¥43兆2023~27年度の整備計画
4%防衛特別法人税の税率
¥6,580億2026年度の税収見込額
未決定追加増額の財源

決まっている税と、決まっていない追加負担。両者を区別しなければ議論は始まらない。

「財源は未定」は、何についての発言か

片山さつき財務相が10月20日、追加の防衛力強化に必要な財源はまだ決まっていないとの認識を示した。報道によれば、政府は今後必要な防衛能力と歳出の規模を検討しており、その上で財源を詰める段階にある。ここで確認しておきたいのは、国の防衛予算が無財源のまま動いているという意味ではないことだ。既に予算として計上された支出と、これから決める増額分は違う。

さらに、防衛財源のための税制は一部が既に動き出している。「防衛増税をするかどうか白紙に戻った」と読むのも誤りだ。今回問われているのは、従来の計画を超える可能性がある支出を、誰がどの時期に、どのような負担として引き受けるかである。

2022年の転換点と「43兆円」

転機は2022年12月だった。政府は国家安全保障戦略、国家防衛戦略、防衛力整備計画のいわゆる「安保三文書」を決定し、従来より大きな予算規模で装備や部隊の態勢を見直す方針を示した。防衛力整備計画に記された2023~2027年度の5年間の整備水準は約43兆円。これは5年間の整備計画に関する金額であって、単年の予算額でも、将来のすべての財政負担を合算した数字でもない。

冷戦後の日本では長く、防衛支出の対GDP比「1%」が政治的目安として語られた。現在の計画は周辺の安全保障環境や新しい装備・技術への対応を理由に、その前提を大きく変えた。何を守るために、いつまでに、どの程度の能力が必要か。金額の議論は本来、この順序と切り離せない。

すでに始まった防衛特別法人税

2025年度税制改正では「防衛特別法人税」が法制化され、2026年4月1日以後に開始する事業年度から適用された。法人税額に対して4%を上乗せする仕組みだが、課税標準となる法人税額から500万円を控除するため、すべての企業が同じ負担を負うわけではない。財務省はこの控除により、全法人の約94%が対象外になるとの見込みを示している。

重要なのは「法人所得の4%を徴収する」という意味ではないことだ。税額を計算する基礎が違う。利益率の低い企業と大きな税額を負う企業では影響が異なり、資本投資、賃上げ、株主還元への波及は企業の状況に左右される。

たばこ税と所得税にも別の時計がある

財務省の2026年度税制改正大綱は、加熱式たばこの課税適正化、国のたばこ税率引上げの段階的な実施を整理している。所得税では2027年1月から「防衛特別所得税」を設ける枠組みを示し、所得税額への1%の付加税と、復興特別所得税の税率を2.1%から1.1%に引き下げる仕組みを組み合わせた。復興財源を確保するため課税期間は延長される。

こうした制度の設計と、今後の新しい防衛費増額を賄うための追加措置は分けて考える必要がある。既存制度にどこまで財源余力があるのかは、税収や経済情勢、具体的な装備調達額によって変わる。

税収見込みを「確定財源」と読み違えない

財務省の2026年度大綱の別掲表は、税制措置による増収見込みとして2026年度に計6,580億円、2027年度に1兆3,020億円、平年度に1兆3,370億円を示す。ただしこれは税収予測であり、今後の経済・企業収益で変動する。平年度は毎年必ず同額を徴収すると約束した数字ではない。

また、復興特別所得税の引下げによる影響もある。税の種類と年度が異なる数字を単純に足したり、軍事支出の全額を新たな税だけで賄っていると説明したりするのは不正確だ。通常の一般財源、歳出改革、決算剰余金などをどう使うかという議論も関わる。

なぜ、さらに費用が必要なのか

防衛力整備計画は長射程の打撃能力、防空・ミサイル防衛、無人装備、サイバー・宇宙、継戦能力、施設の強靱化などを対象としている。しかし装備品は購入して終わりではない。部品、弾薬、訓練、整備、エネルギー、通信、人員に継続してお金がかかる。輸入装備では為替相場も費用を左右する。

米国から日本の負担拡大を求める声が強まる中で、従来の5カ年計画を上回る歳出の可能性が報じられている。ただし「米側が求めるGDP比」と、日本政府が法的に決めた歳出目標は同一ではない。海外からの要請だけを根拠に、日本の税率が自動的に決まることはない。

「法人税で払う」は簡単な答えか

法人への追加課税は、国民が意識しやすい家計への直接課税より政治的に選びやすく見える場合がある。しかし税の負担は企業の帳簿だけにとどまらない。価格、従業員への賃金、投資、配当などを通じて広く分担される可能性がある。一方、利益の大きい企業により大きな負担を求めるべきだという議論も成り立つ。

企業向け税制の公平性と、景気や産業競争力への影響をどう評価するか。防衛産業への発注が国内雇用を生む効果と、税による民間投資の抑制という可能性を、同じ表で比べるだけでは答えが出ない。独立した試算と透明な議会審議が欠かせない。

借金で賄えば、将来の負担は消えるのか

増額分を国債で賄えば、その時点の税負担を抑えられる。だが借入れには利払いと償還が伴い、将来の税収や予算の選択肢を狭めうる。日本銀行が金融政策の正常化を進める局面では、長期的な資金調達費用も無視できない。

反対に、安全保障の危機を重大な公共財の供給問題と捉え、費用を世代間で分担すべきだとの考え方もある。借金を全面的に否定するかどうかではなく、どの支出が一時的な設備投資で、どれが毎年度繰り返す経費かを区別する必要がある。

防衛力の「量」と「実効性」は別

予算を増やせば防衛力が比例して増すとは限らない。隊員確保、装備の納入期間、保守人員、訓練環境、輸入依存、国内企業の生産力に制約があれば、執行が遅れたり費用が膨らんだりする。反対に、既存装備の稼働率を高める投資が新規購入以上に効果的な場合もある。

国会と国民が確かめるべきなのは、防衛費の総額だけではなく、費目別の契約、納期、実際の納入、維持管理費、成果指標である。機密性の高い分野でも、公開できる情報は最大限明らかにする必要がある。

社会保障、地域、産業政策との競合

日本の財政は少子高齢化に伴う社会保障費の増加、災害対策、公共施設の維持、教育、研究開発など同時に多くの需要を抱える。防衛費増額を賛成・反対の二択に押し込むと、こうした代替的な支出機会が見えなくなる。

安全保障を支えるのは装備だけではない。エネルギー、港湾、通信、工業基盤、社会の回復力も重要だ。どの費用を防衛関連と数えるかという定義の問題も、国際比較に大きく影響する。

本当に未決なのは、追加分の設計

財務相の発言は、これまでの防衛財源税制が存在しないという宣言ではない。まして、将来の法人税引上げが正式決定したという意味でもない。すでに成立した制度、現行5カ年計画、追加で検討される能力と財源を、三つの別の表で扱えば政治的な論争の輪郭は明確になる。

これからの争点は具体的な額、時期、税目、国債依存度、国民と企業の負担、そして安全保障上の効果だ。政府が明示すべきなのは「防衛は必要だ」という総論だけでなく、選択肢ごとの費用と便益の比較である。

次に確認する五つの問い

第一に、防衛力整備計画をどこまで前倒し・上積みするのか。第二に、新しい歳出の内訳と複数年契約の負担は何か。第三に、既存の税制措置の実績と見込みはどう違うか。第四に、追加の税制改正や国債発行について具体的な政府案はいつ示されるのか。第五に、支出が防衛態勢を改善したと検証する指標は何か。

税を先に決めるのか、必要な能力を先に決めるのか。防衛と暮らしの双方を支えるためには、その議論を順序立てて公開することが重要だ。

出典・参考資料

10月20日の会見発言についてはロイター報道に基づく。追加増額の具体案、税率、年度別歳出は未確定。独自インタビューは実施していない。

  1. 財務省・令和8年度税制改正大綱:防衛財源税制(増収見込額)
  2. 財務省・令和8年度税制改正大綱:防衛特別所得税
  3. 財務省・令和7年度防衛特別法人税の解説
  4. 防衛省・令和8年版防衛白書:防衛力整備計画
  5. Reuters, Finance Minister Katayama on unagreed additional defense funding, Oct. 20, 2026