2026年10月4日 日曜日 · JST | English | 1米ドル = 158.09円 為替更新: 2026年10月2日 10:06 JST · Japan.co.jp

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10月4日 千葉県版 | 地域・防災
千葉市民が地震被害想定図を囲んで防災対策を話し合う編集用イラスト
AI生成の編集用イラスト。浅井忠に着想を得た表現で、市民説明会、防災地図、千葉市の都市インフラを象徴的に描いた。実際の会議写真ではない。
地域・防災
千葉市 · 地震被害想定 · 千葉市直下地震 · ライフライン · 避難 · 防災

揺れの想定は厳しく、倒壊死は減る――千葉市9年ぶり地震被害想定が示す「次の課題」

千葉市の新想定では、市域の67%で震度6強、約1万棟が全壊・焼失する一方、建物倒壊死は前回比75%減。だが水道は2週間後も38%が断水し、自宅外避難は約28.5万人で2週間後にピークを迎える。地震対策の焦点は「壊れない建物」から「その後を生きられる都市」へ広がっている。

地震被害想定は、未来を予言する数字ではない。どこが壊れやすく、何が足りなくなり、行政と住民が何を先に準備すべきかを考えるための「ストレステスト」である。

千葉市は2026年7月、2017年以来9年ぶりとなる地震被害想定の見直し結果を公表した。想定地震は、震源の中心を千葉市役所直下に置くマグニチュード7.3の「千葉市直下地震」。国や県の新しい調査手法、最新の科学的知見、地域社会データを取り入れ、地盤調査データも約1,000カ所追加した。

新しい想定は一見矛盾している。市内で震度6強となる面積は前回より拡大した。一方で、建物の全壊・半壊は大幅に減り、建物倒壊による死者も4分の1になった。住宅の耐震化や建て替えが進んだからだ。しかし火災による死者は逆に増え、上水道は2週間後でも38%が断水。自宅外避難者は発災直後ではなく2週間後にピークを迎える。

67%市域で震度6強が想定される面積割合
10,380棟全壊・焼失の想定棟数
520人直接死の想定
約28.5万人2週間後の自宅外避難者ピーク

震度6強の範囲は54%から67%へ

今回の想定では、市内総面積の約67%、約185平方キロメートルで震度6強が予測された。前回調査の約147平方キロメートル、54%から13ポイント増えた。

千葉市は、地震動を計算する地盤データを新たに約1,000地点追加し、より詳細な地震動予測を行ったことが増加理由だと説明する。

液状化危険度が高い面積も約20平方キロメートル、7.5%から約23平方キロメートル、8.3%へ拡大した。特に東京湾沿岸の埋立地を含む美浜区では、2011年の東日本大震災でも液状化による道路・上下水道・住宅被害が現実に起きている。

新しい想定は「千葉が急に危険になった」と言っているのではない。より細かな地盤情報で、これまで粗く見ていた危険を解像度高く見直した。

それでも建物被害は大きく減った

揺れ、液状化、火災を合わせると、市内では約10,380棟が全壊・焼失し、18,910棟が半壊すると想定される。

内訳は、揺れによる全壊7,150棟、液状化による全壊200棟、火災による焼失3,030棟。区別では、全壊・焼失が最も多いのは花見川区の2,270棟、次いで中央区2,150棟、稲毛区2,140棟、若葉区2,040棟となる。

ただし前回調査と比べると、全壊・半壊棟数は44,230棟から26,260棟へ61%減少、焼失棟数は5,880棟から3,030棟へ48%減った。

市はその理由を、建物の建て替えや改修により耐震性能・防火性能が向上したためとしている。つまり、防災投資が想定被害を実際に押し下げている。

倒壊死は減った。しかし火災死は増えた

直接死の想定は520人。建物倒壊による死者260人、火災による死者260人である。

2017年調査と比べると、建物倒壊死は1,040人から260人へ75%減少した。一方、火災死は120人から260人へ117%増加した。

これは「火災リスクそのものが急激に悪化した」という単純な話ではない。市は、集合住宅など多くの人が居住する建物の延焼について、新たな予測手法を取り入れたことを増加理由に挙げる。

調査手法の変更による増加と、実際のリスク変化を分けて読む必要がある。

初めて「災害関連死」140人を想定

今回の見直しでは、災害関連死が新しい項目として加わった。想定は140人。

災害関連死とは、建物倒壊や火災でその場で亡くなる直接死ではなく、避難生活の長期化、生活環境の悪化、医療中断などによる心身の負担から死亡するケースを指す。

能登半島地震など近年の災害では、避難所のトイレ、睡眠、食事、寒暖、持病管理が命に直結することが繰り返し明らかになった。千葉市が被害想定に関連死を組み込んだことは、地震対策の対象を「揺れている数分間」から「その後の数週間」へ広げたことを意味する。

電気より、水のほうが長く止まる

ライフライン想定で最も重いのは上水道だ。

発災直後、95万7,290人の給水人口のうち71万2,780人、75%が断水。3日後でも64万2,800人、67%。1週間後で53万3,720人、56%。2週間後にも36万2,660人、38%が断水し、1カ月後でも12万5,880人、13%が残る。

一方、電力は直後に59万6,460軒、95%が停電するが、3日後32%、1週間後4%、2週間後には0%と想定される。

都市ガスは直後64%、1週間後38%、2週間後3%。固定電話は直後95%が不通だが、1週間後3%まで低下する。

大地震後の生活で最も長く残るボトルネックは、電気ではなく水かもしれない。2週間たっても市民の3人に1人以上が断水する想定だ。

避難者のピークは「直後」ではない

自宅外避難者は発災直後8万7,620人だが、時間とともに増え、2週間後に28万4,660人で最大になる。

その内訳は、避難所17万800人、知人宅・ホテル・車中泊などの避難所外避難11万3,860人。1カ月後には避難所避難は7万6,010人へ減る一方、避難所外避難は11万4,010人と高いまま残る。

前回調査ではピークが発災直後30万4,210人だった。今回は最近の災害における避難行動を踏まえて算出方法を見直し、ピーク時期が2週間後へ移った。

この変化は行政計画に大きい。地震直後だけ大量の食料やスペースを確保すればよいのではなく、断水や住宅機能の低下によって、数日後から避難する人が増える。

「避難所へ行く」が標準ではなくなる

市が打ち出した対策方針の柱の一つが「分散避難」である。

自宅が安全なら在宅避難、親族・知人宅、ホテル、地域避難施設、車中泊場所など複数の選択肢を持ち、全員を指定避難所へ集中させない。

市は町内自治会の集会所などを地域避難施設として認定する取り組みを進め、民間企業との協定を拡大して車中泊避難場所を確保する。さらに、避難所外にいる要配慮者へ物資を届ける「ラストワンマイル」の仕組みを検討する。

これは、避難所の収容能力だけではなく、避難者が市内に分散することを前提に支援網を設計するという転換だ。

避難所は「床で寝る場所」から変えられるか

新方針は、避難所環境の改善として「TKB」を明記する。トイレ、キッチン、ベッド、バスである。

マンホールトイレ整備、温かい食事を作る市有調理設備やキッチンカーとの協定、要配慮者向け簡易ベッド、入浴場所確保、新しい避難スペースの確保を進める。

市は、ピーク時の避難者に対応するため、国の目安である1人3.5平方メートルを満たせるよう、大学や民間宿泊施設など新たな避難スペースも検討する。

自宅を守ることが最大の避難所対策になる

市が最初に挙げる対策は、住宅の耐震化、家具固定、感震ブレーカーである。

建物倒壊死が前回想定より75%減ったという結果は、住宅の耐震化や更新が効いていることを示す。今後も木造住宅の耐震診断・改修補助、高齢者・重度障害者向け家具転倒防止、地域単位の資機材助成などを周知する。

さらに火災死の想定が増えたことから、市は感震ブレーカーの普及拡大を検討する。地震時に一定以上の揺れを感知して電気を遮断し、復電時の通電火災などを防ぐ装置である。

2011年、美浜区で起きたことが液状化想定の背景にある

千葉市は東日本大震災で、震源から遠く離れていたにもかかわらず大きな液状化被害を受けた。

美浜区を中心に道路約44キロメートル、392路線が被災し、7橋、下水道約7キロメートル、公園75カ所などに被害が出た。住宅では31世帯が全壊、282世帯が大規模半壊、414世帯が半壊。一部損壊は5万4,354世帯に達した。

市はその後、美浜区の幕張西、磯辺、真砂など143ヘクタールを復興交付金事業区域とし、住民同意が得られた磯辺地区で地下水位低下工法による市街地液状化対策を進めた。

2026年の液状化マップが抽象的な色分けに見えても、千葉市にとって液状化は経験済みの都市災害である。

1923年から続く「都市と地震」の歴史

千葉市は1921年に市制を施行し、そのわずか2年後の1923年、関東大震災で市内の家屋被害を経験した。

その後、市域は拡大し、東京湾岸の埋立て、人口増加、集合住宅、高層建築、臨海工業地帯、鉄道・道路網が発達した。地震リスクは「木造家屋の倒壊」だけでなく、液状化、長周期地震動、エレベーター閉じ込め、ライフライン停止、帰宅困難者、医療機能、災害廃棄物といった都市システム全体の問題へ変わった。

今回の調査が新たに災害関連死、トイレ被害、一時滞在施設利用者、要配慮者支援、医療機能支障、高層ビルの揺れなどを加えたのは、その変化を反映している。

被災者支援を「証明書」から早く始める

市は罹災証明書の迅速化も重点に置く。

罹災証明は、住宅被害の程度を行政が証明し、各種支援制度、税減免、融資などにつながる入口になる。発行が遅れれば、生活再建も遅れる。

市はシステム活用で交付を早め、平時から支援制度を周知し、支援が届きにくい要配慮者への個別訪問を関係機関と連携して行える体制を検討する。

ライフライン対策は「復旧」だけでなく「止まっている間」をどう生きるか

電力事業者との協定に基づく道路啓開、避難所への太陽光発電と蓄電池、上下水道の一体復旧、蛇口付き受水槽、マンホールトイレ、カセットコンロ、通信基地局の電源確保、災害時用公衆電話、Wi-Fi整備などが方針に並ぶ。

これらに共通するのは、「何日で完全復旧するか」だけを目標にしていないことだ。復旧までの数日・数週間を、市民生活がどこまで耐えられるかを設計する。

被害想定は「最大値」ではなく、一つのシナリオ

今回の想定は、マグニチュード7.3、震源中心を市役所付近に置く千葉市直下地震という一つのシナリオである。

実際の首都直下地震は別の場所で起きる可能性があり、規模、時刻、風速、火災発生、地盤状態によって被害は変わる。地図に色がない場所が「安全」を意味するわけでもない。

したがって、10,380棟、520人、28万4,660人という数字を「次の地震では必ずこの数になる」と読むのは誤りである。

想定の限界: 数字は千葉市直下地震M7.3を前提にしたシナリオ推計で、発生予測ではない。震源位置、時刻、風速、火災、地盤条件、今後の耐震化によって実際の被害は変わる。

市民にとって一番重要な数字は、実は「3日分」ではない

この調査を家庭の備えへ引き直すと、最も厳しいのは水である。

上水道は3日後でも67%、1週間後でも56%が断水する想定だ。短期の非常食だけでなく、飲料水、簡易トイレ、生活用水、薬、充電、モバイル通信、在宅避難を続けられる室内環境が重要になる。

自宅が倒壊しなくても、水がなく、トイレが使えず、エレベーターが止まり、医療や介護が受けられなければ、住み続けることはできない。

被害想定の目的は、数字を怖がることではない

前回より震度6強エリアが広がった。一方、建物倒壊死は大きく減った。この二つが同時に起きていることが、今回の調査の核心である。

危険の評価は厳しくなっても、対策で被害は減らせる。

住宅を耐震化する。家具を固定する。感震ブレーカーを付ける。自宅で避難生活を続けられる準備をする。避難所だけでなく親族宅や地域施設も考える。行政は水とトイレと通信を長く支える。

千葉市が10月4日から始める市民説明会で伝えるべきなのは、最大被害の数字そのものではない。9年前の想定から減った被害があるという事実と、まだ減らせていない被害がどこに残っているかである。

主な出典

  1. 千葉市「千葉市地震被害想定調査報告書(令和8年7月)」
  2. 千葉市「新たな地震被害想定調査結果及び防災・減災対策の方針」
  3. 千葉市「新たな地震被害想定調査結果と防災・減災対策の方針説明会」
  4. 千葉市「地震・風水害ハザードマップ」
  5. 千葉市「道路に関する災害復旧のとりくみ」
  6. 千葉市「東日本大震災 被害に関するFAQ」
  7. 千葉市「東日本大震災復興交付金事業(磯辺地区)」
  8. 千葉市「千葉市のあゆみ」