地域の困りごとを、続けられる仕事に変えられるか。秋田大学が9月30日に開講する「スタートアップ実践」は、人口減少、公共交通、まちのにぎわいを題材に、学生が事業の組み立て方を学ぶ授業だ。市役所や企業の実務家との対話を通じて、課題の発見から事業化の検討までを扱う。[1]
秋田で新しい事業を考えるなら、便利さを提案するだけでは足りない。誰が利用し、誰が費用を負担し、誰が現場を担うのか。その問いを地域の事情に即して掘り下げることが、この授業を読み解く手がかりになる。
市長が教室へ。全学部の学生が学ぶ8回
初回には、秋田市長の沼谷純(ぬまや・じゅん)氏が秋田大学客員教授として登壇する。講義テーマは「市政の現状とこれから」。大学は、市との連携協定に基づく起業家養成の取り組みと位置づけている。氏名の読みは市の公式紹介で確認できる。[1][2][3]
| 科目名 | スタートアップ実践 |
|---|---|
| 開講期間 | 2026年9月30日〜11月18日、毎週水曜日、全8コマ |
| 時間 | 12:50〜14:20(日本時間) |
| 対象 | 全学部の1〜4年次 |
| 会場 | 手形キャンパス・研究・イノベーション拠点1号館106室(秋田市手形学園町1-1) |
以上は9月10日付の大学発表に基づく予定だ。[2]
市長の登壇は入口である。自治体の説明を聞いて終わるのか、それとも、説明の中にある前提を問い直せるのか。例えば「利用者が少ない」という課題も、利用したい時間にサービスがないのか、情報が届いていないのか、そもそも必要とされていないのかで、考える事業は変わる。実務家との対話には、その違いを見極める意味がある。
人口減少を、一つの数字で片づけない
秋田県の8月1日現在の推計人口は86万3,586人。前年同月より1万7,288人、1.96%減った。年間の減少の内訳は、死亡が出生を上回る自然減が1万3,242人、転出が転入を上回る社会減が4,046人だった。県全体の数字であり、秋田市だけの人口ではない。[4]
若者の流出を防ぐことと、人口が減る中で暮らしを支えることは、重なりながらも異なる課題だ。新しい職場を生み出しても、直ちに人口全体の減少が止まるとは限らない。一方、住民の数が減っても、買い物や通院、家族の世話といった用事はなくならない。
事業を考える際には、地域全体の市場規模だけでなく、具体的に誰の負担をどれだけ減らせるかを見る必要がある。利用者が少なくても切実な需要はあり得る。ただし、その切実さがそのまま売上になるわけではない。利用する人、費用を負担する人、サービスを提供する人が異なる場合も含めて、仕組みを考えなければならない。
公共交通は「アプリを作る」の先にある
身近な交通の例が、秋田市中心部を巡る循環バス「ぐるる」だ。市の案内では1日16本、1周約35分、乗車1回100円。買い物や観光の移動を支える既存の仕組みである。[7]
ここから先は、授業で決まった課題ではなく、事業を検討する際の論点である。仮に移動の不便を減らすサービスを考えるなら、まず既存の路線や利用案内で解決できる部分を調べたい。情報を分かりやすくすれば済む問題と、運ぶ人や車両が足りない問題は違う。
予約画面が使いやすくても、その時間に車両を動かせなければ用事は済まない。逆に、新しい車両を用意せずとも、目的地までの行き方が分かるだけで助かる人はいるかもしれない。小さな検証を重ね、何が本当の障害なのかを確かめることが、提案の説得力を左右する。
にぎわいづくりでも同じだ。イベント当日の来場者数と、翌月の再訪、商店の継続的な売上は別の指標になる。「人が来た」の先にどんな変化を目指すのかを決めておかなければ、催しの成功と事業の持続性を取り違えてしまう。
鉱山と教員養成から続く、地域との関係
秋田大学は1949年、秋田師範学校、秋田青年師範学校、秋田鉱山専門学校を母体に発足した。鉱山専門学校の創立は1910年で、採鉱と冶金の学科を置いた。産業を支える技術者と教育を担う人材を育てるという、地域との長い関係が大学の出発点にある。[5][6]
近年の起業教育にも蓄積がある。大学の沿革には、2008年の秋田市との包括協定、2015年の北都銀行による寄附講座「『起業力』養成講座」の設置が記されている。今回の開講を、秋田大学が初めて地域や起業に向き合う出来事と捉えるのは正確ではない。[5]
この歴史から読み取れるのは、地域が必要とする力を大学がどう育てるかという問いの継続だ。鉱山技術の習得と、生活サービスの事業設計は同じではない。それでも、知識を現場の仕事につなげるという視点は、今回の授業を考えるうえでも有効だ。
市の実証事業はある。ただし授業とは別
秋田市は別の施策として、スタートアップとの協働による実証を進めている。3月24日の「秋田市を変えろ!市長即決ピッチ2026」では4者がパートナーに選定された。市は、選定された事業者の実証経費に対する補助を、要件付きで上限100万円としている。[8]
行政に提案し、現場で試す仕組みが地域にあることは、学生が将来の道筋を考える参考になる。ただし、この市の事業と大学の授業は区別すべきだ。授業の履修が補助金の交付や市との契約に直結するとは、公表資料からは確認できない。
提案の発表、実証、事業の継続は、それぞれ別の段階である。住民に試してもらうには準備が必要で、試した後には結果を評価する必要がある。うまくいかなかった理由を説明できれば、それも次の計画を立てるための知識になる。
授業の成果を、会社の数だけで測らない
9月18日の取材資料確認時点で、授業はまだ始まっていない。学生の提案も、事業化の成果も、これからの話だ。短い期間で起業件数や人口への効果を求めれば、学びの過程を見失いかねない。
今後、注目したいのは、学生が最初の思い込みをどれだけ修正できるかである。必要だと思ったサービスを住民は本当に使うのか。費用の見積もりに運営する人の時間が含まれているか。既存の企業や団体と協力した方がよい部分はないか。こうした問いに根拠をもって答えられることは、自分で会社をつくる場合にも、地域の企業で新しい仕事を担う場合にも役立つ。
秋田の課題を、学生がただ学ぶ対象にとどめず、自分の判断と責任が及ぶ仕事として考える。その第一歩を支えられるかどうかが、9月30日に始まる授業の見どころとなる。

