輸出が伸びても、貿易赤字は膨らむ。2026年8月の貿易統計は、日本が海外で売る力と、海外から買うために必要なお金を、分けて考える必要を示した。
財務省が9月16日に発表した速報によると、輸出額は前年同月比19.3%増の10兆484億円、輸入額は28.0%増の11兆1,540億円だった。差し引き1兆1,056億円の赤字。半導体関連や自動車が輸出を押し上げた一方、輸入代金の増加はそれを上回った。金額は億円単位に四捨五入している。[1]
ただ、輸出の19.3%増を、そのまま工場から送り出す製品の量が2割近く増えたと読むことはできない。輸出数量指数の伸びは2.5%だった。輸入も、金額の28.0%増に対して数量指数は2.7%増にとどまる。今月の統計を読み解く鍵は、この金額と数量の隔たりにある。[1]
輸出の増加分を上回った、輸入代金の増加
赤字が拡大した理由は、増減額を並べると分かりやすい。前年同月から輸出が約1.63兆円増える一方、輸入は約2.44兆円増えた。その差、約0.81兆円が収支を悪化させた。輸出が減って赤字になったのではなく、輸出の伸びだけでは輸入代金の増加を補えなかったのである。以下は公表された百万円単位の数値からの編集部計算だ。[2]
| 項目 | 2025年8月 | 2026年8月 | 増減額 |
|---|---|---|---|
| 輸出 | 8.420 | 10.048 | +1.628 |
| 輸入 | 8.714 | 11.154 | +2.440 |
| 収支 | −0.294 | −1.106 | −0.812 |
赤字という言葉だけでは、この違いは見えにくい。国内需要が弱って輸入が減った結果の黒字と、海外での販売が増えた結果の黒字は、経済にとって同じ意味ではない。同様に、輸入が増えた理由も、燃料が高くなったのか、生産に使う部品や設備を多く買ったのかで異なる。まず輸出入の内訳を見る必要がある。
半導体は、製品と製造装置の両方で存在感
輸出増への寄与が目立ったのは、半導体等電子部品、自動車、半導体等製造装置だ。表の「寄与度」は、その品目が輸出または輸入全体の増加率を何ポイント押し上げたかを示す。品目そのものの増加率とは別の指標である。[1]
| 概況品 | 金額の増加率 | 全体への寄与度(ポイント) |
|---|---|---|
| 輸出:半導体等電子部品 | +52.3% | +3.6 |
| 輸出:自動車 | +16.5% | +2.3 |
| 輸出:半導体等製造装置 | +40.1% | +1.7 |
| 輸入:原油及び粗油 | +58.7% | +5.1 |
| 輸入:半導体等電子部品 | +82.1% | +3.1 |
| 輸入:電算機類(含周辺機器) | +54.2% | +1.9 |
この三つの輸出品目は同じものを指していない。電子部品は製品や機器に組み込まれ、製造装置は半導体をつくる工程を支える。両方の輸出が伸びている点は、日本の供給網への関わりを考える手掛かりになる。ただし、この統計だけでは、それぞれの受注が人工知能(AI)向けなのか、他の用途なのかは確定できない。半導体関連の増加をすべてAI需要と断定するのは行き過ぎだ。
自動車にも、金額と数量の違いが表れる。輸出額は16.5%増だったが、台数は44万9,226台で6.3%増だった。車種構成や価格、為替の影響が金額に重なるため、輸出額の伸び率をそのまま増産率とは呼べない。自動車部品の輸出額は0.5%減で、関連産業すべてが同じ勢いで伸びたわけでもない。[2]
輸出額の増加は企業の売上を支え得る一方、利益の増加を保証しない。原材料費や物流費、海外での販売費用が増えれば、売上が増えても採算が改善しない場合がある。通関実績は、企業の損益計算書の代わりにはならない。
燃料は「多く買った」だけでは説明できない
輸入側では、鉱物性燃料の金額が38.4%増え、輸入全体の伸びを7.8ポイント押し上げた。なかでも原油及び粗油は金額が58.7%増えたのに対し、数量は3.6%増。液化天然ガス(LNG)は数量が6.8%減ったにもかかわらず、金額は29.7%増えた。燃料を大量に使ったから輸入代金が膨らんだ、とだけ説明することはできない。[2]
例えば、LNGの金額の伸びと数量の減少を組み合わせると、円建ての平均単価が上がったことが分かる。ただし、この平均単価は、国際市場のある一日の価格そのものではない。契約条件、調達先、品目の構成、計上時期、為替などの影響を含む。個別の電力会社やガス会社が、同じ割合で調達費を増やしたとも限らない。
輸入には、生産を支える部品や情報機器もある。半導体等電子部品や電算機類の増加は、単に海外にお金が流出したという見方だけでは捉えきれない。国内の生産や投資につながる可能性がある一方、在庫の積み増しなのか、最終需要の拡大なのかは、この表からは分からない。用途や在庫、生産の統計と合わせて確かめるべき論点だ。
円安の影響と、商品自体の価格を分ける
財務省の概要資料に載る通関時の為替レートの平均値は、8月が1ドル=160.64円で、前年同月比8.7%の円安だった。外貨建ての取引額が同じでも、円に換算した金額は為替で変わる。ただし、すべての取引がドル建てではなく、契約価格や数量も動く。輸入増の28.0%から円安率の8.7%を引いて、残りをそのまま商品価格の上昇率とする計算はできない。[1]
別の統計である日本銀行の輸入物価指数を見ると、8月は円ベースで前年同月比24.8%上昇した一方、前月比では3.0%下落している。前年より高いことと、直近では下がっていることは両立する。貿易額、数量指数、輸入物価指数は、それぞれ測る対象や方法が異なり、無造作に割り算して一つの説明にまとめるべきではない。[4]
ページ上部の1ドル=155.80円は編集部提供の参考値で、更新時刻は9月18日0時27分(日本時間)。8月の貿易額の換算に一律に使われたレートではない。月間の通関資料と、別の日の為替情報を混同しないことが大切だ。
米国向けが伸びても、対米黒字は縮む
地域別にも、輸出だけを見ていては分からない動きがある。米国向け輸出は24.9%増だったが、米国からの輸入は55.2%増え、対米黒字は約704億円に縮小した。中国向け輸出は20.6%増、中国からの輸入は22.5%増で、対中収支は約5,516億円の赤字だった。[2]
二国間の収支は、日本企業がその国で得た利益や、企業グループ全体の競争力を直接示す数字ではない。第三国で加工された部品が別の国へ運ばれることも、現地工場でつくって現地で売ることもある。国境を越えた貨物の動きと、企業の国籍を同じものとして考えない視点が必要になる。
プラザ合意以降、国境を越えるものが変わった
日本の輸出を、国内工場で完成品をつくり、海外に送り出す姿だけで捉えると、現在の経済を見誤る。国際協力銀行の歴史資料は、1985年のプラザ合意後の急速な円高と、企業の海外直接投資の拡大を振り返っている。海外に生産拠点を持つようになれば、企業の海外事業が拡大しても、その売上がすべて日本からの輸出になるわけではない。[5]
例えば、日本企業の海外工場が現地でつくり、現地で販売した製品は、日本の国境を越えていない。一方、日本からその工場へ送る部品や機械は輸出になり得る。この違いを踏まえると、完成品だけでなく、部材や製造装置に注目する意味が分かる。企業の海外展開と国内の貿易額は、関係していても同じ数字ではない。
もう一つの教訓は2022年にある。確定値では輸出額が前年比18.2%増えたにもかかわらず、輸入額は39.6%増え、年間の貿易赤字は約20.33兆円となった。輸出の名目額が大きく伸びても、輸入代金の増加がそれを上回れば収支は悪化する。2026年8月を2022年と同じ状況だと断定することはできないが、輸出額の伸びだけで景気や負担を判断できない点は共通する。[6]
貿易赤字は、経常赤字や国内総生産の減少と同義ではない
貿易統計の輸出は本船渡し価格(FOB)、輸入は保険料・運賃込み価格(CIF)で計上される。したがって、差額には両者の評価方法の違いも含まれる。速報はその後に修正され得るため、前年比較では、どの公表時点の数字を使うかもそろえる必要がある。[3]
また、経常収支には、国際収支統計の貿易・サービス収支に加え、利子や配当などの第一次所得収支、無償の資金移転などを含む第二次所得収支が入る。今回の通関ベースの貿易赤字だけで、日本全体の経常収支が赤字だとは言えない。訪日旅行や海外投資からの所得まで判断するには、別の統計が必要になる。[7]
国際収支統計は居住者と非居住者の取引を捉え、通関統計とは範囲や計上方法が異なる。国内総生産(GDP)への外需の寄与を論じる際も、サービスや価格変動を考慮した実質ベースの輸出入を見る必要があり、円建ての通関赤字をそのままGDPの減少額とすることはできない。[8]
次に見るべきは、値上がりの先に残る数量
8月の季節調整済み輸出額は前月比0.3%増、輸入額は1.7%増で、収支は8,406億円の赤字だった。年ごとに繰り返す季節的な動きを調整した系列でも、輸入の伸びが輸出を上回る。ただし、これは前月との比較であり、先に見た前年同月比の原数値とは区別する必要がある。[1]
今後確かめたいのは、輸出数量の増加が続くか、半導体関連の強さが他の業種にも広がるか、燃料の輸入単価が落ち着くかという点だ。企業の受注や生産、在庫と照らせば、今回の増加が持続的な需要によるものか、一時的な出荷時期の偏りなのかを判断しやすくなる。
家計にとっても、貿易収支の符号より、輸入コストがどのように生活費へ届くかが重要になる。企業が在庫や契約を通じて費用を吸収することもあれば、販売価格へ反映することもある。通関段階の輸入代金の増加率が、そのまま翌月の物価上昇率になるわけではない。
8月の統計が示したのは、海外で稼ぐ力が失われたという単純な物語ではない。輸出の増加と、輸入に必要な資金の膨張が同時に起きている。その間にある数量、単価、産業の違いを読むことが、日本経済の実情に近づく道になる。
- 財務省「令和8年8月分貿易統計(速報)の概要」2026年9月16日
- 財務省「令和8年8月分貿易統計(速報)」総額・地域別・概況品別表
- 財務省貿易統計「よくある質問」
- 日本銀行「企業物価指数(2026年8月速報)」2026年9月11日
- 国際協力銀行「激化する経済摩擦、輸銀機能を拡大。プラザ合意の形成からバブル経済への道」
- 財務省「令和4年分貿易統計(確定)」2023年11月14日
- 財務省「国際収支状況・用語の解説」
- 日本銀行「国際収支関連統計(IMF国際収支マニュアル第6版ベース)の解説」
増減額の比較は公表値に基づくJapan.co.jpの計算。本文の解釈は編集部分析。8月は速報値、2022年は確定値。掲載参考為替は編集部提供。
