赤いウサギと青い船を、まず「色」で分ける。次に、今度は「形」で分けるよう言われる。大人には簡単に見える。しかし3歳前後の子どもは、新しいルールを理解していても、さっきまで使っていたルールから切り替えられず、同じ分け方を続けることがある。

この幼児期特有の「切り替え」の発達を調べる実験で、意外な身体反応が手掛かりとして浮かび上がった。まばたきである。

筑波大学体育系・ヒューマン・ハイ・パフォーマンス先端研究センターの桑水隆多(くわみず・りゅうた)助教、京都大学大学院文学研究科の森口佑介(もりぐち・ゆうすけ)教授らの研究チームは、幼児113人を対象に、ルールを切り替える課題の成績、前頭前野の活動、自発的なまばたきの頻度を同時に調べた。結果は9月15日、Communications Psychologyに掲載された。[1] [2] [3]

瞬きの頻度が高い子どもほど、ルール切り替えの成績が高い傾向があった。そして、その瞬きと結びついていた前頭前野の活動は広範囲ではなく、課題遂行に重要な右背外側前頭前野(right dorsolateral prefrontal cortex、rDLPFC)に集中していた。年齢が上がるにつれ、前頭前野の活動も右側・背側へとより選択的になる傾向を示した。[1] [3]

これは「まばたきの多い子ほど頭が良い」という研究ではない。調べたのは実行機能の一側面である認知的柔軟性と特定課題の成績との関連であり、相関は因果関係を意味しない。まばたき数から個々の子どもの発達を診断する基準も、この研究では作られていない。

実行機能とは何か

実行機能は、目標に合わせて行動や思考を制御する認知機能の総称だ。不要な反応を抑える「抑制」、必要な情報を一時的に保つ「ワーキングメモリ」、状況が変わったときに考え方やルールを切り替える「認知的柔軟性」などが含まれる。

幼児にとっては、教室で先生の指示を聞きながら一つ前の遊びを止めること、順番を守ること、友達との遊びでルールが変わったときに対応することなど、日常の多くの場面に関わる。京都大学と筑波大学の発表は、幼児期が実行機能の発達が特に著しい時期であり、その個人差が後の学業や社会的適応などと関連することが過去研究で報告されてきたと説明している。[1] [2]

ただし「幼児期の実行機能が将来を決める」という意味ではない。長期的な発達には家庭環境、教育、健康、社会経済的条件、経験など多数の要因が関わる。今回の研究は、その複雑な発達の一部を脳と行動の両面から見ようとしたものだ。

色から形へ――DCCSという古典的な課題

研究で使われたのは、次元変化カード分類課題(Dimensional Change Card Sort、DCCS)と呼ばれる方法だ。色と形という二つの属性を持つカードを、最初は一方のルールで分類し、途中で別のルールへ切り替える。

DCCSは1990年代から幼児の実行機能研究で使われ、Philip Zelazoが2006年に標準的な手続きをまとめた。典型的には、3歳児は最初のルールに固執しやすい一方、5歳頃になると新しいルールへ柔軟に切り替えられる子が多くなる。2015年のメタ分析でも、この課題が幼児期の認知的柔軟性研究で広く使われてきたことが確認されている。[4] [8]

今回の実験では、単純な「前半・後半」だけではなく、三つのセッションそれぞれに、最初のルールで分けるpre-switch、別のルールへ変えるpost-switch、色と形を試行ごとに切り替えるmixの3段階を設けた。各課題ブロックは25秒、その間に最大8試行を行い、ブロック間には15秒の休息を入れた。[3]

113人最終解析に入った幼児
35〜80か月参加児の年齢範囲
約6分まばたきを測ったDCCS課題全体
16ch前頭前野を覆ったfNIRS測定チャンネル

大阪と京都の幼児113人を調べた

論文によると、参加者は大阪と京都の二つの園から募集された。最終解析に入ったのは113人で、女児55人、男児58人。平均年齢は59か月で、範囲は35〜80か月だった。園から得た情報では発達上の異常は報告されていない。保護者から事前同意を得て、京都大学のUnit for Advanced Studies of the Human Mind倫理委員会の承認(3-P-27)の下で実施された。[3]

さらに10人が参加したが、実験開始を拒んだ6人、fNIRSキャップの装着を拒んだ3人、動きが大きく課題を完了できなかった1人については、使用可能なデータを得られなかった。幼児の脳研究で「測れた子どもだけがデータになる」という現実も、研究結果を読む際の重要な条件だ。[3]

脳を見る装置は、子どもを寝かせない

今回使われた機能的近赤外分光分析法(functional near-infrared spectroscopy、fNIRS)は、頭皮から近赤外光を照射し、脳活動に伴って変わる酸素化ヘモグロビンなどの血行動態を測る方法だ。

fMRIのような大型磁石の中に体を固定する必要がなく、比較的自然な姿勢で課題をできるため、乳幼児研究で大きな利点がある。一方で、空間分解能はMRIほど高くなく、頭皮血流など脳外の生理信号が測定値に混ざる可能性もある。今回の論文もこの点を限界として明記し、前頭部に測定を限定し、信号分離と品質管理を行ったとしている。[3]

研究では16チャンネルで、左右の背外側前頭前野(DLPFC)と吻側外側前頭前野(RLPFC)をカバーした。課題中に酸素化ヘモグロビンがどう変化するかを測り、年齢、課題段階、左右差、背側・吻側の違いを解析した。[3]

日本の幼児脳研究には17年前の前史がある

森口教授と東京大学の平木和夫教授は2009年、3歳児、5歳児、成人にDCCSを行ってもらいながら近赤外分光法で前頭前野を測定し、ルール切り替えに成功する幼児では前頭前野の活動が高まることをPNASで報告した。3歳児はpost-switchで失敗しやすく、5歳児と成人はほぼ正しく切り替えた。[5]

2011年には同じ研究系統で縦断的な変化も調べられ、その後、京都大学では幼児期の外側前頭前野と遺伝・環境要因の関係が継続して研究されてきた。2018年には森口教授らが、ドーパミンの調整に関わるCOMT遺伝子の多型と、3〜6歳児の実行機能および外側前頭前野活動との関連を報告している。[6]

今回の研究は、その「前頭前野がどう成熟するか」という問いに、まばたきという簡便な生理指標を重ねた点に新しさがある。

まばたきはどう測ったのか

子どもの顔から100〜150センチほど前にビデオカメラを置き、30フレーム/秒でDCCS中の約6分間を撮影した。二人の訓練された評価者が独立にまばたきを数え、その平均から1分あたりの自発性瞬目率を算出した。評価者間の一致度は高く、相関係数とICCはいずれも0.93だった。無作為に選んだ20%を第三の評価者が確認した場合も高い一致を示した。[3]

ここでいう「自発性瞬目」は、目に風を当てるなどして起こす反射性のまばたきではなく、日常的に無意識に起こる瞬きだ。論文が引用する過去研究では、新生児の自発性瞬目は1分0〜5回程度と少なく、発達とともに増え、成人では20〜30回/分程度に達するとされる。今回のデータでも4歳未満では全体に低く、年長児になるほど個人差が広がり、一部では20回/分を超えた。[3]

結果1:年齢が高いほど、切り替えが上手だった

まず、年齢と切り替え成績の間には強い正の関連があった。Spearmanの順位相関はρ=0.68。これはDCCSで以前から知られている発達パターンと一致する。[3]

自発性瞬目率も年齢とともに増える傾向があり、年齢との相関はρ=0.29だった。重要なのは、年齢が高い子ほど「切り替えも上手で、瞬きも多い」というだけでは説明し切れなかった点だ。

瞬目率と切り替え成績の相関はρ=0.35。さらに年齢の影響を統計的に調整しても関連は残り、偏相関はρ=0.22だった。効果は大きいとは言えないが、「年齢の代用品として瞬きを見ているだけ」ではない可能性を示す結果だった。[3]

研究の面白さは「瞬きが増える」ことではなく、同じ年齢帯の中でも、まばたきの個人差がルール切り替えの個人差とわずかながら結びついていたことにある。

結果2:脳全体ではなく「右・背側」へ活動が絞られていく

fNIRSでは、post-switchとmixの段階でpre-switchより前頭前野活動が高まった。全体としては左より右、吻側より背外側の活動が大きかった。[3]

さらに年齢が高くなるほど、活動は左側や吻側で低くなり、右側・背側で高くなる傾向を示した。研究チームはこれを、幼い脳が広い領域を使う状態から、課題に必要な領域をより選択的に使う「機能的分化」の一端と解釈している。[1] [3]

発達神経科学では、子どもの成長とともに脳活動が「広く拡散した状態から、より焦点化された状態へ」変化するという考え方がある。今回の結果は、幼児期の実行機能でもその変化がすでに見え始める可能性を示す。

結果3:まばたきと結びついたのは右背外側前頭前野だけだった

研究チームは、左右のDLPFCとRLPFCの4領域について、瞬目率と切り替え成績との関係を個別に検討した。

多重比較を補正した解析で、瞬目率と有意に関連したのは右背外側前頭前野(rDLPFC)のみで、相関はρ=0.27だった。切り替え成績とrDLPFC活動の相関はρ=0.32。ほかの三領域では、補正後の基準を満たす関連は確認されなかった。[3]

年齢を調整した解析でも、rDLPFC活動と瞬目率、rDLPFC活動と切り替え成績の正の関係は残った。つまり「年長だから脳活動が違い、年長だから瞬きも多い」という一本の説明だけでは片づけにくい三者関係が見えた。[3]

ただしこれは相関研究であり、rDLPFCの活動が瞬きを増やすとも、瞬きがrDLPFCを発達させるとも証明していない。論文の媒介分析も探索的で、著者ら自身が因果関係の検証にはさらなる研究が必要だとしている。[3]

「瞬き=ドーパミン」は言い過ぎ

自発性瞬目率は長年、脳内ドーパミン機能との関係から研究されてきた。動物実験、薬理研究、パーキンソン病などの臨床研究では、ドーパミン系と瞬目率の関連を示す結果がある。2016年のレビューも、認知的柔軟性などドーパミンと関係する課題との関連を整理している。[7]

しかし、現在の研究水準では「1分間の瞬き数を測れば、その人のドーパミン量が分かる」とは言えない。今回の論文自身がそこを強く警戒している。まばたきには脳幹や複数の皮質下構造が関わり、ドーパミンだけでなくアセチルコリン、ノルアドレナリンなど覚醒に関係する複数の神経伝達系の影響を受ける可能性がある。ドーパミン受容体との関係についても、健康な成人では明確な相関が再現されなかった研究がある。[3]

瞬目率は「簡易ドーパミン検査」ではない。研究者は、ドーパミンを「一つの寄与要因」と位置付けている。まばたきから特定の神経伝達物質の量を逆算することはできない。

保育園で数えれば、発達検査になるのか

今回の研究の魅力は、まばたきが特殊な装置なしでもビデオから数えられることにある。著者らは、将来的には家庭、保育所、幼稚園、学校などでの大規模な発達研究や、AIによる自動検出との組み合わせに可能性があると論じている。[3]

しかし、現段階で保護者や保育者が子どもの瞬きを数えて「実行機能が高い・低い」と判定するのは適切ではない。

まだ「発達判定」に使えない理由
  • 瞬目率と切り替え成績の関連は統計的な傾向で、個人を正確に分類する検査精度は示されていない。
  • 正常・異常を分けるカットオフ値は設定されていない。
  • 研究は大阪・京都の二つの園を中心とした113人で、社会経済的背景や人種・民族などの情報は収集していない。
  • 実行機能はDCCS一つで評価しており、他の抑制課題、ワーキングメモリ課題などで同じ関係が出るかは未確認。
  • 一時点で年齢の異なる子を比べた研究であり、同じ子どもの瞬目率と脳活動が何年もかけてどう変わるかは直接追っていない。
  • 研究は正式な事前登録をしておらず、著者らも独立標本と縦断研究による検証を求めている。

fNIRSにも「見えるもの」と「見えないもの」がある

今回のfNIRSは前頭部の血行動態を測れるが、脳全体を同時に見ているわけではない。論文では測定領域が外側前頭前野に限られており、線条体や中脳など、ドーパミン系で重要な深部構造を直接測定していない。[3]

またfNIRSで見える酸素化ヘモグロビン変化には、神経活動だけでなく皮膚や頭皮の血流など全身性・脳外性の生理変化が影響する可能性がある。研究チームは信号分離法や品質管理で影響を減らしたが、測定原理上の限界そのものが消えるわけではない。[3]

頭囲も個々には測定しておらず、固定したプローブ配置が年齢によってわずかに異なる脳部位を捉える可能性がある。ただし著者らは、日本人幼児の3〜6歳の頭囲増加は約2センチ程度で、解析領域の幅に比べれば位置ずれの影響は小さいと見積もっている。[3]

それでも、まばたきが面白い理由

幼児の脳を研究する最大の難しさは、研究対象が「子ども」であることそのものだ。長時間じっとしてもらう、騒音のあるMRI装置に入ってもらう、電極やセンサーを何本も付けてもらう――大人には可能でも、小さな子どもには難しい。

まばたきは、ほぼ何もしなくても観察できる。その極端な測りやすさと、前頭前野の機能的分化との関連が再現されれば、幼児脳研究の入口を広げる可能性がある。

実際、桑水助教は今回の研究に関連する「幼児期における自発性瞬目率、前頭前野の機能的分化、実行機能の発達的連関」を2026年8月のMotor Control研究会で発表し、若手奨励賞を受賞した。[9]

次に必要なのは「同じ子を追う」研究

次の大きな課題は縦断研究だ。同じ子どもを3歳、4歳、5歳、6歳と追い、瞬目率の増加と前頭前野の機能分化、課題成績の変化が本当に同期するのかを確かめる必要がある。

DCCS以外の実行機能課題でも同じ関係が見えるか、異なる文化・生活環境の子どもでも成り立つか、睡眠、疲労、画面視聴、眼表面の状態、覚醒度などが測定値にどの程度影響するかも重要になる。

今回の結果が示したのは、まばたきが「答え」だということではない。これまで測りにくかった幼児の脳発達へ、日常的な身体反応からアクセスできるかもしれないという、新しい問いである。

子どもが一度まばたきをする。その一瞬だけでは何も診断できない。しかし113人の瞬きを集め、前頭前野と行動を同時に測ると、幼児期の脳が「広く働く」状態から「必要な場所を選んで働く」状態へ変わっていく、その一端が見えてきた。