採用の数だけではなく、採用した後に技術者として育てられるかが問われる。
図面を引く若者を、海の向こうで探す
工事現場に必要なのは、鉄筋を組み、コンクリートを打つ技能だけではない。構造を理解し、工程を組み、施工の安全と品質を管理する技術者も欠かせない。その確保に苦しむ日本の中堅・中小建設会社が、ベトナムの大学生と直接出会う機会を国土交通省が設ける。10月23日に発表された合同就職説明会は、12月にホーチミン市とハノイで開かれる予定だ。建設会社の人材不足という国内問題が、アジアの大学キャンパスへとつながる。
12月の3大学、役割は同じではない
予定では12月8日にホーチミン市工科大学、10日にハノイ土木大学でジョブフェアを開催する。企業が事業内容を説明し、建築・土木工学を学ぶ学生や卒業生らと個別面談する。11日は日越大学で、同大学の学生に講義形式で企業を紹介する。9日は移動日だ。前二者の会場は採用に向けた面談が柱だが、日越大学では主として将来の人材との接点をつくる。三大学で同じ面接会を実施するわけではない。
対象は巨大ゼネコンだけではない
募集対象は中小企業と中堅企業である。国交省の案内では、中小企業は資本金3億円以下または従業員300人以下、中堅企業は中小企業を除く従業員2000人以下の建設会社とされ、みなし大企業は対象外だ。定員は大学ごとに10社程度。参加費は無料だが、渡航、宿泊、食事、海外旅行保険、必要な通訳の費用は企業が負担する。申込期限は11月18日。海外に採用拠点を持たない会社の入口にはなるが、費用ゼロの採用制度ではない。
建設業の働き手は四半世紀でどう変わったか
厚生労働省の第11次建設雇用改善計画によれば、建設業就業者は1997年の685万人を頂点に減少し、2024年には477万人だった。1990年代の公共投資や民間建設の規模と、今の需要構造は同じではない。それでも老朽インフラの維持管理、防災・減災、住宅、再開発など、現場の仕事は続く。就業者が減ったという一つの数字だけで絶対的な不足を断定できないが、人材確保が長期の構造問題になっていることは確かだ。
「技術者」と「技能者」を取り違えない
今回、国交省が招こうとしているのは主に建築・土木工学を学ぶ技術者候補だ。設計、積算、施工管理、測量、品質管理といった仕事に関わる可能性がある。技能実習制度や特定技能制度を通じて建設作業を担う人材の受け入れとは、職務も必要な在留資格も一律には同じでない。採用後の仕事内容や学歴と専門性の対応により、適用される在留資格を確認しなければならない。「外国人労働者」という大きな括りでは、この政策の狙いが見えなくなる。
数字が示す採用の競争
同計画は、2024年度の建築・土木・測量技術者の有効求人倍率を5.58倍と示す。建設業の年間総実労働時間は2024年に1938時間で、全産業1643時間より長い。一方、国交省の2026年8月の建設労働需給調査では、対象8職種の過不足率が1.3%の不足となった。これらは調査方法や対象職種が異なる数字であり、直接足し合わせたり、今回の大学卒業予定者の不足人数に読み替えたりしてはいけない。
ベトナムとの人の往来が重ねてきた時間
日本とベトナムの経済関係では、製造業の投資、留学、就労が長く重なってきた。厚労省の2025年版労働経済白書によれば、2024年10月末の外国人労働者は全国で約230万人となり、ベトナム国籍の労働者は国籍別で最多だった。すでに大きな往来があるからこそ、次に問われるのは採用数だけではない。大学で身に付けた専門知識を使える仕事に就けるか、長期的な技術者として評価されるかである。
2024年の時間外労働規制が意味するもの
建設業では2024年4月から時間外労働の上限規制が原則として適用され、長時間労働を前提に工程を回す従来の慣行が問われている。外国人技術者の採用は、一人当たりの負荷を抑えるための選択肢にはなり得る。しかし、多忙な現場に人を追加するだけで働き方が改善するわけではない。計画的な配置、工程管理、休日、教育担当者の確保が伴って初めて、企業にも採用される側にも意味が生まれる。
学生にとって重要なのは給与だけか
ベトナムの建築・土木系学生が日本の会社を選ぶ理由は一様ではないはずだ。技術や現場経験、国際的なキャリア、生活環境など、本人の判断材料は多い。企業側は勤務地と配属職務、日本語教育、給与体系、残業や休日、資格取得支援、転職や帰国を含む将来の選択肢を説明できるだろうか。これらの条件は10月23日の発表だけでは明らかにならない。参加企業や学生への取材で最も確かめたい部分である。
採用に成功しても、定着には別の努力
高度な工学教育を受けていても、日本の建設現場で使う法令、専門用語、図面表記、発注者との調整、協力会社とのコミュニケーションは新しい学習になる。現場で事故を防ぐ安全教育も欠かせない。特定の国の学生は日本語ができる、あるいはすぐに戦力化する、と決めつけることはできない。企業の評価制度、上司の指導、相談窓口、差別を防ぐ仕組みこそ、採用後の成否を左右する。
中小企業が海外大学に向かう意味
大企業であれば国際人事の専門部署や現地拠点を持つ場合もある。しかし地方の建設会社にとって、大学との連携を一からつくるのは容易でない。国交省が会場と交流の機会をまとめて提供する今回の仕組みは、そうした会社の最初の一歩を後押しする。ただし、実際に何社が参加し、何人と面談し、採用に結び付いたのかは今後の確認事項だ。募集の公表を採用の成果と扱うべきではない。
建てる力を次世代につなげる条件
道路も橋も、住宅も防災施設も、一度造れば終わるものではない。長く安全に使うためには、設計を理解し、現場を管理し、維持に責任を持つ技術者がいる。日本の会社がベトナムの大学に求めるものを「足りない人手」の一言で片付ければ、両国の若者の可能性を見逃す。12月の説明会は入口でしかない。どんな仕事を、どんな条件で、ともにつくっていけるのか。その答えが、この取り組みの価値を決める。
出典・確認資料
資料の確認は2026年10月24日時点。12月の採用イベントは開催前で、参加企業・採用人数・個別労働条件は未公表。学生や企業への独自インタビューは実施していない。
