森に仕事を、町に仲間を――愛別の新しい試み
北海道上川地方、旭川市の北東に位置する愛別町。きのこの産地として知られるこの小さな町で、2026年11月1日、「HOME MADE TOWN(ホームメイドタウン)」という官民連携のまちづくりが始まった。掲げるのは「手づくりの、まちづくり」。目新しい建物を建てる計画ではない。町役場、森林組合、商工会、民間企業が地域おこし協力隊の受け入れ方を見直し、人と仕事、住まい、森を結び直す構想である。発表されたのは10月31日。開始から間もないため、成果と構想を混同しないことが必要だ。
人口2294人という現在地
愛別町の公式サイトは2026年8月31日現在の人口を男性1093人、女性1201人、計2294人、1252世帯と表示している。2026年1月1日の住民基本台帳人口は2332人で、基準日が違うため同じ時点の数字として扱えない。少人数の町では、担い手が一人増えることが仕事や地域活動の継続に影響し得る。一方、一人の移住だけで人口減少が反転するわけではない。人口統計は危機を示すだけではなく、これまでの暮らしを誰がどう受け継ぐのかという問いを突きつける。
1972年に始まった「きのこの里」の物語
愛別の産業史には、変化へ対応して仕事をつくった先例がある。町の公式資料によると、1972年に2戸の農家がえのき茸の栽培施設を設けたことが、きのこ産地形成の始まりだった。その後、なめこ、まいたけ、しいたけへ生産が広がった。農業振興計画は、石狩川と愛別川流域の農地で米、麦、大豆、そば、施設野菜などが営まれていることも記す。きのこだけの町でも、林業だけの町でもない。多様な一次産業をどう次の世代の働き口に変えるかが課題となる。
「地域おこし協力隊」は何を担う制度か
地域おこし協力隊は、都市部などから条件に合う地域へ住民票を移し、一定期間そこで生活しながら、農林水産業、地域産品の開発、情報発信、住民支援などに携わる制度だ。総務省が2009年度に始め、任期は一般に1~3年。全国の自治体が活用する一方、任期終了後に安定した仕事と住まいを得られるかは地域ごとの課題である。愛別町も以前から移住コーディネーターや情報発信、教育、生活支援など複数の隊員を募集してきた。今回の新しさは、制度そのものではなく、地域の受け入れ組織と仕事の現場をより緊密につなぐ構想にある。
役場、森林組合、商工会、EFCの役割
10月31日の発表によれば、推進体制には愛別町役場総務企画課、愛別町森林組合、愛別商工会、株式会社EFCが名を連ねる。役場は制度と行政調整、森林組合は山の現場、商工会は地域事業者との接点を持つ。EFCは事業の伴走支援を担うと説明されている。ただし具体的な委託契約額、各団体の責任分担、隊員の雇用形態や評価方法までは公表資料で確認できなかった。体制図があることと、責任や予算が透明であることは同義ではない。今後の情報公開が重要になる。
一つ目の柱は「森で働く」こと
森林組合と連携する計画では、森林整備の現場で技術を学び、町産材を使った製品づくりや木育、体験活動、林業の魅力を伝える情報発信などを検討する。木材を使う地域産業は、原木を出荷するだけではなく、加工、教育、観光、販売など多段階で価値を生める可能性がある。ただし加工施設の新設、商品化、売上、雇用の実現が発表されたわけではない。森林を守る労働の安全性、冬季作業、搬出費用、木材需要を検証することも不可欠だ。
もう一つの柱は「暮らしと仕事をつなぐ」こと
愛別商工会との計画では、交流拠点「蔵KURARAら」を中心に町の事業者への聞き取り、仕事と空き家の情報収集、移住・起業相談の窓口づくりを進めるという。人が移住する際に必要なのは、求人票だけでも住居だけでもない。収入の見込み、保育や医療へのアクセス、冬の交通、仕事を相談できる相手がそろって初めて暮らしが続く。今回の発表は、その複数の課題を一体として扱おうとしている点に特徴がある。窓口の開設日や相談実績はまだ示されていない。
財源の議論は一般制度と個別事業を分けて
地域おこし協力隊には国の財政措置があり、活動費や募集、起業支援などに上限額が設定される。だが、制度上の上限はHOME MADE TOWNへの確定交付額ではない。11月1日時点で確認できた発表には、プロジェクト総予算、愛別町の年度別負担、株式会社EFCへの委託金額、隊員の採用人数や給与条件の確定値は記載されていない。事業費を「国が全額負担する」と説明することもできない。町の予算・議会資料、契約、募集要項を今後照合する必要がある。
住民の声を誰が聞き、誰が決めるのか
発表元は、計画前に役場や受け入れ団体、EFCが対話とワークショップを重ねたと説明する。ただし参加者の構成、住民の賛否、具体的な提案がどう採用されたかは明らかではない。町づくりを官民共創と呼ぶのであれば、長く暮らしてきた人、若い世帯、商店の経営者、林業の担い手、移住者の異なる声を示す必要がある。本記事では当事者への直接インタビューを実施しておらず、住民の感想や賛同を創作していない。事業の次の検証はまさにここから始まる。
菌糸をモチーフにしたシンボル
HOME MADE TOWNのシンボルには、愛別のきのこを象徴する菌糸が用いられたという。菌糸は地中や木材に広がる細い糸状の構造で、つながりを表す比喩としては分かりやすい。ただし町のつながりはロゴだけでは生まれない。協力隊員がどの組織で、誰に教わり、何を作り、任期後にどこで働くか。毎日の小さな関係を育てる制度設計が問われる。
「成功」をどう測るか
開始直後の段階で成功・失敗を断じることはできない。追跡すべき数字は、採用された隊員数だけではない。林業技能の取得、町産材を使う商品や事業の継続、空き家相談から入居への転換、新規起業と採算、任期終了後の定着率、受け入れ事業者と住民の評価が重要になる。とりわけ住民の負担が増えていないか、公共資金に対する説明責任が果たされているかを確認したい。
町の未来は「完成予想図」では見えない
愛別の歩みは、農業の形を変え、きのこ産業を育ててきた地域の歴史でもある。今回の事業はその延長線上で、林業と移住支援という別々の政策を地域の仕事に結びつけようとしている。今はまだ、募集と活動設計の段階だ。町を変えるのは「地方創生」という大きな言葉ではなく、冬を越えて続く仕事と暮らしだろう。数年後、愛別に残った人がこの企画をどう語るか。その時にこそ、HOME MADE TOWNの成果が見えてくる。
出典・取材方法
10月31日の事業発表、愛別町の公開資料、総務省関連資料に基づく文書取材。住民や事業者への独自インタビューは実施していない。募集・予算・実績の未公表部分は推測で補っていない。
