3校2026年度モデル校
約70人事業関係者が公表した参加規模
10月10日試作品進捗報告会の開催予定日
2027年1月公式サイト掲載の成果発表会

10月10日の「途中経過」がニュースになる理由

完成品を披露する場ではなく、まだ動きが不安定な試作品を持ち寄る場。その設計思想こそ、愛媛県が始めた「えひめAI部」の特徴だ。県の共創空間「E:N BASE(エンベース)」が案内した10月10日のプロダクト進捗報告会では、参加チームが9月から取り組む生成AI活用の試作品を対象に、エンジニアメンターや地元企業のデジタル人材、大学生の助言を受ける計画が示された。

会場はE:N BASE内のE:N STAGEなど、予定時間は午後2時から5時まで。10月8日時点で確認できたのは開催案内であり、実際の発表内容、完成度、当日の参加者数は取材による裏付けを得ていない。10月11日付の記事でも、実施結果を確認できない以上「成果を上げた」と書くことはできない。

小松、伊予、宇和島南の3校がモデル校

県が正式に挙げる2026年度のモデル校は、愛媛県立小松高等学校、愛媛県立伊予高等学校、愛媛県立宇和島南中等教育学校の3校だ。東予、中予、南予にまたがる教育機関が参加することで、都市部の一部の生徒だけに先端技術の学習機会を集中させない仕組みになっている。

運営関係者の発表では参加生徒は約70人。県の当初の委託仕様書に示された「各校10人程度」という想定と、実際の参加規模を混同してはならない。人数を強調するより、どのような生徒が継続して学び、何をつくれるようになるかが肝心だ。

「AIを使う」から「問題を定義する」へ

年間プログラムは、基礎学習、ワークショップ、県内企業訪問、探究学習、成果発表という順序で構成される。教材には生成AIの利用法に加えて、AIアルゴリズム、Pythonによるデータ活用が含まれる。コーチ役は県内企業のデジタル人材と情報系大学生らだ。

生成AIに質問して回答を読むだけなら、アプリ開発の訓練にはならない。使う人は誰か、元のデータは信頼できるか、間違いをどう検出するか、操作が難しい利用者にどう届けるか。課題を定義し、検証し、やり直す工程にこそ技術教育の価値がある。

人口減少県の技術教育という意味

愛媛県内では製造業、観光、農林水産業、医療や行政など多様な現場が人手と業務継続の課題に向き合う。AIはこうした分野のすべてを直ちに変える万能薬ではないが、情報整理、文書検索、需要予測、問い合わせ対応の補助といった用途を吟味するきっかけにはなる。

地域の高校生が身近な困り事を扱う意義は、単にコードが書けるようになることではない。利用者の話を聞き、地域の仕事を理解し、技術の適用限界を知ることだ。就職や進学で県外に出る場合にも、その経験は持ち運べる。

産業界との接点は「就職説明会」と違う

県はこの事業を、地域企業を知ることとAI人材の育成を結びつけて設計した。松山市の株式会社エス・ピー・シーが運営を担い、株式会社ガイアックスも協力を発表している。企業訪問と社員によるコーチングは、学校の外に存在する実務上の制約を学ぶ機会になる。

ただし、企業が関与していること自体を雇用創出の成果とみなすことはできない。生徒が企業の提案に異議を唱えられるか、学習成果を自由に発表できるか、特定サービスへの誘導がないか。公共事業としての教育的独立性も評価対象である。

先行するデジタル教育と政策の積み重ね

日本では長年、情報教育がプログラミング、データの扱い、情報倫理へと範囲を広げてきた。愛媛でも「えひめAI部」だけが孤立しているわけではない。県は高等教育機関向けの「えひめAI人材育成クラウド実践講座」を2026年に設け、クラウド環境を使ったアプリ開発を支援している。

また8月に県が公表した「地域創生・社会課題解決AIコンテスト2026」では、大学・高専・専門学校の7校から14チーム、50人が参加したと発表された。こちらは高校生の「えひめAI部」と別の事業であり、両者の受賞や参加人数を取り違えてはならない。

試作品を評価する、五つの問い

第一に、実在する地域課題を選んでいるか。第二に、AIを利用する必然性があるか。第三に、個人情報や機密情報を安全に扱えるか。第四に、誤答を確認できる仕組みがあるか。第五に、参加者の学習と地域社会への有用性を別々に測定できるか。

たとえば観光案内アプリなら、地名や営業時間の誤案内は不便を生む。医療・災害関連なら、誤答の影響はより大きい。高校生の試作品を商用システムと同じ水準で評価する必要はないが、危険を認識し、用途を絞る過程を省いてはいけない。

「使いやすさ」は地方だからこそ重要

利用者には高齢者、外国人住民、視覚や聴覚に制約のある人、通信環境が限られる人もいる。性能の良いモデルを呼び出せても、画面が読みにくかったり、前提となる情報を入力できなかったりすれば地域課題は解決しない。

住民への聞き取りや、想定外の使い方をしてもらう試験があって初めて、教室での発想が現実世界と接続する。地域企業の専門家は、その厳しい問いを生徒に投げかける存在であってほしい。

技術面の難所はコストと検証

生成AIのアプリには通信費、クラウド費用、モデルの更新、データの保管、権利処理、出力内容の検証など継続的な負担がある。ワークショップで動いた試作品が、半年後にも安全に動くとは限らない。

費用が誰に発生するか、データがどこに送られるか、個人情報の取り扱いに同意を得ているか。成果発表会で問われるべきなのは派手な画面だけでなく、維持可能性と説明責任である。

次の舞台は成果発表会

公式サイトは2027年1月の成果発表会を案内する。県の概要は、最優秀校が山形で開催される「AI甲子園inやまがた」へ進む予定としている。一方、公式サイトには2027年3月の全国舞台への挑戦も記されており、出場日程・条件は最終案内を確認する必要がある。

大会への進出は分かりやすい目標だ。しかし大会での順位より、生徒が調査対象と対話し、何度も失敗して試作品を直した経験を地域が共有できるかが、長い目では重要になる。

成功は「何人がAIを触ったか」だけでは測れない

公共事業として追うべき指標には、参加継続率、チームの地域課題への理解、試作品の機能と安全性、利用者の反応、終了後の学習継続がある。さらに、翌年度もモデル校以外へ機会を広げられるかという教育格差の問題が残る。

県は事業の目的として、地域の課題をAIで解決できる人材の裾野を広げることを掲げる。その目標に照らすなら、初年度のニュースは「AIの大会を開いた」ことではなく、具体的な課題に向き合う生徒の学習がどこまで進んだかで判断したい。

地域に残すべきもの

かつて技術教育では、パソコンを設置することが改革の象徴になった。今、生成AIの時代に問われるのはツールの新しさではない。問いを見つけ、事実を確かめ、相手の立場で使いやすさを考え、間違いを修正する力である。

小松、伊予、宇和島南の教室で始まった活動が、それぞれの街の現実を映す小さな道具へ育つのか。答えはまだ出ていない。その未完成の状態こそ、えひめAI部を継続して取材する理由になる。

出典・参考資料

  1. 愛媛県「えひめAI部について」
  2. 愛媛県共創空間 E:N BASE「プロダクト進捗報告会」
  3. えひめAI部 公式サイト
  4. 愛媛県 令和8年度事業公募資料
  5. 愛媛県「地域創生・社会課題解決AIコンテスト2026」
  6. 愛媛県「えひめAI人材育成クラウド実践講座」
  7. ガイアックス 事業参画発表

編集確認:2026年10月8日までの公表資料に基づく。10月10日の会合の実施結果・具体的な試作品・個人の発言は独自確認されていない。