7月7日、社長交代と持株会社化が同時に始まった

ビッグホリデーは2026年7月7日、岩崎弘利氏を代表取締役社長に、前社長の岩崎安利氏を代表取締役会長に据えた。同日、グループ管理を担うビッグホリデーホールディングス株式会社を設立し、旅行事業会社を傘下に置く体制へ移った。

弘利氏は1993年10月生まれの32歳。郵船トラベル勤務後、2020年にビッグホリデーへ入り取締役となり、明治大学専門職大学院でMBAを取得。グループ会社の取締役を務めながら、Webマーケティング、人事制度改革、DX・AI活用を進めてきたと会社は説明する。

32歳岩崎弘利新社長の就任時年齢。
1964年ビッグホリデー創業。
62年創業から今回の承継まで。
2026年7月7日新社長、会長、持株会社が同時始動。

若い社長、というだけでは承継にならない

肩書を渡すことと、経営を渡すことは違う。承継には株式、議決権、銀行関係、取引先との信用、社員の支持、失敗を許される権限が必要だ。前社長が会長として残る体制は、経験と人脈を引き継げる一方、新社長の決定を曖昧にする危険もある。

優れた会長は「答えを出す人」から「新社長が答えを出せる環境を作る人」へ役割を変える。新社長は父世代を否定して若さを証明するのでなく、変えるものと守るものを言語化しなければならない。

事業承継の本当の瞬間は就任式ではない。難しい判断で会長と社長の意見が分かれた時、誰の決定が会社を動かすかである。

なぜ持株会社にするのか

目的可能性注意点
経営と事業の分離持株会社が資本、人材、戦略を管理し、各社は顧客へ集中。会議と管理費だけ増やさない。
事業別採算旅行、国際、周辺事業の成績を見えやすくする。社内取引で実態を隠さない。
M&A・提携新会社の取得、売却、共同事業を設計しやすい。買収後の統合能力が必要。
承継グループ支配と事業運営を分け、株式承継を整理。所有と経営の責任を透明にする。

持株会社は魔法ではない。組織図を増やすだけなら意思決定は遅くなる。価値が生まれるのは、投資基準、グループ人事、データ基盤、ブランド、リスク管理を共通化し、各事業へ明確な権限を渡す時だ。

日本の同族企業が直面する「2025年問題」の先

日本の中小企業経営者は高齢化し、後継者不在による廃業が政策課題になった。黒字で技術や顧客を持つ会社でも、継ぐ人と準備がなければ消える。政府は事業承継税制、M&A支援、金融支援を拡充してきた。

家族内承継には長期志向、文化、迅速な信頼移転という強みがある。一方、血縁が能力評価を曖昧にし、社員の昇進意欲を弱める場合がある。重要なのは「家族だから社長」ではなく、経験、成果、選任プロセス、取締役会の監督を説明できることだ。

旅行会社は何を売る会社なのか

1964年の旅行業は、情報、航空券、団体手配へのアクセスが価値だった。インターネットとOTAは検索、比較、予約を顧客へ移した。航空会社とホテルの直販も進み、単純手配の利益は薄くなった。

しかし旅行会社が不要になったわけではない。団体、ファンクラブ、スポーツ、教育、法人、複雑な国際手配、事故対応、地域体験では、調整と責任が価値になる。ビッグホリデーは旅行、航空券、団体旅行、企画販売を展開し、2026年には芸能事務所やファンクラブ向けツアー支援も発表した。

新社長の課題は予約をオンライン化するだけではない。「手配会社」から、顧客コミュニティと目的を理解し、旅行体験を設計・運営する会社へ進めるかである。

DXはウェブサイト改修ではない

段階旧来次の経営
販売電話、窓口、紙パンフ。顧客データ、直接販売、個別提案。
商品大量造成した同一ツアー。テーマ、地域、ファン別の小ロット商品。
運営担当者の経験と表計算。在庫、収益、事故情報を統合。
顧客関係旅行ごとに終了。再旅行、会員、コミュニティへ継続。
AI文章作成の省力化。需要、価格、提案、問い合わせ、危機対応を補助。

AIは旅程案、多言語案内、問い合わせ分類、需要予測に使える。しかしパスポート、ビザ、運賃条件、安全情報の誤りは顧客へ実害を与える。AIを速い下書き担当として使い、最終責任を旅行会社が持つ設計が必要だ。

若い経営者が持つ三つの優位

第一は顧客行動との距離だ。検索、SNS、動画、コミュニティ、モバイル予約を自分の生活として理解しやすい。第二は人材市場。若い社員が欲しい働き方、評価、学習を組織へ反映できる。第三は時間軸である。短期の退任を前提にせず、十年単位の基盤投資を考えられる。

ただし若さは、危機経験と交渉経験の不足にもなる。旅行業は感染症、地震、台風、戦争、為替、航空障害で一夜に変わる。会長の経験を「口出し」として排除せず、危機の型を会社の知識へ変える必要がある。

社員は何を見て新体制を信じるか

社員は演説より、昇進、予算、会議、失敗への反応を見る。新社長がDXを語りながら、決裁は紙と年功序列のままなら信頼されない。役員だけが家族で占められ、非家族社員に経営への道がなければ、優秀な人ほど去る。

持株会社には、グループ横断の人事、専門職キャリア、若手登用、経営人材育成を作る好機がある。次の社長が必ずしも家族でなくても会社が続く仕組みを作れれば、今回の承継は制度になる。

最初の1,000日で見るべき数字

領域見る数字
顧客直接予約率、再購入率、紹介率、苦情解決時間。
商品ツアー別粗利益、取消率、在庫消化、企画から発売までの日数。
組織離職、女性・若手管理職、内部登用、研修後の成果。
DX手入力削減ではなく、売上・利益・処理時間への効果。
ガバナンス会長と社長の権限、投資基準、取締役会での反対意見。

就任直後の売上は前体制の商品と市場環境の影響が大きい。三年後に、顧客基盤、人材、データ、利益構造が強くなったかを見るべきだ。

「100年企業」への残り38年

会社は100年企業を目指すと語る。1964年創業なら2064年が百年目である。弘利氏は70歳前後でその年を迎える。これは象徴以上の意味を持つ。今の投資、文化、後継者育成がその時間軸に耐えるかを問えるからだ。

世襲は成功でも失敗でもない。持株会社化も成功ではない。真価は、創業家の信頼を組織の能力へ変え、旅行の変化を顧客価値へ変え、次の承継を今回より容易にできるかで決まる。

32歳の社長就任は若さのニュースで始まる。しかし優れた承継なら、最後には年齢がニュースでなくなる。会社が誰か一人の長寿ではなく、世代を超える制度で動くからである。

出典・参考資料