温度の色だけでは、故障原因は見えない

演算中の半導体を赤外線カメラで見ると、熱い場所は白や赤、冷たい場所は青に塗られる。画面は雄弁だ。だが「ここが熱い」という答えと、「なぜ熱が逃げないのか」という答えは違う。シリコンの下の接合材に微小な空隙があるのか。セラミック基板の熱伝導が場所ごとに違うのか。銅と絶縁層の界面が、熱の料金所のように流れをせき止めているのか。温度画像だけでは、原因が材料、界面、構造、発熱源のどこにあるかを分離しにくい。

ThermieL(サミエル)が売ろうとしているのは、もう一枚の温度写真ではない。対象に既知のリズムで小さな熱を与え、その応答がどれほど弱まり、どれほど遅れるかを画素ごとに読む。ドアの向こうを直接見る代わりに、一定の拍子でノックし、返ってくる音から壁の厚みや空洞を推し量るような測定である。

7月21日の発表で確定したのは、新製品の発売日や性能記録ではない。愛知県のアクセラレーション・プログラムに採択されたことだ。事業テーマは「オンプレミス型熱物性評価サービスの事業化および海外展開の構築」。ThermieLは現在、試料を預かる受託測定を提供しており、顧客企業内で継続的に評価できる形を目指す。中部経済産業局のイベント記録では、2026年度以降の市販化予定も示している。

2025年6月名古屋大学の研究成果とTongali GAPファンドを足場にThermieLを設立。
5社Aichi Deeptech Launchpad 2026年度アクセラレーション採択企業。ThermieLは研究開発費支給なし枠。
3つの熱物性会社が掲げる熱拡散率、熱伝導率、界面熱抵抗の二次元マッピング。
945 TWhIEAが2030年に見込む世界のデータセンター電力消費。2024年からほぼ倍増。
発表の価値は「チップの中が見えた」という完成宣言ではない。大学の逆問題計測を、企業が毎日使う道具へ変えられるかという事業化の始まりにある。

Thermospectは何をしているのか

会社の説明によれば、Thermospectの基盤は「ロックインサーモグラフィ式レーザー周期加熱法」だ。レーザー光の強さを一定周期で変え、対象表面をわずかに温める。赤外線カメラは時間とともに上下する表面温度を動画として取得する。解析側はレーザーの基準周波数に同期し、各画素の振幅と位相を取り出す。

振幅は、温度の波がどれほど強く届いたかを表す。位相は、加熱の拍子から応答がどれほど遅れたかを表す。熱が速く広がる材料では位相と空間減衰の形が変わる。界面に大きな熱抵抗があれば、熱流に対して温度差と遅れが生まれる。形状、厚さ、境界条件を入れた熱伝導モデルと観測を照合し、熱物性の分布を逆算する。

ここで三つの量を分ける必要がある。熱伝導率 k は、温度勾配に対してどれだけ熱が流れるかを示す。熱拡散率 α は、温度変化がどれだけ速く材料内へ広がるかを示す。密度 ρ と比熱 cp を使えば、理想化した関係は次のようになる。

熱拡散率 α = k / (ρcp)

したがって、熱拡散率の観測だけから熱伝導率を一意に得るには、密度と比熱、または体積熱容量について独立の情報や同時推定が必要になる。ThermieLは熱伝導率と体積熱容量を含む測定研究を公表しているが、商用サービスが各試料で何を入力値とし、何を独立に求めるかは公開資料に詳しくない。画面に色が出るまでの数理的仮定こそ、購入者が確認すべき中核である。

ロックインは、雑音の中から同じ拍子だけを聴く

赤外線カメラには検出器の雑音、室温の揺れ、空調、周囲からの反射が入る。弱い加熱信号を一枚の画像から取り出すのは難しい。そこで加熱を既知の周波数で繰り返し、同じ周波数・位相で現れる成分だけを長い時間積算する。関係のない揺れは平均すると相殺され、基準と同期する小さな応答が残る。

位相敏感検波と呼ばれるこの発想は、1930年代から40年代に発達した。ロバート・ディッケは1946年、マイクロ波の弱い熱放射を切り替えて検出する放射計を発表した。現代のデジタル・ロックインでは、入力信号を基準の正弦波・余弦波と掛け合わせて積分し、同相成分と直交成分を求める。赤外線動画なら、画素の一つ一つが小さなロックイン増幅器につながっているように計算できる。

この方法の利点は感度だけではない。位相は表面の放射率や不均一な照明強度の影響を、単純な温度振幅より受けにくい場合がある。ただし無関係ではない。金属の鏡面反射、黒色塗膜、表面粗さ、レーザー吸収率、対流と放射損失、カメラの波長帯は結果を変えうる。低い信号を回収できても、誤ったモデルを正しい値に変える魔法ではない。

周波数を変えると、熱が探る深さが変わる

周期加熱で生じる「熱波」は、電磁波のように遠くまで一定速度で進む波ではない。拡散するにつれて急速に弱まる。単純な一様材料なら、温度変動が届く代表的な長さ、熱拡散長 μ は概ね次で表せる。

熱拡散長 μ = √(α / πf) (f は加熱周波数)

周波数を下げれば一周期が長くなり、熱は深く広がる。周波数を上げれば浅い領域へ敏感になり、測定は速くなるが信号が小さくなることもある。複数周波数の応答を比べれば、層や方向による違いを推定する手がかりが増える。これは周波数領域サーモリフレクタンスなど他の光熱計測にも共通する考えだ。

しかし「低周波ならチップの奥がそのまま見える」とは限らない。深い信号ほど横方向にぼけ、複数の層の効果が重なり、未知パラメーター同士が似た応答を生む。赤外線カメラの画素と光学分解能、レーザースポット、熱拡散そのものが空間分解能を制限する。どの深さをどの分解能で識別できるかは、材料の α、層厚、周波数範囲、信号対雑音比とモデルに依存する。

「内部を描く」の正確な意味

見出しの「半導体の中」は、比喩と測定物理を切り分けて読む必要がある。赤外線カメラが直接観察するのは、光学的に見える表面から放射される赤外線である。X線CTのように不透明なパッケージを透過し、内部の三次元温度場を撮影するわけではない。レーザーで作った表面応答が、下層や界面の熱輸送の影響を受けるため、その応答から内部パラメーターを推定する。

したがって「非接触」は、熱電対や探針を押し当てず、加熱と検出を光で行うという意味だ。「非破壊」は、試料を切断して断面を露出させる必要を減らせるという意味であり、何の条件も要らないという意味ではない。表面へ光が届くこと、測定に適した吸収・放射条件、既知または推定可能な厚さと境界条件が要る。レーザーはわずかでも熱を加えるので、敏感なデバイスでは温度上昇の管理も必要だ。

公開発表は、Thermospectの空間分解能、視野、測定時間、測定可能な厚さ、レーザー波長・出力、赤外線帯域、精度、不確かさ、繰り返し性、標準試料による校正、必要な表面処理を示していない。これらが欠けたまま「高速」「高精度」「内部」といった言葉だけを比較することはできない。

手法主に得る情報強み主な制約
熱電対・抵抗温度計接点の温度安価、校正が明確接触と配線、局所点、センサーが熱場を乱す
受動赤外線サーモグラフィ表面温度の二次元分布高速、広い視野、非接触放射率と反射、原因となる物性を直接分離しない
レーザーフラッシュ法試料厚さ方向の代表熱拡散率確立したバルク評価、規格が豊富平板試料と裏面検出、局所分布には弱い
ロックイン周期加熱振幅・位相から熱物性の面分布を推定弱い周期信号、異方性・不均一・界面を画像化モデル、表面条件、周波数、熱ぼけに依存
TDTR / FDTR薄膜・界面の熱伝導と熱コンダクタンスミクロ〜ナノスケール、高時間分解能高価な光学系、金属トランスデューサーや点走査、解析感度
X線CT / 超音波空隙、亀裂、層剥離などの構造内部形状を直接可視化できる場合熱物性そのものではない。材料と分解能に制約

1800年の温度計から始まった赤外線の系譜

1800年、天文学者ウィリアム・ハーシェルは太陽光をプリズムで分け、各色の温度を測った。赤の外側に置いた温度計がさらに上がり、目に見えない赤外線が発見された。最初の「赤外線カメラ」はなく、一本の温度計が見えない光の存在を知らせた。

1822年、ジョゼフ・フーリエは『熱の解析的理論』を出版し、温度の分布が時間と空間でどう変わるかを数学へ落とし込んだ。Thermospectが解く数理モデルの遠い祖先である。1961年にはW・J・パーカーらが、薄い試料の表面へ短い光パルスを当て、裏面温度が上がる時間から熱拡散率を求めるフラッシュ法を報告した。今日のレーザーフラッシュ測定として広く使われる。

ロックインサーモグラフィは、短い一撃ではなく周期的な加熱を使い、赤外線カメラの全画素へ位相敏感検波を広げた。1990年代から2000年代には、集積回路、太陽電池、接合不良、複合材料の欠陥検査へ応用が進んだ。一方、時間領域サーモリフレクタンス(TDTR)は超短パルスのポンプ・プローブ光で薄膜と界面を測り、2004年のデビッド・ケーヒルの層状構造解析は現代的な基盤の一つになった。

ThermieLの独創性を評価するには、この蓄積を認める必要がある。レーザー、赤外線、ロックイン、熱伝導方程式のどれも同社が発明したものではない。競争力が生まれるとすれば、表面加熱・表面検出で異方性材料や層間界面をどう安定に逆算するか、装置とソフトをどれだけ小さく頑丈にし、専門家でない顧客が再現できる手順へ落とすかにある。

炭素繊維、リュウグウ、月の砂から半導体へ

ThermieLの技術史は、半導体工場だけで始まらない。名古屋大学の長野方星研究室と藤田涼平氏らは、炭素繊維強化プラスチック(CFRP)の繊維方向や疲労損傷を、熱拡散率の異方性と変化から読む研究を続けてきた。炭素繊維は軸方向へ熱を通しやすいため、熱の広がり方は内部配向の指紋になる。2022年の研究では、初期疲労負荷で有効熱拡散率が最大17%低下したと報告した。

さらに研究チームは、はやぶさ2が持ち帰った小惑星リュウグウの約1ミリの試料へ顕微ロックイン周期加熱を応用した。貴重で不規則な六つの粒子を壊さず、亀裂と空隙による局所的な熱異方性を得た。2025年にはApollo 17の月レゴリス粒子の熱拡散率・熱伝導率・熱慣性も調べた。試料を切り刻めない、場所ごとの差が重要、少量しかないという宇宙試料の制約が、非接触・空間分布測定を鍛えた。

藤田氏の研究者プロフィールには、半導体放熱基板の界面熱抵抗、ハイブリッドボンディング、マイクロメートル級単線、高熱伝導複合材、CFRP、リュウグウ、月試料が並ぶ。2025年のIEEE Hybrid Bonding Symposiumではロックインサーモグラフィによる非接触熱接触抵抗測定を発表した。2024年には同テーマの半導体放熱基板研究でエレクトロニクス実装学会の研究奨励賞を受けた。

この経歴は技術の適用幅を示すが、宇宙試料で有効だった手順が、そのまま量産半導体ラインの速度、汚れ、ばらつきに耐える証拠ではない。研究装置から工業製品へ移ると、操作手順、校正、保全、ソフト更新、統計的工程管理、トレーサビリティが主役になる。

なぜ今、チップの熱が経営課題なのか

長く半導体産業は、トランジスタを小さくすれば一個あたりの電力も下げられるというデナード・スケーリングの恩恵を受けた。2000年代半ばにその均衡が崩れ、動作周波数を上げ続けると電力密度と発熱が限界へ近づいた。そこで多コア化が進み、今日のAIアクセラレーターは多数の演算器と高帯域メモリーを近接させる。

2.5Dパッケージ、チップレット、積層メモリー、3D実装は、配線を短くして帯域と性能を上げる一方、熱源を近づけ、熱の逃げ道を複雑にする。IEEEの2024年IRDSメトロロジー・ロードマップは、高密度チップレット統合が熱拡散を制限し、界面熱特性、熱負荷の検証、新しい冷却、新しい熱計測、不確かさモデルを重要課題に挙げた。

AIは装置の外側でも圧力をかける。国際エネルギー機関(IEA)は、世界のデータセンター電力消費が2024年から2030年にほぼ倍増し、約945TWhに達すると見込む。日本では同期間に約80%増える予測だ。電力のすべてがチップの熱になるわけではないが、サーバーに投入された電力の大部分は最終的に熱として除去しなければならない。冷却設備を大型化する前に、ダイ、接合、基板、ヒートスプレッダーのどこで熱抵抗が増えているかを知ることは、性能、寿命、電力、歩留まりの共通課題になる。

界面は薄いが、ボトルネックは大きい

半導体パッケージでは、熱は発熱するダイから接合材、アンダーフィル、インターポーザー、基板、熱界面材料、ヒートスプレッダー、冷却器へ移る。層そのものが高熱伝導でも、二つの材料が接する境界で熱キャリアが散乱し、微小な空隙、粗さ、不十分な接着が抵抗を増やす。

界面熱抵抗 R は、簡略化すれば熱流束 q に対する界面温度差 ΔT の比で表す。薄い界面でも R が大きければ、そこへ温度差が集中する。電気配線の接触抵抗が小さな接点で電圧降下を生むのに似ている。局所的なボイドがあると、平均値が同じでもホットスポットが生まれる。

界面熱抵抗 R = ΔT / q (単位面積当たりなら m²K/W)

既存のレーザーフラッシュや定常法は試料全体の代表値に強い。ところが設計者が知りたいのは、10ミリ角の基板のどこが悪いか、繰り返し加熱の後にどこが変わったかである。ThermieLが本当に再現性ある二次元分布を提供できれば、材料選定だけでなく、接合条件、硬化、圧力、表面処理の工程最適化へつながる。

測定はシミュレーションの競争相手ではない

半導体の熱設計は有限要素解析や数値流体解析で行う。だがモデルは入力値以上に正しくならない。材料カタログの熱伝導率は均一なバルク値で、実際の薄膜、複合材、接合層と異なる。界面抵抗は組立条件で変わり、異方性や局所ボイドを平均値へ潰すと、予測と実機のホットスポットがずれる。

ThermieLは、開発初期から実測を設計へ返し、試作とシミュレーションの往復を短くするという。ここでの価値はシミュレーションを捨てることではない。面分布の測定でモデルを較正し、設計変更後の予測を実機で検証し、ずれた場所から原因を探す閉ループを作ることだ。

その価値を金額へ変えるには、測定がどの意思決定を早めたかを示す必要がある。「きれいな地図」ではなく、材料候補を何枚減らしたか、解析の不確かさをどれだけ下げたか、故障解析の日数、試作回数、廃棄、保証費をどう変えたかが顧客指標になる。

受託測定からオンプレミスへ

受託測定は、若い計測会社にとって合理的な入口だ。複雑な装置を自社の専門家が操作でき、顧客は大きな設備投資なしに試料を評価できる。多様な材料を測るほど、どこでモデルが外れるか、どの表面処理が必要かという暗黙知が会社へ蓄積する。

一方、先端半導体の試料は外へ出しにくい。未発表の材料組成、パッケージ断面、工程条件、不良位置そのものが知的財産である。評価頻度が上がれば、試料発送と順番待ちも設計サイクルを遅らせる。顧客施設へ装置や評価機能を置くオンプレミス型は、機密、時間、継続測定の三つを解く可能性がある。

しかし事業モデルは難しくなる。装置販売なら一度の売上が大きいが、設置先ごとの保守、校正、教育、ソフトウェア更新、レーザーと赤外線カメラの部品供給が要る。「サービス」と呼ぶなら、装置を置くだけでなく、解析モデル、リモート支援、結果レビューを月額で提供するのか。顧客データを外へ出さずにどうサポートするのか。海外展開ではレーザー安全、輸出、電源、現地校正と修理、標準化まで加わる。

Aichi Deeptech Launchpadは、メンタリング、地域企業とのマッチング、PoC、海外展開、人材、広報を支援する。ThermieLは五社のうち「研究開発費支給なし」枠である。採択は重要な接点を提供するが、補助金の交付、製品認証、測定性能の第三者保証を意味しない。

国際標準は、地味だが強い堀になる

計測装置の商売では、特許や分解能だけでなく「誰が測っても比べられる」ことが競争力になる。藤田氏は2026年4月から、ロックインサーモグラフィ式レーザー周期加熱によるセラミック放熱回路基板の熱物性評価の国際標準化委員会に参加している。標準は、試料形状、表面処理、周波数、校正、解析、不確かさ、報告書式を共通化する。

標準化は新会社に二面性がある。自社ノウハウを公開しすぎれば差別化が薄れる。一方、購入者が「その値は何と比べられるのか」と問う市場では、独自尺度だけの装置は採用しにくい。測定原理を標準へ開きながら、解析の速さ、適用範囲、ソフト、サービス、データベースで差を作る方が、国際市場では持続しやすい。

購入前に尋ねるべき15の問い

領域確認すべき問い
測定対象バルク、薄膜、積層、実装済みデバイスのどこまで対応するか。必要な厚さ、平坦度、表面処理、レーザー吸収は。
分解能画素寸法ではなく、標準試料で検証した実効空間分解能、視野、識別可能な最小欠陥は。
深さ各材料・周波数で感度がある深さは。隣接層のパラメーターをどう分離するか。
精度熱拡散率、熱伝導率、界面熱抵抗ごとの不確かさ、繰り返し性、装置間再現性は。
逆解析密度、比熱、層厚、境界条件、異方性、対流、放射率のどれを既知と仮定するか。
校正トレーサブルな標準物質、日常点検、ドリフト監視、再校正周期は。
生産性一試料の準備、測定、解析時間、バッチ処理、オペレーター介入、合否判定は。
安全レーザークラス、囲い、インターロック、発熱上限、デバイス損傷の検証は。
ソフト生データ、モデル、フィット残差、不確かさを出力できるか。独自形式から移行できるか。
実績査読論文と商用装置の構成差は。顧客試料で既存法とブラインド比較した結果は。
保守カメラ、レーザー、光学部品の寿命、交換時間、国内外のSLA、予備部品は。
機密解析データ、試料画像、モデル学習、リモート接続、バックアップの場所と権利は。
標準どのJIS、ISO、ASTMまたは開発中の標準と比較できるか。
経済性装置、設置、教育、校正、保守を含む総保有コストと、受託測定の損益分岐は。
出口事業停止、契約終了、ソフト更新終了時にデータ、校正、解析手順をどう引き継ぐか。

最良の実証は、メーカーが選んだ見栄えの良い試料ではない。顧客が秘密保持の下で持ち込む既知値の標準、良品、不良品、境界事例を混ぜたブラインド試験だ。既存のレーザーフラッシュ、TDTR、断面解析、超音波、電気特性と照合し、どの条件で一致し、どこで失敗するかを残す。測定会社の信用は、成功例の数だけでなく、適用限界を正確に断る能力から生まれる。

熱の地図は、冷却装置ではない

Thermospectがどれほど精密でも、チップを一度も冷やさない。熱伝導率の地図はヒートシンクではなく、界面熱抵抗の画像は冷却水ではない。価値は、設計者が暗闇の中で材料と工程を選ぶ時間を減らし、熱が詰まる場所へ対策を集中できることにある。

ThermieLには魅力的な起源がある。宇宙から戻った一ミリの粒を壊さず読むために磨かれた方法が、AIサーバーや電気自動車のパワー半導体へ向かう。名古屋大学、愛知の自動車・材料・製造企業、半導体コミュニティが近いという地理も、実証の土壌になる。

同時に、2026年7月の会社は設立一年余りだ。発表はアクセラレーター採択で、公開された商用ベンチマーク、価格、顧客名、量産導入数、標準適合証明はない。「高速」「非破壊」「可視化」は会社の表現であり、分解能と不確かさがなければ競合と比較できない。大学の論文は原理と研究能力を支えるが、Thermospectという製品の全性能を自動的に証明しない。

半導体産業は、見えないものを測れるようにするたびに前進してきた。線幅、膜厚、欠陥、電気信号は、測定できて初めて工程管理の対象になった。熱も同じだ。温度の「結果」から、材料と界面の「原因」へ地図を一層深くできるなら、小さな名古屋の会社は大きな設計ループを変えうる。

熱の地図はチップを冷やさない。だが、どこを直せば冷えるのかを示せるなら、試作と推測の暗闇を短くする。それがThermieLに問われる本当の性能だ。

主な出典・調査方法

編集部注:本稿の直接のニュースは、ThermieLがAichi Deeptech Launchpadの研究開発費支給なし枠へ採択されたことと、受託測定からオンプレミス型評価・海外展開を目指すことだ。採択は資金交付、製品認証、精度保証、商用化完了を意味しない。熱拡散率、熱伝導率、界面熱抵抗の非接触・非破壊マッピング、速度と用途は会社および大学の公表内容であり、Thermospectの空間分解能、測定時間、価格、精度、不確かさ、校正、顧客実績は公開資料にないため推定していない。「内部を描く」は、表面の周期温度応答と熱伝導モデルから下層・界面の影響を推定する意味で、X線のような直接透視ではない。為替欄は指定された1ドル=162.49円と2026年7月21日1時27分UTCを、日本時間の同日10時27分へ変換した。メイン画像は現代の編集イラストで、歴史的な北斎作品や測定データではない。