制度対応。
蓄電池が売るのは、電気だけではない
蓄電池の働きを理解するには、電力量と調整力を分けて考えるとよい。kWhは蓄えたり使ったりする電気の量、kWはある時点の出力を表す。需給調整市場は、一般送配電事業者が周波数や需給バランスを保つために必要な調整力を調達する市場である。電気を何kWh売ったかだけでは、その仕事を説明できない。[5]
たとえば、充電中の蓄電池が充電を減らせば、系統から見た需要が減る。放電を増やす場合と同様に、需給バランスを改善する方向に働く。Tensor Energyは、充電側と放電側を活用する「ネガポジ運用」を研究資料で説明している。これは電池の蓄電容量が増えるという意味ではなく、運用計画を基準に出力を変えられる幅を活用する考え方だ。[8]
ここからはJapan.co.jpの分析である。こうした運用では、目先の売電価格だけを追うと、後で必要になる蓄電残量を失う場合がある。逆に、調整力のために余力を残せば、その時間に売れたはずの電気を売らない選択も生じる。設備の状態と複数の収益機会を同時に判断することが、運用会社の実力になる。
Tensor Energyが9月4日に公表した比較研究も、実際の市場データを用いたシミュレーションであり、この提携による実運用の成績ではない。同社は、入札が平均約定価格ですべて落札されるなどの仮定を置き、比較対象の運用方法によって収入比率が上限寄りになることを明記している。研究は仕組みの検討材料になるが、所有者の将来収益を示す実績としては読めない。[8]
小さな土地に置く設備にも、見えない費用がある
エコスタイルの商品ページには、108.54kWhクラスで税別1,470万円から、217.08kWhクラスで税別1,850万円からという価格例がある。土地代、整地費、電力負担金、アグリゲーター契約初期費用は別途。約6坪から検討可能という用地条件にも、接道や工事車両の作業空間などが伴う。価格も面積も、すべての土地に適用できる完成済み事業の総額・総面積ではない。[2]
事業の採算を見るなら、設備代に加え、充電のための電気、保守、通信、保険、運用手数料、資金調達、将来の機器更新までを通して考える必要がある。これは今回の案件の費用見積もりではなく、Japan.co.jpが考える比較の視点だ。売上高が同じでも、土地や接続工事の条件が違えば、所有者の手元に残る金額は変わる。
同社はモデルケースも掲載しているが、実際の収益や回収期間を保証するものではないと明記する。発電所の販売価格と、試算上の設備投資額が同じとは限らない。個別案件を評価するときは、同じ費用範囲、同じ運用条件で比べなければならない。[2]
分散させても、系統の制約は残る
蓄電池は電気を吸収する設備であると同時に、充電時には系統の需要を増やす設備でもある。経済産業省の2026年2月の審議会資料は、系統用蓄電池の新規連系を扱い、充電側の出力制御が放電側にも影響し得ることを示している。安い時間に買う計画を立てても、その時間に必要な量を充電できるとは限らない。[9]
再エネの出力制御を減らす効果にも、立地と運用が関わる。余剰が出る時間に充電でき、その後に放電できれば、電気の利用機会は広がる。だが、電池が満杯だったり、接続地点に制約があったりすれば、吸収できる量には限界がある。資源エネルギー庁も、再エネの出力変動に応じて柔軟に充放電できる蓄電池の重要性を指摘している。[10]
Japan.co.jpの分析では、分散配置には、各地の土地や施工体制を利用できる可能性がある半面、点検、通信、故障対応の拠点が増えるという課題がある。一か所の故障の影響を小さくできても、共通の制御基盤に障害が起きれば複数設備に及び得る。遠隔で動くことに加え、遠隔で動かせないときに何が起きるかが重要だ。
1,000基の先に、何を測るか
この計画を追う物差しは、基数だけでは足りない。Japan.co.jpは、接続を終えて市場に参加した設備の数、実際に使える出力と蓄電量、指令への追従、停止時間、費用控除後の収益を分けて見るべきだと考える。基数が増えても、使える時間や電気の量が分からなければ、電力系統への貢献は測れない。
同様に、再エネを有効利用したという評価には、充放電量だけでなく、いつ、どこで、どのような制約の下で運転したかが要る。電池を通った電気をすべて、捨てられるはずだった太陽光と数えることはできない。環境価値と市場収益は、別々に確かめる必要がある。
FITが再エネを増やす投資の入口を広げたのだとすれば、分散型蓄電事業が試されるのは、増えた電源を時間と場所に合わせて使う段階だ。Tensor Energyとエコスタイルの提携は、その仕事を小さな用地へ広げようとする。目標達成の意味は、1,000という数字の見栄えではなく、一つひとつの設備が約束した働きを続けられるかにある。
- Tensor Energy:エコスタイルとの業務提携発表(2026年9月9日)
- エコスタイル:低圧系統用蓄電所(商品・費用条件)
- 資源エネルギー庁:FIP制度の導入(2021年8月3日)
- ダイヘン:VPP実証事業への2016年7月からの参画
- 電力需給調整力取引所:需給調整市場とは
- 電力需給調整力取引所:2026年4月の低圧アグリ導入に伴う帳票見直し(2025年6月16日)
- 資源エネルギー庁:VPP・DRとは
- Tensor Energy:一次調整力市場におけるネガポジ運用(2026年9月4日)
- 経済産業省審議会資料:系統用蓄電池の新規連系における課題と対応(2026年2月9日)
- 資源エネルギー庁:系統用蓄電池の現状と課題(2024年5月29日)
- 資源エネルギー庁:FIP制度の活用促進に向けた勉強会(2025年9月11日)
- 電力需給調整力取引所:取引規程・取引ガイド・申請様式
