霞が関の予算編成では、未来を一つの数字に仮置きする瞬間がある。来年度に国債を発行し、過去の国債を借り換える時、金利はいくらになるのか。2026年8月21日、財務省が2027年度の概算要求で使う想定金利を3.8%とする方向で検討していると報じられた。2026年度当初予算の3.0%から0.8ポイントの上昇で、29年ぶりの高水準になる。
小さな活字で書かれる前提が注目を集めたのは、市場が先に動いていたからだ。10年物国債利回りは8月18日に2.945%へ上昇し、1996年以来の高さを記録した。2年前と比べれば3倍を超える。日本銀行は6月に短期政策金利を1.0%へ引き上げ、7月末には据え置いた。7月の全国消費者物価は、生鮮食品を除く指数で前年同月比1.8%、生鮮食品とエネルギーを除く指数で1.9%だった。ゼロ金利を前提に動いてきた国債市場が、インフレと金融政策のある世界へ価格を付け直している。
3.8%は、何の金利なのか
国債のニュースには、似て見えて役割の違う金利が並ぶ。日本銀行が操作するのは、ごく短い期間の無担保コール翌日物金利で、現在の誘導目標は1.0%。市場で日々動く10年物利回りは、10年間資金を貸す投資家が求める価格である。既に発行された一般国債の平均金利は、2025年度末で0.98%。そして3.8%は、財務省が翌年度の国債費を予算上見積もるために置く前提だ。
| 数字 | 何を表すか | 読み方 |
|---|---|---|
| 3.8% | 2027年度概算要求の国債費に使うことが検討されている想定金利 | 予算上のストレスを吸収する計算前提。政府債務全体の実効金利ではない。 |
| 2.945% | 10年物国債の8月18日の市場利回り | 特定年限の一時点の価格。新発債や同年限の評価に影響する。 |
| 1.0% | 日銀の無担保コール翌日物金利の誘導目標 | 金融政策の短期金利。10年・30年金利を同じ数字に固定するものではない。 |
| 0.98% | 2025年度末の一般国債の平均金利 | 低金利期に発行した既発債を含むストックの平均。上昇は借り換えとともに遅れて進む。 |
概算要求は予算の完成品ではない。各省庁が8月末に要求を出し、財務省が査定し、政府案を年末にまとめ、国会が審議する。その間に市場金利が動けば、最終予算の前提や計上額も変わり得る。3.8%という数字の意味は「来年必ず3.8%を払う」という予言ではなく、「以前より大きな金利変動を吸収できる幅を予算に持たせる」ことにある。
3.8%は破綻までの秒読みではない。だが、「金利はほぼ無料」という前提が予算から消えたことを告げる標識である。
国債には、時間のカプセルが埋め込まれている
国債のコストは、蛇口のように一度に切り替わらない。財務省の2026年版債務管理リポートによれば、2025年度末の一般国債の平均残存年限は9年5か月だった。長い満期は、金利上昇が全債務へ一気に波及するのを防ぐ防波堤になる。ゼロ近辺で発行した10年債は、満期までその利率を保つ。
しかし防波堤は永遠ではない。国は毎年、満期を迎える国債を償還し、多くを借換債でつなぐ。2027年度に満期を迎える国債の償還予定額は約157.96兆円、2028年度は約109.51兆円。すべてが新たな財政赤字になるわけではなく、元本の多くは借り換えられる。だが、0%台で発行された債券が2%台、3%台の債券へ置き換わるたび、平均金利はゆっくり上がる。
この遅れが、日本の財政議論を難しくする。今日の市場金利が明日の請求書に全額出るわけではないため、危機感は薄く見える。反対に、金利が下がっても高い利率の債券が残れば、節約効果もすぐには出ない。国債費は断崖ではなく、長いベルトコンベヤーで予算へ運ばれてくる。
31兆円の中身――利子と元本を分ける
2026年度当初予算で計上された国債費は31兆2,758億円。内訳は、利子・割引料が13兆371億円、債務償還費が18兆2,086億円、事務取扱費が300億円である。指定の為替レート1ドル=159.02円なら、国債費全体は約1,967億ドル、利子・割引料は約820億ドルに相当する。
ここで「償還」が18兆円しかないのに、翌年度の満期額が150兆円を超えるのは矛盾ではない。日本では建設国債と特例国債について、借換債を含め60年間で現金償還するという慣行がある。一般会計から国債整理基金へ一定額を繰り入れながら、満期を迎えた元本の多くを借換債で再調達する。予算上の債務償還費と、市場で満期になる債券の額は、別の時計で動いている。
この仕組みは、元本を一年度に集中させない。一方で、借り換え続ける部分にはその時々の市場金利が適用される。金利上昇が怖いのは、国が明日全額を返すからではない。毎年大量の債券を市場へ出し、投資家に新しい価格で買ってもらう必要があるからだ。
1965年から始まった、戦後の国債史
戦後日本の財政は、最初から国債依存だったわけではない。財政法4条は、公共事業などの例外を除き、歳出を公債で賄わない原則を置いた。戦時中の債務とインフレの記憶が、新しい制度の背後にあった。転機は1965年度。不況と税収不足のなか、補正予算で戦後初の建設国債が発行された。
1975年度、第一次石油危機後の景気後退と税収減に直面すると、公共事業以外の不足を埋める特例国債が発行された。特例国債は本来、その都度の特別法で認める例外だった。だが、景気対策、社会保障、高齢化、災害、金融危機が重なるにつれ、例外は財政運営の日常へ近づいた。
1980年代後半のバブル期、税収増によって特例国債から一時離れることはできた。しかし1990年代初めに株価と地価が崩れ、企業と銀行が債務を減らす「バランスシート調整」へ入ると、民間需要の穴を政府支出が埋めた。景気対策と減税、金融機関処理の費用が債務を押し上げた。1997年の消費税率引き上げと歳出抑制の直後には、アジア通貨危機と国内金融不安が重なり、再び財政出動が求められた。
1965年度 — 景気後退と税収不足を受け、戦後初の建設国債を発行。
1975年度 — 石油危機後、一般経費の不足を埋める特例国債を発行。
1990年代 — バブル崩壊、景気対策、金融システム不安で国債残高が増加。
2001年 — 日銀が量的緩和を開始。短期金利のゼロ制約へ対応。
2013年 — 量的・質的金融緩和。日銀の国債買い入れが大幅に拡大。
2016年 — マイナス金利、続いて長短金利操作を導入。10年金利をゼロ近辺に誘導。
2020年 — 新型コロナ対応で国債発行が急増。
2024年3月 — 日銀がマイナス金利と長短金利操作の枠組みを終了。
2026年6月 — 日銀が短期政策金利を1.0%へ引き上げ。
2026年8月 — 10年債利回り2.945%、翌年度予算要求の想定金利3.8%が焦点に。
ゼロ金利時代の取引
2000年代以降の日本には、奇妙な組み合わせが定着した。債務残高は増えるのに、平均金利は下がる。政府はより多く借りても、利払いの伸びを抑えられた。2013年からの日銀の大規模緩和、2016年からのマイナス金利と長短金利操作は、10年金利を長くゼロ近辺に保った。日銀は国債の最大保有者となり、市場の価格形成そのものに大きな影響を与えた。
それは単なる「政府への安い融資」ではなかった。デフレ心理を変え、投資と雇用を支え、2%の物価安定目標を実現するための金融政策だった。同時に、銀行の利ざやを圧迫し、保険会社や年金基金が長期運用で利回りを得にくくし、国債市場の流動性を薄くする副作用も生んだ。財政にとっては、将来の金利上昇に対する感度が見えにくくなる期間でもあった。
2024年3月、日銀はマイナス金利と長短金利操作が役割を果たしたとして、短期金利を主な政策手段とする枠組みへ戻った。国債買い入れも段階的に減らしている。これまで中央銀行が強力に抑えていた長期金利は、インフレ見通し、国債供給、財政政策、投資家需要を以前より直接に映すようになった。
ゼロ金利は債務を消したのではない。巨大な残高を、非常に低い値札で長く保管した。その値札が今、満期ごとに貼り替えられている。
誰が国債を持つのか――「日本はギリシャではない」の先へ
日本国債の多くは円建てで、日銀、国内銀行、生命保険会社、年金基金など国内部門が大きく保有する。外貨建てで借り、返済通貨を自ら発行できない国とは条件が違う。日銀は円の流動性を供給でき、政府は広い徴税基盤を持つ。そのため、日本の問題を家計の破産や新興国型の外貨危機と同じ比喩で説明するのは正確でない。
しかし「国内で持っているから安全」という一文で終えるのも危険だ。国債の利払いは、税収から銀行、保険、年金、家計へ移る所得である。受け取る側には収益でも、予算には固定費だ。日銀が国債を持てば利子収入の多くは最終的に国庫納付金へ戻り得るが、政策金利が上がると日銀は金融機関の当座預金へ支払う利息も増やす。政府と中央銀行を一つにまとめても、コストが消えるわけではなく、形が変わる。
また、通貨を発行できることは実物資源を無限に生まない。財政への信認が弱まり、中央銀行が物価より国債費を優先すると見られれば、円安と輸入物価上昇を通じて家計が負担する可能性がある。逆に、金融正常化への信頼が高ければ金利上昇が円を支える場合もある。危機の経路は「突然返せなくなる」だけではなく、物価、為替、税負担、金融機関の評価損、将来の政策余地に現れる。
金利3%の市場が突きつけるもの
2026年の利回り上昇には、複数の材料が重なった。エネルギーと輸入コスト、弱い円、賃金からサービス価格への波及をめぐるインフレ警戒。日銀が追加利上げへ進むとの観測。大規模買い入れ縮小後の需給。そして、拡張的な財政政策が国債供給を増やすのではないかという市場の懸念である。
10年金利2.945%は、ただの財務省の痛みではない。銀行には貸出金利と運用収益を改善する機会となる一方、保有国債の価格下落をもたらす。生命保険会社や年金には、将来の負債に見合う円金利資産を久しぶりに高い利回りで買える好機となる。住宅ローン、企業の社債、自治体の借入コストにも波及する。海外債券との金利差が縮まれば、日本の投資家が資金を国内へ戻し、米国債など世界の市場にも影響し得る。
重要なのは、利回り上昇を一方向の悪材料として扱わないことだ。金利は資本の価格であり、貯蓄者への収益であり、リスクを測る信号でもある。問題は「金利があること」ではなく、成長率と税収が金利上昇に追いつかないほど債務が大きいこと、そして政策がその差をどう管理するかにある。
予算の選択が見えるようになる
利払いが増えると、その分だけ毎年の新しい政策に使える余地は狭くなる。高齢化に伴う社会保障、少子化対策、防衛、災害への備え、地域インフラ、科学技術、脱炭素。どれも先送りしにくい。国債費は過去の政策判断の請求書であり、現在の政権が自由に優先順位を変えられない部分を増やす。
2026年度の利子・割引料13.04兆円は、前年度当初予算から約2.51兆円増えた。これは単年度の予想にすぎないが、方向は明確だ。平均金利が上がるにつれ、税収が伸びても、その一部は新しいサービスではなく既存債務の維持へ向かう。財政健全化は抽象的な「次世代への責任」だけではなく、いまの予算で何を選べるかという仕事と生活の問題になる。
- 穏やかな正常化:賃金、物価、生産性がほどよく伸び、名目成長率が債務の平均金利を上回る。税収増が利払い増を吸収する。
- 長い圧迫:成長は弱いまま借換金利だけが上昇。急変はなくても、国債費が毎年ほかの予算を押しのける。
- 信認の悪循環:財源の裏付けが乏しい支出拡大で投資家が高い上乗せ金利を要求し、利払い増がさらに財政不安を強める。
この三つは予測ではなく、財政を見る枠組みである。鍵は、経済の名目成長率、債務ストックの実効金利、基礎的財政収支、国債の平均年限、投資家の需要だ。歳出削減か増税かという二択だけでもない。生産性を高める支出、成長を損ねにくい安定財源、長期債を組み合わせた借換リスク管理、透明な中期財政計画を同時に評価する必要がある。
3.8%が残す、本当の問い
日本の国債史は、失敗だけの物語ではない。1990年代の民間債務調整、金融危機、東日本大震災、感染症危機のなかで、国債は需要と雇用、復旧と医療を支えた。低金利は、その時間を政府が安く買うことを可能にした。一方、その成功は「低金利が続く間に何を変えたか」という問いも残す。
人口が減り、高齢化が進む国で、債務を一気に返す現実的な道はない。必要なのは、債務比率を時間をかけて安定させることだ。名目GDPを育て、恒常的な歳出には恒常的な財源を当て、景気後退や災害時には財政が動ける余白を残す。そして中央銀行に国債価格を守る役割を負わせず、物価安定に集中できる関係を保つ。
3.8%という想定は、まだ概算要求の数字である。実際の市場金利も、最終的な予算も変わる。それでも、この数字が歴史的なのは、日本が明日資金を失うからではない。借金の量が長年あまりに大きくなり、その値段が再びゼロではなくなったからだ。
長い低金利時代、国債費は静かな背景音だった。これからは、予算を決める主旋律の一つになる。
- Reuters — Japan weighs 3.8% assumed rate for next year's budget request (2026年8月21日)
- Reuters — Japan bond yields near 3% as inflation and fiscal worries mount (2026年8月19日)
- Reuters — Japan's core inflation accelerates in July (2026年8月21日)
- 財務省 — 国債及び借入金並びに政府保証債務現在高(2026年3月末)
- 財務省 — Debt Management Report 2026
- 財務省 — Debt Management Report 2026 補足資料(残高、平均年限、国債費、償還予定)
- 日本銀行 — 2026年6月16日「Change in the Guideline for Money Market Operations」
- 日本銀行 — 2026年7月31日 金融市場調節方針
- 日本銀行 — 2024年3月金融政策決定会合議事要旨
- 日本銀行 — 金融市場調節方針の変遷(量的緩和、マイナス金利、長短金利操作)
- 財務省 — 債務管理制度と60年償還ルール
編集注:本稿は2026年8月21日までに公表された報道、財務省資料、日本銀行資料を基にした。3.8%は報道時点で検討中の2027年度概算要求用の想定金利であり、確定した政策金利、10年国債利回り、政府債務全体の平均金利ではない。債務額は範囲と時点により異なるため、本稿では2026年3月末の中央政府の「国債・借入金・政府短期証券」合計を明記して使用した。ドル換算は表示欄の1米ドル=159.02円による概算。為替の指定時刻2026年8月21日午後7時01分UTCは、日本時間の2026年8月22日午前4時01分へ換算した。将来シナリオは予測ではなく分析枠組みである。
