福岡県で、障害のある人の就職が増えている。福岡労働局が6月19日に公表した2025年度の集計では、ハローワークを通じた障害者の就職件数は5,736件。前年度より1.6%増え、5年連続で増加し、過去最高を更新した。新規求職申込件数は13,709件で1.1%減少したため、就職率は41.8%と前年度から1.1ポイント上がった。[1]
数字だけを見れば、入口は広がっている。しかし障害者雇用の次の課題は、採用した人数だけでは測れない。「その人が働き続けられるか」である。福岡県内では13の障がい保健福祉圏域すべてに障害者就業・生活支援センターが置かれ、就職活動だけでなく、職場定着、生活習慣、健康管理、金銭管理、企業への雇用管理助言まで支援している。[2]
2026年7月には民間企業の法定雇用率が2.5%から2.7%へ引き上げられ、対象企業の範囲も常用雇用労働者40人以上から37.5人以上へ広がった。採用数を増やす圧力が強まるほど、採用後の職場設計と定着支援の質が問われる。[3]
5,736件、その6割近くが精神障害者
福岡労働局の2025年度データでは、就職件数5,736件の内訳は、身体障害者1,175件、知的障害者956件、精神障害者3,427件、「その他の障害者」178件だった。精神障害者は全体の59.7%を占め、前年度比3.3%増。新規求職申込でも精神障害者が8,284件と60.4%を占める。[1]
これは福岡だけの特殊事情というより、日本の障害者雇用の構成そのものが変わってきたことを映している。制度は長く身体障害者を中心に作られてきたが、1998年に知的障害者が雇用義務の算定基礎へ加わり、2018年には精神障害者も対象となった。厚生労働省は現在、身体・知的・精神障害者を法定雇用率制度の対象としている。[4]
就職先は「医療・福祉」が突出
産業別では「医療・福祉」が3,194件で、5,736件の半数を大きく超える。次いでサービス業487件、卸売業・小売業470件、製造業366件。情報通信業は106件、運輸・郵便業239件だった。[1]
この偏りには二つの読み方がある。一つは、医療・福祉分野で障害者雇用の受け皿が大きく育っていること。もう一つは、雇用の選択肢が十分に幅広いとはまだ言い切れないことだ。
障害のある人の仕事を「補助的な単純作業」に限定すると、求人の数だけでなく、賃金、キャリア形成、本人の適性とのマッチングも狭くなる。2022年改正の障害者雇用促進法では、事業主の責務に職業能力の開発・向上が含まれることを明確にし、雇用の「量」だけでなく「質」を政策課題として位置付けた。[5]
企業側でも雇用人数は過去最高
別の統計を見ると、福岡県内の民間企業で2025年6月1日時点に雇用されていた障害者数は、法定算定上22,516.5人で、前年比4.2%増、905.5人増となり過去最高だった。身体障害者12,250.5人、知的障害者4,511.0人、精神障害者5,755.0人で、精神障害者は前年比12.2%増と最も大きく伸びた。[6]
一方、実雇用率は2.42%で、当時の法定雇用率2.5%を下回った。法定雇用率を達成した企業の割合は47.3%。未達成企業は2,457社で、その56.5%に当たる1,389社は障害者を1人も雇用していなかった。[6]
人数が増えても雇用率が下がることは矛盾ではない。母数となる雇用者数や制度上の算定条件が変われば、雇用障害者数が増えても率は動く。また2026年7月には法定雇用率そのものが2.7%へ上がったため、企業側の採用・定着の課題はさらに大きくなる。
「定着」の難しさを示す全国データ
福岡について、2025年度に就職した5,736件が1年後にどれだけ継続しているかを示す同じ年度の公的統計は、今回確認できなかった。そこで定着の背景を見る際には、全国の過去調査と混同しないことが重要だ。
独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構の障害者職業総合センターが2017年に公表した調査では、一般企業に就職した対象者の1年後の職場定着率は、身体障害者60.8%、知的障害者68.0%、精神障害者49.3%、発達障害者71.5%だった。これは2015~2016年に調査された全国のサンプルであり、2026年の福岡を直接表す数字ではない。[7]
それでも、精神障害者の就職が福岡の新規就職の約6割を占める現在、この古い全国データが示した課題は無視できない。厚生労働省も近年の労働経済分析で、障害者雇用は人数だけでなく、能力を発揮し雇用の安定につながる「質」を高めることが重要だと指摘している。[8]
なぜ最初の数か月が大切なのか
2017年調査では、離職は就職後の比較的早い時期に集中していた。精神障害者の定着率は3か月時点で69.9%、6か月で61.5%、1年で49.3%。身体障害者も3か月77.8%、1年60.8%だった。[7]
同じ調査では、障害者求人で就職した場合の1年後定着率は70.4%だったのに対し、一般求人で障害を開示した場合は49.9%、非開示では30.8%だった。これは、障害を開示すれば必ず定着する、あるいは非開示が離職原因だという単純な因果関係を証明するものではない。求人の種類や本人の状況など、複数の要因が重なっている。それでも、必要な配慮を職場側と調整できる環境が定着と関係していることを考える材料になる。[7]
「仕事」と「生活」を分けない13の支援拠点
福岡県の障害者就業・生活支援センターが特徴的なのは、就職支援だけを扱わないことだ。県内13の障がい保健福祉圏域にセンターを配置し、求職者には職業準備訓練、職場実習、就職活動、職場定着を支援する。同時に、生活習慣、健康管理、金銭管理、住居、年金、余暇活動などについても助言する。企業には雇用管理、職場定着、復職を支援する。[2]
この仕組みは、離職理由が必ずしも仕事内容だけにないことを前提としている。睡眠や服薬が乱れれば出勤に影響する。通勤が難しくなれば勤続できない。上司との意思疎通が崩れれば仕事ができても退職につながる。就業支援と生活支援を同じネットワークで扱う理由はここにある。
企業にも「雇う前から」の支援
福岡労働局は企業向けに「障害者雇用相談援助事業」を案内している。障害者を雇いたいが、どんな仕事を任せればよいか、雇用管理をどうすればよいか分からない企業に対し、労働局が認定した事業者が、雇入れから雇用継続まで一連の相談援助を行う仕組みだ。[9]
さらに、ハローワークや地域障害者職業センターでは、障害特性、仕事の教え方、職場環境改善について事業主へ助言する。ハローワーク側も障害のある求職者に専門職員による職業相談、職業紹介、定着支援を行う。[9]
日本の制度は、企業に一定割合の雇用を求める「雇用率制度」と、現場の雇用を支える相談・助成・職業リハビリテーションを組み合わせている。数字だけを義務化しても、職場側に仕事の設計能力がなければ定着しないからだ。
1976年から半世紀、制度は「人数」から「質」へ
障害者雇用率制度は1976年、身体障害者を対象とする雇用義務として本格的に始まった。その後、1998年に知的障害者、2018年に精神障害者が雇用義務の算定基礎へ加わった。2016年には雇用分野での障害者差別の禁止と合理的配慮の提供義務が施行された。[4]
そして2024年からは、週10時間以上20時間未満で働く重度身体障害者、重度知的障害者、精神障害者について、一定条件で雇用率に0.5人として算定できるようになった。長時間勤務が難しい人にも雇用機会を広げる制度変更である。[5]
2026年7月1日、民間企業の法定雇用率は2.7%となった。雇用義務が生じる企業規模も37.5人以上へ下がった。より多くの中小企業が、障害者雇用を「大企業の人事課の話」ではなく、自社の問題として考える段階に入っている。[3]
福岡で次に見るべき数字
次の公表で注目すべきなのは、単に就職件数が6,000件を超えるかどうかではない。
第一に、2026年7月から2.7%になった法定雇用率の下で、企業の実雇用率と達成企業割合がどう動くか。第二に、精神障害者の就職増加が、安定した勤続へ結びつくか。第三に、医療・福祉へ集中している就職先が、製造、情報通信、金融、専門サービスなどへ広がるか。そして第四に、企業が人数合わせではなく、本人の能力開発とキャリア形成まで含む雇用を作れるかだ。
2025年度の5,736件という過去最高は、福岡の障害者雇用が前へ進んでいることを示す。一方で、それは完成を意味しない。
仕事を得ることは重要な一歩だ。その一歩を、1年、5年、そして本人が望むキャリアへつなげられるか。障害者雇用の次の評価軸は、採用通知の数ではなく、その後に続く時間にある。

