職場の外に、もう一つの居場所を
工場の仕事を終えた後、その街でどう暮らすか。買い物に行けるか。休日に出かける交通手段はあるか。災害が起きた時、助けを求める相手はいるか。外国人労働者の「定着」を考えるなら、雇用契約だけを見ていては答えは出ない。
愛媛県東予地方局が進める「東予外国人材地域リーダー養成講座」は、外国人材を単に労働力として受け入れるのではなく、住民や企業との「橋渡し役」になる人を育てようとする試みだ。10月8日に公表された第2回地域学習会の記録は、その仕事が語学研修だけでは成り立たないことを示している。
10月6日、二つの現場で学んだこと
10月6日の東予東部の学習会は、四国中央市福祉会館での討議と、道の駅「霧の森」での現地学習を組み合わせた。テーマは「地域の人と考える 楽しい休日の過ごし方」。公共交通を実際に利用する経験から、余暇の選択肢と移動の難しさを考えた。参加者は計12人で、このうち講座の外国人材地域リーダーは4人だった。
東予西部では今治市大西地区の素鵞神社(そがじんじゃ)と鴨池海岸を巡り、地域の祭りと海の歴史を学んだ。今治市大西公民館で行われた討議では、産業・文化・環境を切り口に母国との共通点と違いを話し合い、今治の魅力を発信する言葉を考えた。こちらの参加者は19人、地域リーダーは4人。合計31人全員が外国人リーダーだったわけではない。[1]
数字が映す産業の依存
愛媛労働局の「外国人雇用状況」の届出集計によれば、2025年10月末の県内外国人労働者数は1万5,925人。前年の1万4,550人から1,375人増え、増加率は9.5%だった。製造業が8,635人を占め、全体の過半数に当たる。医療・福祉は1,897人、建設業は1,415人だった。[4][5]
この数字は雇用事業所からの届出に基づく外国人労働者の統計であり、外国籍住民の総数ではない。また、統計にある人が全員長期定住を希望しているわけでもない。数字を一つにまとめて「外国人が増えた」とだけ語れば、働き方と在留の制度、生活の実態が見えなくなる。
なぜ東予から始まるのか
東予には今治の造船・海事産業、四国中央の紙関連産業、新居浜・西条の製造拠点が集まる。県の事業資料によると、県内の技能実習・特定技能の外国人材のおよそ6割が東予で働いている。重要なのは、その「約6割」が対象とする在留資格の区分に限定された説明であり、県内の全外国人労働者の6割という意味ではないことだ。[6]
地域リーダー事業は、2026年に企業向け説明会を経て基礎研修と交流会を実施。夏には初回の学習、9月には水引の体験や防災学習、10月には交通と海の文化を学んだ。[2][3] 目標は工場と地域社会の間の距離を縮めることにある。
工場が採用しても、街が迎えなければ
求人は仕事の入口を開く。しかし、病院の予約、子どもの学校、地域行事、行政窓口、住まい探しでは別の支援が必要になる。日本語学習の機会を確保し、情報を多言語で伝えることも欠かせない。外国人側に地域への「適応」だけを求める発想では、企業と自治体が負う責任を見落とす。
公共交通を使った10月の実習は示唆的だ。自動車がなければ移動しにくい地域で、休日の外出の不便さは暮らしの満足度を左右する。定住を促す施策であるならば、雇用の維持だけでなく、住居、交通、防災情報、相談先へのアクセスを含めて評価する必要がある。
「多文化共生」は一方通行ではない
9月の学習会では、東予東部で四国中央市の紙の歴史と水引を学び、東予西部では住民と災害時の行動を考えた。今回の海辺の学習では、参加者は出身国の暮らしと日本の地域社会を比較した。[3] 地元文化を教えるだけで終わらず、異なる経験から地域側も新しい課題を知る仕組みにできるかが問われる。
受講者の発言や体験をニュースとして伝える際には、本人の同意と文脈が不可欠だ。県資料に掲載されていない名前や出身国、職場、個人的な事情を推測して記事に盛り込むべきではない。
技能実習から育成就労へ、制度の転換点
外国人労働をめぐる日本の制度も変化している。技能実習は技能移転による国際貢献を掲げてきたが、制度目的と実際の労働需要のずれや権利保護の課題が指摘されてきた。2019年には人手不足に対応する「特定技能」制度が始まった。2024年の法改正で創設された「育成就労」は、2027年4月1日に運用開始予定である。[7][8]
新制度で人材の育成と確保を正面から掲げるとしても、在留資格の変更だけで安心して住める地域は生まれない。賃金、相談体制、転職の選択肢、ハラスメント防止、災害時の情報アクセスなど、雇用主と自治体の実務が結果を左右する。
企業にとっての経営課題
人員を補充できれば生産ラインは回る。しかし採用費をかけた人が短期間で離職すれば、教育と引き継ぎの負担が大きくなる。地域の生活に接続することは、慈善事業だけではなく企業の継続性に関わる。だからこそ成果を印象論ではなく検証する必要がある。
例えば受講者本人が望む定住の実現、地域行事への自主的な参加、通訳や相談の利用しやすさ、仕事上の相談への対応、企業の離職率などを、個人情報を守りながら継続的に調べられるか。現在公開されている学習会の資料だけで、こうした効果がすでに出たと断定することはできない。
受け入れる地域も変わる
少子高齢化が進む愛媛では、働く人と地域の担い手を別々に考えにくくなっている。それでも、外国人材に地域の行事や自治活動を過剰に背負わせるべきではない。参加は自発的であること、休日や私生活の自由が尊重されることが前提になる。
「橋渡し役」が必要なのは、外国人だけに問題があるからではない。日本語話者の行政と事業者が説明方法を変え、住民同士が互いの習慣を知る必要があるからだ。制度を持続させる鍵は、その負担と機会を公平に分け合うことにある。
次に問うべきこと
県は第2回学習会の次に成果報告会へ向けた準備会を予定している。[1] そこで何が報告され、企業と自治体は何を改善するのか。事業の評価は講座の開催回数ではなく、その後の生活に何が残ったかで決まる。
瀬戸内海に面した工業都市の持続可能性は、外国から来た人を採用できるかだけでは測れない。その人が職場の外でも一人の住民として尊重され、ここで暮らし続けたいと選べるか。東予の小さな学習会は、人口減少時代の日本に大きな問いを投げかけている。
出典・取材方法
- 愛媛県東予地方局:第2回地域学習会(2026年10月8日)
- 愛媛県東予地方局:基礎研修会・第1回交流会
- 愛媛県東予地方局:第1回地域学習会
- 愛媛労働局:外国人雇用状況(2025年10月末)
- 愛媛労働局:外国人雇用状況・詳細資料
- 愛媛県:講座開催業務の企画提案
- 出入国在留管理庁:在留資格制度の説明
- 出入国在留管理庁:育成就労制度のQ&A
- 愛媛県:推計人口
2026年10月8日までに公表された一次資料を確認。講座受講者や企業への独自インタビューは実施していない。統計の「外国人労働者」は雇用届出の対象者であり外国籍住民全体を意味しない。
