北海道恵庭市西島松(にししままつ)。JR千歳線の恵み野駅と島松駅の間に広がる農地の一角で、2026年9月、未来の野球拠点をつくるための測量と、過去を掘り起こすための発掘調査が同時に始まった。
約46ヘクタールの新市街地計画区域には、北海道日本ハムファイターズのファーム関連施設の移転候補地が含まれる。恵庭市は9月から、用地確定・地形測量と「西島松埋蔵文化財発掘調査業務」を順次開始。必要な場所では表土を重機で取り除き、その下を専門員が手作業で掘り、遺構を検出し、出土品を回収する。[1]
調査の理由は、野球場を造る土地だから特別なのではない。西島松には、地中に文化財が残る可能性がすでに知られているからだ。UHB北海道文化放送は恵庭市教育委員会への取材として、2025年7月の事前調査で縄文時代の土器と石器が見つかっていたと報じた。9月16日には、今回の発掘現場が報道陣に公開された。[2]
46ヘクタールの「未来の街」を掘る
恵庭市が対象とするのは、JR恵み野駅から島松駅の間に位置する約46ヘクタールの新市街地計画区域だ。市は境界・面積・標高を確定する測量と、埋蔵文化財の有無・範囲・実態を確認する調査を並行して進める。上空からのドローン測量も予定されている。[1]
この区域には現在も農地が多い。7月、ファーム候補地が公表された後には見学目的の無断立ち入りや道路上での撮影が見られたとして、市は私有地へ入らないよう異例の注意喚起も行った。[5]
ファイターズはなぜ北海道へ「育成」を戻すのか
現在のファーム本拠地、ファイターズ鎌ケ谷スタジアムは千葉県鎌ケ谷市にある。1997年、川崎市の多摩川グラウンドから移転して開場し、約30年にわたり若手育成の拠点となってきた。球団自身が「スカウティングと育成」を重視するチーム方針の象徴として位置付けてきた場所だ。[13] [14]
一方、一軍は2004年に北海道へ本拠地を移し、2023年には北広島市のエスコンフィールドHOKKAIDOを中心とする北海道ボールパークFビレッジへ移った。ファームだけが首都圏に残る状態が続いてきた。
2025年7月、球団はファーム施設を北海道へ移す意向を正式表明し、プロジェクト名を「ONE BASE HOKKAIDO~新たな拠点の創造~」とした。栗山英樹チーフ・ベースボール・オフィサーは、北海道に「本当の意味での育成拠点」をつくり、コンディショニングや体づくりまで含めた人材育成の場にしたいとの構想を示した。[4]
2026年7月2日、球団は恵庭市を移転候補地に内定したと発表。栗山CBOは、野球に限らず世界中から人が集まり、子どもたちが世界へ巣立つような施設を目指すと説明した。新施設の開業目標は2030年または2031年としている。[3]
しかし、西島松は「何もなかった土地」ではない
この開発計画が考古学的に興味深いのは、西島松という地名がすでに北海道考古学で重い意味を持つからだ。
同じ西島松にある西島松5遺跡では、柏木川の河川改修と遊水地建設を契機に、2000年度から2004年度まで21,210平方メートルが発掘された。出土品は約167万点。縄文時代の土器・石器・漆製品から、後世の金属製品まで、長い人間活動を伝える資料が確認された。[6]
縄文時代後期後葉から晩期前葉、約3,000年前の墓からは、漆塗りの櫛、玉、環状の漆製品などが副葬品として出土した。恵庭ではこの時期、カリンバ遺跡や柏木B遺跡でも高度な漆製品が確認されており、市の整備資料は、恵庭で見つかった縄文の漆塗り装身具が全国出土例の大きな割合を占めると説明している。[8] [9]
しかも恵庭の漆文化はさらに古い。市の年表は、縄文時代前期、約6,000年前の西島松3遺跡に「恵庭最古の漆製品」を位置付ける。[9]
カリンバ遺跡――道路工事が見つけた3,000年前の墓
恵庭を代表する考古学遺跡は、西島松から南へ離れた市街地のカリンバ遺跡だ。1999年、市道建設に先立つ発掘で、縄文時代後期末、約3,000年前の墓域が見つかった。一つの穴に複数人を埋葬した大型合葬墓があり、漆塗りの櫛、腕輪、腰飾り帯、多数の玉などが副葬されていた。[8]
遺跡は2005年に国史跡となり、出土品397点は2006年に重要文化財に指定された。道路を造る前の調査が、それまで地中に眠っていた一級の縄文文化を明らかにしたことになる。[7] [8]
2026年現在も、その保存と活用は続いている。恵庭市は10月、通常は複製品で展示するカリンバ遺跡の漆製品実物を特別公開し、西島松5遺跡の漆塗り装身具も合わせて展示する予定だ。[12]
西島松5遺跡は、縄文だけでは終わらない
西島松5遺跡のもう一つの重要性は、縄文時代より数千年後にある。
2000年度の調査では、7〜8世紀頃の土坑墓84基と、8〜9世紀頃の周溝墓6基が見つかった。墓からは刀、刀子、鉄鏃、鉄斧など170点を超える金属製品が出土した。恵庭市は、これらの多くが北海道外で製作されたとみている。[6]
そのうち土器62点、金属製品155点、琥珀玉1点の計218点は、2024年8月27日に国の重要文化財に指定された。指定理由として市は、擦文時代前半の北海道では突出して豊富な金属製品群であり、石狩低地帯と畿内の古代国家、東北北部との文化的・政治的関係を考えるうえで極めて重要だと説明している。[7] [10]
つまり西島松は、「縄文人がいた場所」という一枚の時代ではない。縄文文化、続縄文文化、擦文文化へと、人の活動が何千年も積み重なった地域である。
今回の土器と石器は、何を語るのか
現時点では、まだ分からない。
UHBの9月16日報道で確認できるのは、恵庭市教育委員会によれば2025年7月の事前調査で縄文時代の土器と石器が見つかった、というところまでだ。器形、文様、石材、点数、正確な年代、遺構との関係、出土地点の座標などは公表されていない。[2]
したがって、それらが約3,000年前のカリンバ・西島松5遺跡と同時期なのか、もっと古いのかを現時点で断定することはできない。恵庭では縄文早期から晩期まで多数の遺跡が知られており、「縄文土器」というだけでは数千年の幅がある。[9]
今回の発掘で重要なのは、珍しい一品が出るかどうかだけではない。炉跡、柱穴、住居跡、墓、旧河道、土器の集中など、遺物がどの地層の、どの位置関係で見つかるかによって、昔の人がこの土地をどう使ったのかが読めるようになる。
発掘調査は「開発を止める儀式」ではない
文化庁によると、日本には周知の埋蔵文化財包蔵地が約46万か所あり、毎年およそ9,000件の発掘調査が行われている。文化財保護法では、遺跡が知られる土地で土木工事を行う場合に事前の届出等を求め、現状保存が困難な場合には工事前に発掘し、図面、写真、出土品などの記録を残す「記録保存」を行う制度がある。[11]
恵庭市も今回の調査を「歴史的遺産の保護のために欠かせない重要なプロセス」と位置付ける。発掘は開発とは別の世界の仕事ではなく、開発計画の一工程に組み込まれている。[1]
どの範囲を現地保存し、どこを記録保存するかは、発見された遺構の性格と保存状態、事業計画との調整で決まる。現時点で市は、今回の調査がファーム施設の開業時期を変更すると発表していない。
- ファイターズのファーム関連施設移転先として恵庭市が選ばれ、2030年または2031年の開業を目指している。
- 新市街地計画区域はJR恵み野駅〜島松駅間の約46ヘクタール。
- 2025年7月の事前調査で縄文時代の土器・石器が見つかったと、UHBが恵庭市教育委員会への取材として報道した。
- 2026年9月から、測量と試掘・本発掘を含む埋蔵文化財調査が順次進められている。
- 2026年本調査の新出土品の詳細、調査総面積、最終的な遺跡範囲はまだ公表されていない。
二つの「育てる場所」が重なる
ファイターズが恵庭に求めているのは、単なる二軍球場ではない。球団は「ONE BASE HOKKAIDO」の構想で、選手の体づくり、コンディショニング、育成、地域との交流を一体にした拠点を描く。[3] [4]
その未来の育成拠点を造る前に、恵庭市が確認しているのは、その場所に何千年前の人々の生活の痕跡が残っているかだ。
1999年の道路建設前調査がカリンバ遺跡を世に出し、2000年代の河川工事が西島松5遺跡の膨大な資料を残した。2026年は、プロ野球の施設と新しい街をつくる計画が、再び地中の歴史を調べる契機になっている。
未来の選手が走るかもしれない場所の下に、縄文人が残した土器と石器がある。その二つは対立する話ではない。恵庭では、まちをつくるたびに、昔のまちが見つかってきた。
- 恵庭市「西島松地区における新市街地整備に伴う各種調査業務(測量・埋蔵文化財発掘調査)の実施について」2026年9月11日
- UHB北海道文化放送「ファイターズ2軍本拠地移転予定地で『埋蔵文化財の発掘調査』進む」2026年9月16日
- 北海道日本ハムファイターズ「ファーム施設移転候補地内定について」2026年7月2日
- 北海道日本ハムファイターズ「ONE BASE HOKKAIDO~新たな拠点の創造~」2025年7月7日
- 恵庭市「ファイターズ ファーム施設の移転について」2026年7月2日・7月6日
- 恵庭市「西島松5遺跡とは」2026年5月29日更新
- 恵庭市「恵庭の文化財」
- 恵庭市「カリンバ遺跡について」
- 恵庭市郷土資料館「北海道の年表・恵庭の歴史」—恵庭最古の土器、漆製品、縄文・擦文期の主要遺跡
- 恵庭市教育部郷土資料館「西島松5遺跡出土品の重要文化財新指定について」2024年
- 文化庁「埋蔵文化財」—開発事業と埋蔵文化財保護の手続き
- 恵庭市「特別公開2026 カリンバ遺跡重要文化財漆塗り装身具」
- 北海道日本ハムファイターズ「ファイターズ鎌ケ谷スタジアムが開場20周年」2017年
- 鎌ケ谷市「ファイターズ鎌ケ谷スタジアムの移転先の決定について」2026年7月2日

