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科学&テクノロジー | EV・道路インフラ
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走行中無線給電道路を走る大型EVトラックを描く水野年方風の編集イラスト
水野年方(Mizuno Toshikata)の明治期木版画に着想を得たAI生成の編集イラスト。Honda、大成建設、大成ロテック、NEXCO東日本の実際の試験車両や設備を再現した写真ではありません。Image: Japan.co.jp.
04 — 科学&テクノロジー
科学&テクノロジー

Honda、走る大型EVへ道路から無線給電 150kW級「電気の道」を高速道路実証へ

本田技術研究所、大成建設、大成ロテックは、走行中のEVへ道路から非接触で電力を送る「磁界結合方式無線給電道路システム」の基盤技術を開発した。大型商用車を想定し、最大150kW級の高出力化、道路埋設部の耐久性、高速走行時の給電信頼性を検証する。2027年度以降には、E14館山自動車道の本線で日本初の高速道路DWPT実証へ進む計画だ。

Bradley L. Bartz | Japan.co.jp | 2026年10月7日 水曜日

電気自動車の弱点を、車ではなく道路側から解こうとする研究が次の段階へ進んだ。

株式会社本田技術研究所は10月5日、大成建設株式会社、大成ロテック株式会社と共同で、走行中のEVに非接触で電力を送る「磁界結合方式無線給電道路システム」の基盤技術を開発したと発表した。乗用車だけでなく大型商用車までを想定し、2027年度以降には高速道路本線での実証へ進む。

確認された事実: Honda、大成建設、大成ロテックは2025年から共同研究を実施。Hondaは地上側給電ユニット(GA)と車両側受電ユニット(VA)を、大成建設は高応答直流電源システムを、大成ロテックは道路への埋設施工技術を担当する。最大150kW級の高出力化、大型商用車荷重に耐える舗装、高速走行時の給電、漏えい磁界対策を検証する。NEXCO東日本の「館山プロジェクト」では、E14館山自動車道・君津PA付近の約300m区間で2027年度以降に複数回の公道実証が予定されている。

道路そのものを「充電器」にする

走行中無線給電(DWPT:Dynamic Wireless Power Transfer)は、路面に埋設した送電設備から、車両の床下に取り付けた受電設備へ磁界を介して電力を送る仕組みだ。車両は停止する必要がなく、走行中に電力を受け取れる。

Hondaの方式では、道路側の給電ユニットをGround Assembly(GA)、車両側の受電ユニットをVehicle Assembly(VA)と呼ぶ。Hondaは85kHz前後の高周波を使う磁界結合方式を研究しており、VAを乗用車のサブフレームにも収まるサイズまで小型化しながら、GA1ユニット当たり最大150kWのピーク出力を目指している。

150kWという数字は、一般的な急速充電器に近い大きさだ。ただし道路では、一台が充電器の前に止まるのではなく、複数のGAを通過しながら断続的に電力を受け取る。道路の一定区間を「連続した充電設備」として機能させる発想である。

150 kWHondaが開発を進めるGA1ユニット当たりの最大ピーク出力
約300 mE14館山自動車道・君津PA付近で予定される実証範囲
2027年度〜NEXCO東日本の館山プロジェクト公道実証予定

最初の本命は大型トラック

Hondaは、この技術をまず物流・運送分野で実用化する方針を示している。理由は明快だ。

大型トラックは、乗用車よりはるかに大きなエネルギーを使う。長距離を走れば巨大なバッテリーが必要になり、そのバッテリー自体が車両重量を増やす。重量が増えれば積載量を圧迫し、タイヤや道路への負荷も増える。さらに、長距離輸送では充電のための停車時間そのものが物流コストになる。

道路から走行中に電力を供給できれば、必要な車載バッテリーを小さくできる可能性がある。Hondaは2021年の「Honda Electric Road System」で、大型トラックを含む車両に道路インフラから走行中給電する構想をすでに公開していた。当時は、50km区間のうち大型車では15kmを給電区間にすれば、搭載バッテリーを大幅に減らせる可能性を示す試算も提示していた。

2021年から続く「走りながら充電」の研究

HondaがDWPT研究を始めたのは2021年。第27回ITS世界会議ハンブルグでは、道路インフラから給電しながら走る「Honda Electric Road System」を展示した。

当時の狙いは、EVの航続距離を延ばすだけではなかった。急速充電のために車両が止まる時間を減らし、車載バッテリーを小さくし、車両と道路を一つのエネルギーシステムとして設計することだった。

その後、研究の方向は接触式から無線給電へ広がった。現在の方式では、路面に埋め込まれたGAから磁界を発生させ、車両側VAへ非接触で電力を送る。物理的な集電アームが道路設備へ触れる必要がない。

なぜ「磁界結合方式」なのか

無線給電では、道路と車両の間に空間がある。タイヤが上下し、車体が左右へずれ、雨や雪やごみが路面に存在する。これらすべてを前提に安定して電力を送らなければならない。

Hondaは高出力と小型化を両立するため、「銅条線」と呼ぶ導体構造を採用している。高周波では電流が導体表面へ偏る「表皮効果」が起きるため、単純に太い銅線を使えばよいわけではない。導体形状を工夫することで、85kHz前後の高周波で損失を抑えながら高い電力密度を狙う。

この技術が重要なのは、受電ユニットが大型トラックだけの専用品ではなく、共用設計で乗用車まで対応できる可能性がある点だ。道路側インフラを共通化できれば、投資効率は上がる。

道路会社と建設会社が主役になる理由

自動車メーカーだけではDWPTは実用化できない。道路側の問題があまりに多いからだ。

大成建設は、高速で車両が通過しても必要なタイミングで電力を供給できる高応答の直流電源システムを担当する。大成ロテックはGAを舗装内部へ埋設する施工方法を開発する。

路面の設備は、車両重量、熱、雨水、凍結、舗装のひび割れ、補修工事、除雪、事故などに耐える必要がある。大型商用車対応では、約20トン級の車両荷重を前提にした舗装構造の強度が重要になる。

自動車技術というより、道路土木、電力工学、通信、車両制御を横断するインフラ事業である。

100万輪荷重で道路を痛めつける

2026年後半から、3社は大成グループの「T-FIELD/TAMRA」に試験走路を整備する。

そこで予定される試験の一つが、実車を使った長期耐久評価だ。49kNの輪荷重を基準に、100万回相当の車輪通過負荷を与え、GAを埋め込んだ舗装が壊れないかを確認する。

同時に、DWPTの給電性能、漏えい磁界への対策、最大150kW級の高出力時の安定性、高速走行車への給電信頼性も検証する。

つまり「電気が送れる」ことは、実用化条件のごく一部にすぎない。道路として壊れず、安全で、維持管理が可能でなければ意味がない。

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舞台は館山自動車道、君津PA付近

NEXCO東日本は5月26日、E14館山自動車道本線で、日本初となる高速道路本線の走行中無線給電実証を行う「館山プロジェクト」の参画企業を発表した。

実証場所は千葉県の君津PA付近で、対象範囲は約300m。東京大学大学院新領域創成科学研究科の藤本・清水研究室が支援し、Honda・大成建設チームのほか、トヨタ自動車・デンソー・大林組チームも参加する。

NEXCO東日本によれば、送電コイルはDWPT対応車両が上を通過したことを検知したときだけ給電する。対応していない一般車が通過しても送電しない設計を想定している。

「道路全部」を電化する必要はない

DWPTを語るとき、最も大きな誤解は「高速道路を端から端まで充電道路にする」と考えることだ。

実際には、必要な区間だけに給電設備を置く考え方が現実的だ。上り坂、物流拠点への接続部、交通量の多い幹線、高速道路の一部区間など、エネルギー消費が大きい場所へ集中設置する。

走行中に一定量を補給できれば、車載バッテリーは「一日中走り切る容量」ではなく「給電区間の間をつなぐ容量」でよくなる可能性がある。これがDWPTの経済性を支える最大の理屈だ。

ただし、経済性はまだ答えが出ていない

技術的に動くことと、社会に普及することは別問題だ。

Reutersの取材に対し、Hondaの技術者は従来型の高速充電網と比較した建設コストについて具体的な数字を示さず、経済性は今後評価する必要があるとした。

道路を掘削し、電源設備を設置し、保守し、道路工事のたびに対応するコストは大きい。さらに「誰が投資するのか」「利用料をどう徴収するのか」「自動車メーカー間で規格を共通化できるのか」という制度問題も残る。

公共インフラとして整備するなら、道路会社、電力会社、物流企業、自動車メーカーの間で費用負担を分ける仕組みが必要になる。

大型バッテリーを減らせるなら、別の脱炭素効果もある

EVの環境負荷は走行時だけで決まらない。大容量バッテリーにはリチウム、ニッケル、黒鉛など大量の資源と製造エネルギーが必要になる。

もし走行中給電によってトラックの搭載バッテリーを小さくできれば、車両価格、重量、資源使用量を減らせる可能性がある。物流車両は年間走行距離が長いため、インフラ投資を利用回数で回収しやすいという利点もある。

Hondaは、給電設備の電源に太陽光や風力などの再生可能エネルギーを組み合わせれば、地域で発電した電力を地域交通で使う「地産地消」の可能性もあるとしている。

最大の壁は「規格」かもしれない

道路インフラは、自動車より長く使われる。特定メーカーだけに対応する充電道路では、社会インフラとして成立しにくい。

コイル周波数、通信方式、車両認証、課金、電磁界安全基準、道路設備寸法など、多くの仕様をメーカー横断で揃える必要がある。

館山プロジェクトにHondaチームとToyotaチームの二組が参加することは、この意味で重要だ。方式が異なっても、同じ高速道路で複数メーカーが実証することで、将来の相互運用性や標準化につながる可能性がある。

EVは「大きな電池を積む乗り物」ではなくなるのか

現在のEV設計は、長い航続距離を得るために大容量バッテリーを積む方向へ進んできた。しかし道路側から継続的に電力を得られるなら、その前提そのものが変わる。

スマートフォンがモバイル通信網と切り離せないように、将来のEVは道路と電力網を含むシステムの一部として設計されるかもしれない。

もちろん、2027年度の実証でその未来が決まるわけではない。耐久性、安全性、効率、標準化、工事費、電力契約、維持費という難題は残る。

それでもHondaの研究が示しているのは、EVの航続距離問題を「もっと大きな電池を積む」だけで解決しない道があるということだ。大型トラックが高速道路を走りながら充電する姿が現実になれば、電気自動車と道路の境界そのものが変わる。

出典・参考資料

  1. Honda — 「EVへの走行中無線給電の実現に向け、大型商用車にも対応する基盤技術を開発」2026年10月5日。
  2. Honda — “Honda Develops Underlaying Technology for In-motion Wireless Charging of EVs, Including Large Commercial Vehicles,” October 5, 2026.
  3. Honda — 「Hondaが研究する『走行中無線給電』の強み」2026年10月5日。
  4. NEXCO東日本 — 「E14館山自動車道本線での走行中無線給電の実証実験に向けた参画企業が決定」2026年5月26日。
  5. NEXCO East — Participating companies selected for Tateyama Expressway DWPT demonstration, May 26, 2026.
  6. Honda — 「第27回ITS世界会議ハンブルグ2021」出展概要、2021年10月7日。
  7. Honda — Honda Electric Road System, ITS World Congress 2021 technical presentation.
  8. Honda — 「Japan Mobility Show Bizweek 2026」出展概要、DWPT技術紹介。
  9. Reuters — “Honda plans highway test of wireless charging for moving trucks,” October 5, 2026.

取材・確認期限:2026年10月6日午前1時23分(日本時間)。最大150kW、耐久試験、公道実証予定などはHondaおよびNEXCO東日本の一次資料に基づく。高速充電網との費用比較、商用化時期、導入価格、全国展開の範囲は現時点で確定していない。

今回のポイント

道路から走行中EVへ非接触給電するDWPTが、乗用車だけでなく大型商用車までを対象に公道実証段階へ進む。

技術の焦点

最大150kW、高速走行、100万輪荷重、漏えい磁界対策を同時に成立させる必要がある。

次の焦点

2026年後半のT-FIELD/TAMRA試験と、2027年度以降のE14館山道約300m区間での実証。