東日本大震災から15年が過ぎた2026年9月16日、神奈川県は一つの採用情報を公開した。募集するのは、翌2027年度に福島県の被災自治体へ派遣する任期付職員、約20人。職種を見ると、復興がいまどの段階にあるのかが見えてくる。

最多は総合土木11人程度。道路、橋梁、河川、港湾、上下水道、区画整理だけではない。農地、ほ場、水路、堰、ため池の除染、改修、整備まで含まれる。ほかに、用地1人、事務支援3人、建築3人、林業1人、保健師1人。派遣先は福島県の地方機関と、南相馬市(みなみそうまし)、楢葉町(ならはまち)、浪江町(なみえまち)、大熊町(おおくままち)、飯舘村(いいたてむら)、双葉町(ふたばまち)などだ。[1] [2]

15年前の災害復旧なら、壊れた道路や庁舎を直す仕事を想像しやすい。だが2027年度の募集業務には、放射性物質除染や家屋解体の調整、被災者生活再建支援、空き家・空き地バンク、体育施設の運営、森林整備、心の健康づくりまで並ぶ。復興が「建設工事」だけではないことを、この採用表が端的に示している。[2]

15年後の人材不足は、2011年直後と同じ人手不足ではない。発災直後は避難所、罹災証明、がれき処理など大量の緊急業務が集中した。現在の福島では、帰還、営農再開、除染後の土地利用、住まい、公共施設、森林、保健、インフラ更新が同時進行し、それぞれに専門知識を持つ職員が必要になっている。

20人の募集が映す、現在の復興業務

分野予定人数主な業務主な派遣先
一般事務・用地1人程度復旧・復興事業の用地業務浪江町
一般事務・事務支援3人程度除染・家屋解体調整、住宅支援、空き家・空き地、体育施設等浪江町
総合土木11人程度道路・河川・上下水道・区画整理、農地・農業用施設の除染・整備等福島県、南相馬市、楢葉町、浪江町、大熊町
建築3人程度復旧・復興工事の設計、積算、施工監理南相馬市、楢葉町、飯舘村
林業1人程度森林整備の総合計画、管理南相馬市
保健師1人程度被災者等の精神保健、心の健康づくり双葉町

任期は2027年4月から2028年3月31日まで。一般事務、土木、建築、林業では原則として関連実務3年以上が求められ、建築は一級または二級建築士、保健師は保健師免許が必要だ。採用後は地方自治法第252条の17に基づいて派遣され、派遣先自治体の職員の身分も併任する。つまり単なるボランティアではなく、行政組織の中で許認可、設計、積算、監督、住民支援を担う「即戦力」の募集だ。[2]

約20人神奈川県が今回募集する2027年度派遣職員
11人程度最も多い総合土木職
55人2026年2月1日時点で神奈川県が東日本大震災被災地へ派遣していた任期付職員
22,625人2026年5月1日時点で福島県が数えた県内外の避難者

神奈川の派遣は2014年から続いている

神奈川県は震災直後から職員を被災地へ派遣してきたが、専門経験を持つ人を外部から採用して長期派遣する現在の任期付職員制度は2014年3月に始まった。県の説明では、岩手、宮城、福島の自治体へ派遣し、復旧・復興を支えてきた。[4]

2026年2月1日時点では、神奈川県の任期付職員は東日本大震災の被災2県に55人。そのうち福島県内が54人、宮城県内が1人だった。福島だけを見ると、事務18人、土木29人、建築7人。県は議会資料で、自らを全国でも最大規模の任期付派遣を続ける自治体の一つとして説明している。[3]

2025年度の募集は19人程度、2024年度は21人程度だった。人数が毎年ほぼ同じだから「復興が進んでいない」と単純には言えない。派遣先の工事量や職種、任期満了、帰還区域の拡大、新しい事業の開始に応じて需要は変わる。しかし、15年目にも毎年20人前後の専門職を外部から採る仕組みが必要なこと自体が、行政負荷の長さを物語る。[1] [4]

全国の自治体が支えた「人の復興」

東日本大震災では、庁舎だけでなく自治体職員自身も被災し、同時に膨大な業務が発生した。総務省、全国知事会、全国市長会、全国町村会などを通じ、全国の自治体から職員を送る仕組みが急速に整えられた。

復興庁の検証によれば、2018年4月1日時点でも45都道府県、19指定都市、272市区町村が被災自治体へ応援職員を派遣していた。応急期を過ぎると、必要な人材も変わった。用地取得、区画整理、土木・建築工事の発注、設計、積算、工事監督など、長期事業を動かせる技術職の需要が強まった。[8] [9]

同じ復興庁の教訓集は、当時、全国の自治体自体が大量退職や公共事業縮小で土木職不足を抱え、被災自治体から求められた技術職の派遣ニーズの半分が満たされない時期があったと記録している。これは2026年の充足率を示す数字ではない。しかし、「専門職を送りたくても、送り出す自治体側にも余裕がない」という構造問題が早くから存在したことを示す。[8]

なぜ福島だけ、時間軸が違うのか

地震・津波被災地域では、防潮堤、道路、住宅、区画整理など大規模なハード整備の多くが進んだ。一方、原子力災害被災地域では、避難指示の解除時期が地区ごとに大きく異なり、「復旧を始められる時点」そのものが2011年ではなかった地域がある。

政府は2026年度から2030年度までを第3期復興・創生期間と位置付けた。復興庁の基本方針は、原子力災害被災地域について「地域によって復興の段階が様々」と明記している。第2期が終わったから復興政策が終わるのではなく、さらに5年を一つの政策期間として設定した。[7]

避難の長さも数字に表れる。福島県によると、避難者数は2012年5月に約16万人でピークを迎え、その後減少したが、2026年5月1日時点でも22,625人が県内外で避難者として数えられている。このうち県外は18,684人だった。[10]

大熊町では2026年8月末、住民基本台帳人口9,713人に対し、町内居住人口は1,249人で、うち「帰還者」として町が数える住民は423人だった。復興行政は、町内に戻った人、町外で暮らし続ける人、新たに移住した人、事業者、廃炉関係者が同時に存在する地域を運営する仕事でもある。[16]

営農再開は「田んぼに戻る」だけではない

今回の神奈川県募集で、総合土木の職務に「農地・農業用施設、ほ場、水路、堰、ため池等の除染、改修、整備」が並ぶのは偶然ではない。原子力災害被災12市町村では、農業がなお復興の大きな未完分野だからだ。

2026年の復興推進委員会で農林水産省は、12市町村の営農再開面積が震災前の約5割にとどまると報告した。農地の利用集積、大区画化、スマート農業、高付加価値産地づくりを進め、2026年度からは複数事業を統合して福島県の基金を通じた支援へ再編した。[11] [12]

「再開」の手前にある地域もある。浪江町津島地区では2026年5月、米の作付制限解除を目指す水稲の試験栽培が行われた。そこは特定復興再生拠点解除区域ではあるが、町の説明ではなお「農地保全・試験栽培区域」で、生産した米を出荷することはできない。安全性を確認し、地域と行政が判断した後に、国へ作付制限解除を要望する段階だ。[13]

一方で浪江町は、農業機械の点検、簡易ハウス、営農組織化、加工品開発、販売促進など、営農者の立ち上がりを町独自に支援している。農業復興は土を除染して終わりではない。担い手、水路、農機、集約、販売、風評、地域組織を同時に再構築する仕事になる。[14]

15年後に土木職が必要なのは、15年間ずっと同じ工事をしているからではない。避難指示が解け、土地利用が決まり、営農や居住を再開できる地域が増えるたびに、新しい工事と行政手続きが始まるからだ。

浪江町に必要なのは「土木」だけではない

今回の募集で最も職務の幅が広い自治体の一つが浪江町だ。

用地職員は復旧・復興事業の土地取得を担当する。事務職は環境省による放射性物質除染や家屋解体、がれき処理との調整、住宅関係補助金、被災者生活再建支援制度、空き家・空き地バンク、さらには体育施設やスポーツ団体、イベント運営までを担う。土木職は農地と農業施設、道路や上下水道などを扱う。[2]

一つの町役場に、通常の基礎自治体業務と、15年前の災害に起因する長期事業と、「町へ戻る/戻らない/新しく住む」という人口再編の仕事が重なっている。

行政の負荷は、建設費の残額だけでは測れない。用地交渉一件、補助金申請一件、空き家登録一件にも職員の時間がかかる。道路が完成しても、その沿線で営農や居住が戻るまで、別の種類の行政業務が続く。

保健師が15年後にも必要な意味

双葉町への募集は保健師1人で、職務は被災者等の心の健康づくり、精神保健に関する支援だ。復興庁も、避難生活の長期化に伴う心身のケア、コミュニティ形成、生活再建相談を現在も重点施策として続けている。[2]

長期避難では、支援対象者が一つの仮設住宅に集まっているとは限らない。県内外へ分散し、高齢化し、帰還した人と帰還しない人で生活環境も異なる。福島県知事も2026年6月、2万人を超える人がなお避難生活を続けていることを「通常の自然災害では見られない長期間の避難」と表現した。これは原発事故による避難の特殊性を説明した県の認識である。[10]

道路や建物の「完成」には竣工日がある。心の健康、コミュニティ、家族の分散、帰還後の孤立には、それほど明確な完成日はない。

第3期復興・創生期間は「最後の5年」なのか

国の現在の枠組みでは2026〜2030年度が第3期復興・創生期間で、復興庁の法律上の設置期限も2030年度までとされる。ただし政府は、期間途中でその後の組織や施策の在り方を検討するとしており、2030年度をもって福島固有の課題がすべて終了すると決めているわけではない。[7]

そのため、「15年もたったのに、まだ人が必要なのか」という問いには、二つの答えがある。

一つは、道路や農地、住宅など、まだ終わっていない物理的な復旧があること。もう一つは、原子力災害地域では、避難指示解除や帰還、土地利用の再開が時間差で起きるため、復興事業そのものが後から始まる地区があることだ。

2026年の復興人材不足を読む5つのポイント
  • 不足しているのは単純な「人数」だけではなく、土木、建築、用地、林業、保健など特定技能を持つ即戦力。
  • 原子力災害地域では避難解除の時期が地区ごとに異なり、復興工事の開始時期もずれる。
  • 営農再開率は被災12市町村全体でなお約5割。農地整備と担い手・販売まで一体で再建する必要がある。
  • 避難者はなお2万人超。帰還者だけでなく県外避難者への支援も続く。
  • 外部派遣は恒久的な代替要員ではなく、異常に増えた復興業務を自治体の通常職員だけで抱え込ませないための仕組み。

復興で最後まで足りなくなるのは、工事費ではなく経験かもしれない

神奈川県の募集は、応募者に「専門的な知識・経験を被災地復興のために活かしてみませんか」と呼びかける。必要なのは、ゼロから訓練する人ではなく、役所や民間で設計、積算、施工監理、用地、森林整備、保健を経験した人だ。[1]

これは復興の時間が長くなるほど難しくなる。全国の自治体でも技術職の確保は容易ではない。さらに能登半島地震など新しい災害が起きれば、同じ土木、建築、保健の専門家を各地が必要とする。

東日本大震災から15年という数字は、一区切りには見える。しかし、2026年9月の採用票を読むと、福島の復興は「残った仕事を片づける」段階だけではないことが分かる。ある地域ではいま、農業を再開するための水路を整え、帰還者の住まいを支え、空き家を次の利用者へつなぎ、心の健康を守り、新しい町の公共施設をつくっている。

復興の時計は、2011年3月11日から一斉に進んだわけではない。福島では、地域ごとに時計が再び動き始めた日が違う。そのずれを埋める仕事の一部を、いまも全国から来る職員が担っている。

出典・参照
  1. 神奈川県「令和8年度 神奈川県任期付職員(東日本大震災の被災地への派遣職員)の採用選考のお知らせ」2026年9月16日
  2. 神奈川県「令和8年度 神奈川県任期付職員(東日本大震災の被災地への派遣職員)の採用選考のお知らせ」募集要項
  3. 神奈川県議会 防災警察常任委員会報告資料「東日本大震災及び能登半島地震の被災地への任期付職員の派遣」2026年3月2日
  4. 神奈川県「東日本大震災等に係る被災地への派遣」
  5. 福島県「被災市町村の職員募集状況をお知らせします」2026年9月7日
  6. 福島県「東日本大震災及び原発事故における被災市町村への人的支援の状況」2026年9月1日
  7. 復興庁「福島の復興・再生に向けた取組状況」—第3期復興・創生期間の基本方針
  8. 復興庁「復興の教訓・ノウハウ集 62)長期にわたる職員派遣の継続」
  9. 復興庁「復興の教訓・ノウハウ集 61)応援職員の派遣」
  10. 福島県「避難者数の推移」2026年8月17日更新
  11. 復興庁「第49回復興推進委員会 議事録」2026年
  12. 農林水産省「福島県営農再開・高付加価値産地展開支援事業について」
  13. 浪江町「令和8年度 津島地区水稲試験栽培(田植え)」2026年5月
  14. 浪江町「令和8年度 立上がる営農者等への支援事業」
  15. Fukushima Prefecture English portal, transition of evacuee numbers
  16. 大熊町「令和8年8月末現在の人口・世帯状況及び居住・避難状況」