2026年10月3日 土曜日 · JST | English | 1米ドル = 157.80円 為替更新: 2026年10月2日 01:51 JST · Japan.co.jp

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10月3日版 | 科学・技術
山道を走る研究車両と路側無線設備を描いた編集用イラスト
AI生成の編集用イラスト。川端玉章に着想を得た表現で、走行車両と路側インフラの高速無線通信を象徴的に描いた。実験地点や装置配置を再現したものではない。
科学・技術
6G · 60GHz · V2X · ISAC · 自動運転

走る車から10.3Gbit/s――京都大学が示した「通信する電波で位置も測る」6Gへの一歩

60GHz帯、1,840MHz幅、時速約18km。京都大学の研究グループは、実道路を走る車両から10Gbit/s超の上り通信と、速度・位置推定を同じ電波で同時に実証した。

自動運転車が周囲を「見る」ために生み出すデータは、これまでの車載通信とは桁が違う。カメラ映像、LiDARの点群、高精度3次元地図、道路側センサーの情報――それらを車内だけで処理するのではなく、路側インフラやクラウドへ送り、同時に車両自身の位置まで把握できれば、交差点の死角や見通しの悪い都市道路で安全性を高められる可能性がある。

京都大学大学院情報学研究科の原田博司教授、香田優介准教授、遠藤浩明博士後期課程学生らは2026年10月1日、60GHz帯でその構想の基礎実証に成功したと発表した。実際に走行する車両から、最大10.3Gbit/sの上り無線伝送を行い、その同じ通信信号から車両速度と位置を推定した。使用帯域幅は1,840MHz。日本の現行5Gで使われる最大400MHzチャネルの約5倍である。[1]

10.3Gbit/s64QAM・MCS17で確認した最大上り伝送速度
約150m10.3Gbit/sで通信可能と確認した交差点中心からの範囲
約3m通信信号から推定した車両位置の平均誤差

「10ギガ」だけが成果ではない

見出しだけなら、通信速度の記録に見える。しかし今回の核心は、同じ60GHz帯の通信電波を「通信」と「測位」に二重利用した点にある。研究チームは受信した通信信号のドップラー周波数から車両速度を推定し、その速度を基準位置から積算して車両位置を算出した。速度誤差は最大およそ5km/h、位置の平均誤差は約3mだった。[2]

この考え方はISAC(Integrated Sensing and Communications、通信とセンシングの融合)と呼ばれる。通信基地局がデータを運ぶだけでなく、電波の反射や周波数変化、到来時間などを使って位置や動きを知る。6Gで重要になるとされる技術領域の一つだ。

これまで「通信する装置」と「測る装置」は別々だった。ISACが目指すのは、同じ周波数、同じ波形、同じ設備から両方の価値を取り出すことだ。

実道路で、車は約18km/h

実験は交差点から直線状に約330m延びる実道路で行われた。送信機を搭載した車両は約18km/hで走行。送信アンテナ高は1.5m、受信機は道路と交差点を見通せる建物内の高さ約5.8mに設置した。送受信には利得25dBiの標準利得ホーンアンテナを使用した。[2]

興味深いのは、受信アンテナのビームが走る車を追尾していなかったことだ。受信ビームは交差点中心から約100m離れた道路上の一点へ固定されたまま。送信アンテナは水平面内で交差点方向を向くよう設定したが、基地局側が車両を電子的に追い続ける高度なビーム追従を前提としていない。

評価では、5G信号のBLER(Block Error Rate、ブロック誤り率)が0.1以下になることを「通信可能」の条件とした。QPSKを用いるMCS7では3.4Gbit/sで約250mまで通信でき、64QAMを使うMCS17では10.3Gbit/sを約150mまで維持した。[2]

なぜ1,840MHzも使うのか

無線通信で高速化するもっとも基本的な方法の一つは、広い周波数帯域を使うことだ。道路でいえば、車線を増やすほど同時に運べる量が増える。現行の国内5Gで割り当てられている最大チャネル帯域幅は400MHzだが、今回の装置はその約5倍、1,840MHzを使った。

研究グループが選んだ60GHz帯は、5Gで利用が想定された57~71GHzのn263帯域に含まれる。ここではチャネル当たり2GHz級の広帯域利用が可能で、10Gbit/s級の高速通信を狙いやすい。研究チームは5GのOFDMA(直交周波数多元接続)を基礎に、サブキャリア間隔を現行5Gの最大120kHzから960kHzへ広げ、1,840MHzの信号を生成した。[2]

これは「既存のスマートフォン5Gをそのまま8倍速くした」という意味ではない。広い周波数、異なるサブキャリア間隔、専用のソフトウェア無線試験装置を用いた研究実験であり、商用ネットワークの速度を示すものでもない。

技術上の注意: 最大10.3Gbit/sは64QAM・MCS17、1,840MHz帯域幅の実験条件で得られた物理伝送レート。一般利用者のアプリケーション実効速度、複数車両が共有するセル容量、商用サービス速度とは同義ではない。

60GHzの長所と弱点

周波数が高い60GHz帯には大きな帯域を確保しやすい利点がある一方、伝搬損失が大きく、建物や車、人、植栽などの遮蔽の影響を受けやすい。低い周波数のように遠くまで回り込むことも苦手だ。そのため、基地局を高密度に置く、鋭いビームを向ける、複数経路を使う、といった工夫が重要になる。

車両通信ではさらに難題が増える。車が動くことでドップラーシフトが生じ、通信路が短時間で変化する。高速で狭いビームを使うほど、接続先が動く影響は大きい。今回の京都大学の装置は、移動環境の超広帯域信号に同期し復調できる信号処理をソフトウェア無線で実装した。[2]

GNSSだけでは足りない場所がある

位置センシングを通信と一体化する理由は、GNSSが万能ではないからだ。衛星測位は空が開けた環境では強力だが、高層ビルが密集する都市部では衛星信号が遮られたり、多重反射したりして精度が悪化することがある。京都大学の発表も、都市環境でGNSS精度が大きく低下し得ることを研究背景として挙げる。[2]

60GHz通信から独立した測位を得られれば、GNSSの代替というより補完手段になる。車両が基地局と通信している限り、道路側が速度や位置の追加情報を持てる可能性がある。将来はGNSS、車載慣性センサー、カメラ、LiDAR、路側設備の情報を重ね合わせることで、単一の測位手段に依存しない冗長性を作れる。

V2Xの歴史――「危険を知らせる通信」から「環境を共有する通信」へ

V2X(Vehicle-to-Everything)の初期の発想は、車両同士や路側機から安全メッセージを交換することだった。車速、進行方向、信号情報、急ブレーキ、工事情報など、小さなデータを低遅延で確実に届けることが主眼だった。日本でも5.9GHz帯のV2X利用が検討され、28GHz帯を含む5Gミリ波の応用研究が続いてきた。[2]

しかし自動運転が進むにつれ、欲しい情報量が変わった。死角の歩行者を路側カメラが検出し、その映像や点群を車に送る。交差点の周辺を複数センサーで3次元化する。高精度地図を更新する。こうした用途では数十バイトの安全メッセージではなく、映像や点群という大容量データを瞬時に運ぶ必要がある。

2026年6月、同じ原田研究室はサブテラヘルツ帯を使い、実走行車両へ300m超の範囲で最大1.7Gbit/sを伝送した。920MHz帯域幅の5G準拠信号を使い、車両を精密追尾しない条件で実証したものだ。今回の60GHz実験は帯域をさらに1,840MHzへ広げ、距離との交換条件を取りながら10Gbit/s級まで速度を引き上げ、同時測位も加えた。[3]

「点群」を道路側へ送る意味

LiDARが生成する点群は、物体の形状や距離を多数の3次元点として表現する。精細にすればするほどデータ量は増える。高解像度カメラを複数搭載すれば、映像だけでも非常に大きなビットレートが必要になる。

すべてをクラウドへ送る必要はない。実際の自動運転車は車内で大量の処理をする。それでも路側センサーと車両が互いの認識を共有できれば、トラックの陰にいる歩行者、曲がり角の先の自転車、別方向から交差点へ入る車など、自車のセンサーだけでは見えない対象を認識できる。

そのため将来のV2Xは「車にインターネットを提供する」だけではなく、「道路全体を一つの共同センサーにする」方向へ進む可能性がある。10Gbit/s級の上り通信は、車両自身が取得した環境データを道路側へ素早く送り返すために意味を持つ。

通信とレーダーを一つにする6Gの発想

ISACは通信インフラの経済性にも関係する。通信基地局とセンシング装置を完全に別々に配備すれば、周波数、アンテナ、電源、設置場所、保守のコストも別々に必要になる。同じ無線信号を使って両方ができれば、装置と周波数利用を共通化できる可能性がある。

3GPPでもISACは次世代標準化の対象になりつつあり、2026年にはRelease 20で5G-AdvancedのISAC課金・システム面を扱う技術検討が進んでいる。まだ「6G商用標準が完成した」という段階ではないが、通信とセンシングの統合は世界的な研究・標準化テーマになっている。[4]

課題は「速度」から「実用条件」へ

今回の実験車両は約18km/hだった。市街地としては現実的だが、高速道路を走る100km/h級の車両ではドップラー変動も接続切り替えもさらに厳しくなる。また、実験では一台の車両と固定された試験設備を用いた。多数の車が同時に走り、トラックやバスが電波を遮り、雨や積雪があり、基地局間を移動する商用環境はもっと複雑だ。

位置精度も平均約3mであり、自動運転の車線レベル制御をこれ単独で担える精度ではない。むしろ「通信装置から追加の測位情報が無料に近い形で得られる」ことが価値だ。今後は他のセンサーとの融合、複数基地局による測位、ビーム追従、より高速な移動、遮蔽物の多い環境での評価が必要になる。

さらに60GHz帯を広域道路インフラとして使うには、周波数制度、基地局配置、電力、バックホール、端末コスト、標準化、サイバーセキュリティーといった工学以外の問題も大きい。

研究はまだ「基本実証」の段階

京都大学自身も今回の成果を「基本実証」と位置付けている。研究の一部は情報通信研究機構(NICT)の委託研究と、総務省の「日米産学連携を通じた5G高度化の国際標準獲得のための無線リンク技術の研究開発」の一環として実施された。成果は11月19~20日の電子情報通信学会・短距離無線通信(SRW)研究会で発表予定とされている。[2]

それでも、実験室内のシミュレーションではなく、実際の道路で走る車から10Gbit/s級の通信を行い、同じ波形から位置まで推定した点は重要だ。6Gを「スマートフォンのダウンロード速度が上がる次世代」と見るだけでは、この成果の意味を見落とす。

6G時代の無線インフラは、情報を運ぶだけでなく、周囲を測り、位置を知り、交通環境そのもののデジタル表現を更新する装置になるかもしれない。京都の道路で走った一台の実験車は、その可能性を10.3Gbit/sという数字以上に具体的に示した。

主な出典

  1. 京都大学「60GHz帯を利用した超広帯域移動通信・センシング融合技術の基本実証に成功」(2026年10月1日)
  2. 京都大学 詳細研究資料(実験条件、伝送距離、測位精度、研究プロジェクト)
  3. 京都大学原田研究室「Successful High-Speed Transmission for Vehicle Communication Systems Using Sub-THz Waves Toward 6G」(2026年6月26日)
  4. 3GPP TR 28.893, Study on 5G-Advanced charging aspects of integrated sensing and communication
  5. 京都大学「V2X環境における無線伝送特性をデジタルツインで評価するワイヤレスエミュレータを開発」(2026年8月26日)